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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
『炎の山』と狐人種の少女
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4.馬車内にて

 マルカットの突然な申し出に昴は難色を示した。ジェムルに言われたサリーナ地方に行くために昴は船が出ている街を目指していることを告げると、マルカットは嬉しそうに手を叩く。


「それなら私たちが目指しているガンドラの街から船が出ています。目的地が一緒ならちょうどいいじゃないですか!」


 マルカットは満面な笑みを浮かべこちらへどうぞ、と半ば連れ去るような形で昴を馬車へと案内した。自分の目的地がガンドラの街だと分かり、そこへ向かうのならば、と昴も諦めたようにそれに従った。

 近くで見る馬車は大き目なワゴン車ぐらいの大きさであったが、半分以上は荷物を乗せるところであり、人は多くて四人乗るのが限度の広さであった。馬車内は小さい机を囲んでコの字型にソファが備え付けられており、乗り心地は良さそうだ。

 グランは一礼するとスコットを連れて荷物置きの方へ乗車し、デルは意気揚々と御者の席に座った。昴はミトリアとマルカットとともに馬車に入っていった。

 昴がソファに座るとすぐにミトリアが昴とマルカットに飲み物を出す。お礼を言いながら受け取り、口をつけるとミントのような香りが口いっぱいに広がった。


「おいしいですね、これ」


 日本では飲んだことのないおいしいお茶に目を丸くしながら昴は言った。


「これはミントの葉から作られたミントティーです。飲むとほのかな甘みが広がり、口の中に感じる爽快感が心地よい、とうちの商店の人気商品となっています」


 昴の飲みっぷりに満足そうなマルカット。喉が渇いていた昴は一気に飲み干すと、ミトリアがすぐにお代わりをいれてくれた。ちょっとがっつきすぎたかな、と内心恥じながら二杯目はちびちびと飲んでいった。

 少しすると馬車が動き始めた。しばらくぼーっと馬車の窓から景色を見ていた昴だったが、目にうつるのは草原ばかり。代り映えのしない景色に飽き飽きした昴はマルカットに話しかける。


「マルカットさんはガンドラの街の商人って言ってましたけどガンドラって大きい街なんですか?」


 昴の何気ない問いかけにマルカットとミトリアは少し驚いた表情を見せたが、マルカットはすぐに目を細めた。


「…えぇ。ガンドラは商業の街とも呼ばれています。街の西側に大きな山が、東側には海が広がっている特殊な地形で、そのおかげで海産物も山の幸も豊富にとれるため、商いにはもってこいの場所なのです。おかげで王都アレクサンドリアに勝るとも劣らない大きな都市になりました、ここからでも山が見えるはずですよ」


 マルカットは窓を開けると馬車の進行方向を指さした。昴も身を乗り出して指し示す方向を見ると雲に隠れた山の頂が見えた。ふもとにある街がまだ見えていないのに山が見えるということはかなりの大きさなのであろう。


「『炎の山』と呼ばれるあの山には珍しい山菜や生き物がおりましてね。商人自ら取りに行くこともあるくらいですよ。まぁその分魔物もいますからスバルさんが仕事を見つけるのに苦労はしないと思います」


「まぁ…そう、ですね」


 マルカットに意味ありげな笑みを浮かべられた昴は歯切れの悪い返事をした。そんな昴の様子を見てもニコニコとマルカットの表情は変わらない。


「スバルさんはどこのご出身ですかな?」


「えっと、アレクサンドリアです」


 いきなり飛んできた質問に平静を装いながら答える。


「アレクサンドリアですか。あそこの《海産亭》のパスタは絶品ですよね!」


「あぁーっと俺は食べたことないですけど、おいしいみたいですね」


 《海産亭》?なんだそりゃ?内心そんなことを思いつつもなんとかマルカットに話を合わせる。


「やはりそうでしたか…」


 昴の答えを聞いて確信を得たマルカットは不意に身を乗り出して昴に問いかける。


「スバルさん、あなたは異世界人ですね?」


「…は?」


 予想外のマルカットの発言に頭が真っ白になる昴。口をパクパクしている昴にマルカットは優しく微笑みかけた。


「ダメですよ、スバルさん。カマをかけた相手にわかりやすい反応を見せてしまっては」


「カマって…当てずっぽうですか!?」


 そんな不確かなやり方で確信を疲れた昴は驚きを隠すことができない。そんな昴を見てマルカットは首を横に振った。


「当てずっぽうというわけではありませんね…私がそう思ったのには三つ理由があります」


 マルカットは指を三本たてた。


「一つ、驚異的な強さ。二つ、ガンドラを知らないこと。そして三つ、冒険者ではないのに冒険者だと名乗ったことです」


「…………」


 昴は自分の背中に冷や汗が流れるのを感じた。ジェムルに異世界人であることは隠せと言われたばかりなのに初めて会った人に見破られるとは思いもよらなかった。


「王都アレクサンドリアで魔族に対抗するために異世界召喚が行われたというのは風の噂で聞いていました。五年前の魔族との戦闘を経験した我々は異世界人のその強さを知っています」


 マルカットはミントティーをすすりながら言った。


「アレクサンドリア出身であるならば…いやこの世界で生きている人ならば、よほどの事がないかぎり商業都市ガンドラを知らないはずがありません。それほどに大きい街なんですよ、ガンドラは」


「………俺が冒険者でないというのは?」


「あなたが冒険者であるはずがありません」


 昴の問いに満面の笑みをもって答えるマルカット。


「冒険者は倒した魔物のコアを回収します」


「魔物のコアを?」


 瘴気から生ずる純魔物、瘴気によって変異する魔獣、どちらも瘴気の塊であるコアを持っている。なぜそんなものをわざわざ回収するのか昴にはわからなかった。


「冒険者が冒険者ギルドに魔物を討伐した証としてコアを提出するのです。それに応じて冒険者ギルドが報酬を払う。そうでなくても魔物のコアというのは魔道具生成のために必要であったりするため、冒険者であるならば確実に魔物のコアは回収します。しかしスバルさんは'ブラックウルフ'を倒すだけでそのコアを回収しなかった。だから私はあなたが冒険者ではないと思ったのです」


 ぐうの音も出ないほどの正論に昴はがくっと肩を落とす。そんなのは城でもジェムルからも教わらなかったため、仕方がないといえば仕方がないことなのだが、それでも迂闊な自分が情けなくなってしまう。


「まさかそこまで見ているとは…」


「私は商人ですので、物も人も目利きをするのが仕事です」


 力なく答えた昴に、マルカットは笑顔で答える。


「知り合いに、異世界人であることは隠した方がいいと言われて自分なりに隠したつもりなんですけどね」


「…いい知り合いをお持ちのようだ。確かに異世界人のもつ力は悪用されやすいのでなるべく隠しておいた方がいいですね」


「まっ、早速ばれてしまったわけなんですが」


 落ち込む昴を見て、マルカットが「ちなみに」と少し意地の悪い笑みを浮かべた。


「《海産亭》は商業都市ガンドラが誇る名料理店なので一度食べてみてくださいね」


「…マルカットさんは本当にいい性格していらっしゃる」


 はぁーと大きなため息をついて持っているコップをグイっと飲み干し、ほとんどやけくそのようにおかわりをお願いした。ミストアが微笑みながら新しいミントティーを用意する。


「これからはアレクサンドリア出身ではなくてイムルの村出身と言った方がいいでしょう」


「イムルの村?」


「はい。『恵みの森』近くの小さな田舎町です。我々マルカット商人が時々物々交換をしに行く村なのですが、王都ともガンドラとも離れているため、そういった常識がなくても怪しまれません」


 マルカットもミントティーを飲み干すと「私もおかわりを」とミストアに頼んだ。


「それにしても異世界人というのは本当に強いのですね。まさか'ブラックウルフ'の群れをあんなにもあっさりと」


「俺は三ヵ月ほど前に皆とはぐれてしまって、ほんの少し前まで『恵みの森』の魔物でレベル上げをしてましたから多少は強くなっていると思います」


 ジェムルとの修行を思い出し、人知れず身震いをする昴。


「ほほう、レベル上げですか!スバルさんほどの強さならかなりの高レベルなんでしょうね」


 興味津々といった感じのマルカットのコップにミストアはミントティーを注ぎ、続けて昴のコップにも注ごうとする。昴はミストアに礼を言いながら苦笑交じりで答えた。


「そんな大したことは…たしか480くらいだったと思いますよ」


 昴の発言にマルカットの笑顔は凍り付き、ミストアのお茶を注ぐ手が止まった。二人の反応を見て昴不思議そうに首をかしげる。


「えーっと…なんか変なこと言いました?」


「スバルさん…今なんと言いましたか?」


 額から流れる汗をぬぐいながらマルカットが尋ねる。


「大したことはない、レベルは480くらいって言いました」


「よんひゃ…」


 今まで一言も発しなかったミストアが口に手を当てて目を見開く。マルカットも信じられないという表情で昴を見つめた。そんな二人の様子に昴も混乱していたが、我に返ったマルカットが神妙な顔で昴に告げる。


「スバルさん…あなたのレベルは他言しないほうがいいでしょう」


「え?」


「この世界の冒険者は駆け出しでレベル30程、熟練だとレベル250を超えるくらいです。ちょうどスコットがレベル100になります」


 マルカットの発言に今度は昴が驚く番であった。


「レベル500を超えれば冒険者として知らぬ者はいないくらいの強さになります。そんな中でレベル480などと言ったら、確実にスバルさんの強さに目をつける輩があらわれます」


「それは…かなり面倒くさいことになりそうですね」


 えぇ、とマルカットは重々しく頷いた。


「わかりました。じゃあレベルは48ということにしておきますね」


「その方が賢明でしょう」


 マルカットはふぅ、と息をつくとミントティーで喉を潤し、外を眺めた。


「街までまだ時間があります。おそらくアレクサンドリアでは生活に関する常識はほとんど習っていないでしょう。よろしければ私がこの世界のことを色々教えますがどうですか?」


「それは助かります。…でもいいんですか?」


「なにがです?」


「あなたなら俺のことをうまく利用できるんじゃないですか?」


 マルカットはゆっくりとコップを机に置くと、じぃっと値踏みをするように昴を見つめた。


「商人は利を産む物と仲良くなりたいものです。私の目利きがあなたとは仲良くしておけ、と囁いているのです。なのでスバルさんを利用するのではなく、スバルさんと共存していきたいと思っています」


 それに…、と一旦間を置くとマルカットはいたずらめいた笑みを昴に向けた。


「あなたを敵に回すと恐ろしそうだ」


 昴は頭をポリポリと掻くと、おもむろに手を差し出した。少し驚いた様子でマルカットが昴の顔を見る。


「俺も自分の目利きを信じることにします。改めてマルカットさん。よろしくお願いします」


 マルカットは表情を緩め、「こちらこそ」と昴の手を握った。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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