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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
『炎の山』と狐人種の少女
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3.ガンドラの商人

 昴は少し後悔していた。

 『恵みの森』を抜けたのち、人の気配を辿ってきてみれば、黒いオオカミに襲われているであろう集団に出会ったので、昴は咄嗟に'鴉'で攻撃をしたのだが…。助けたと思っていた二人が口をあんぐり開けてこちらを見ている。


「…もしかして飼いオオカミとかだった?」


 自分は余計なことをしてしまったのでは、と内心焦っていた昴は、先ほどから殆ど動かない二人に遠慮がちに声をかけた。昴の声にモノクルをかけた燕尾服の老紳士がハッとしたように反応した。そそくさと服についた土ぼこりを払い落とし、胸に手を当ててて昴に一礼する。その所作があまりにも絵になっていて、昴は思わず内心で感動していた。


「これはこれは…危ないところを助けていただき、誠にありがとうございました」


「やっぱ襲われてたんすね!余計なお世話だったのかもって思ってちょっと焦った…」


 燕尾服の男の言葉にホッと胸をなでおろす昴。


「いえいえ余計なお世話などとは───」


「お前スゲーな!!」


 燕尾服の男の言葉を遮り、鎧を着た三十歳くらいの男が昴にかけより肩を組んだ。その右手には狼の頭がぶら下がっている。


「え、えーっと…」


「マジで助かったぜ!今回ばかりは死を覚悟しちまったよ!」


「そ、そうか」


「まさかブラックウルフを一瞬でとはなー…そんな若いのに、もしかしたらAランク冒険者か?」


「あ、あぁ俺は」


「スコットさん、命の恩人が困っておりますよ」


 鎧を着た男の勢いにたじたじな昴を見て、燕尾服の男が窘める。鎧を着た男はいけねっ、と舌を出して昴から離れた。


「申し遅れました。私はあちらの馬車におられるマルカット様の執事をやっております、グランと申します」


「俺はマルカットさんの護衛のスコットってんだ」


 グランは背筋をピンと伸ばしながら、スコットはよろしく、と片手をあげながら自己紹介をした。


「俺はくす…昴」


 フルネームを名乗ろうとした昴だったが、この世界は貴族や王族以外は苗字を持たないということを思い出し、名前だけ名乗ることにした。


「スバル様ですね。よろしければ旦那様にご紹介したいのですが…」


「いやいや、そんな大したことしてないから」


 あわてて手を振りながら昴が断るも、グランは笑みを携えていやいや、と首を横に振った。


「スバル様がいなければこうやって生きて話すこともできなかったでしょう」


「そーだぜ!スバルがいなかったら俺たちは確実にお陀仏だった!」


 グランの言葉に、腕を組みながらスコットはうんうん、と頷いている。そこで初めて自分の腕にまだオオカミが噛みついていることに気が付き、スコットは慌ててオオカミを引きはがした。


「…()ッ!」


 ひきはがした腕からはドクドクと血が流れていた。


「腕、大丈夫か?」


「あー心配すんな。命に別状はねぇ」


 予想以上の出血に昴が驚いて尋ねると、額に脂汗を流しながらスコットが答える。グランはズタボロのスコットの手甲を外し、懐からハンカチを取り出した。


「"水の癒し手(アクアヒール)"」


 グランの手から透き通った水が出てくると、スコットの腕を包んでいった。応急処置を終えたグランは、一連の流れを見ていた昴に柔らかな笑みを向けた。


「スバル様と比べたら児戯に等しいかもしれませんが、しがない執事にはこの程度しかできませんので」


「いやいや、そんなことないって」


 慌てる昴をほっほ、と笑いながらグランは眺める。

 おそらく二十歳にも満たないだろう、こんなにも礼儀正しく謙虚な少年が'ブラックウルフ'を瞬殺した、その事実がいまだにグランは信じられなかった。この少年は一体何者なのだろうか、こんなに軽装でなぜこんなところに一人でいたのだろうか、我々を害するものなのだろうか、頭の中ではそんなことを考えているが、グランはそれを表情には一切出さなかった。


「グラン!スコット!」


 二人の名を呼びながら、身なりのいい男が小柄な男とメイド服姿の女性を引き連れて馬車から降りてきた。その男が昴達のもとまで来ると、グランは恭しくお辞儀をする。


「こちらが我らが主人、マルカット様でございます」


「私がガンドラの街で商人をやっているマルカットといいます」


 少し派手めな服を着ているマルカットは昴に向けてすっと手を前に出した。


「昴っていいます」


 昴も名乗りながら、マルカットの手を握る。


「危ないところを助けていただいて、感謝しています」


「いや、たまたま通りかかっただけなんで、感謝とかは全然…」


「それでも助けていただいた事実には変わりないので」


「はぁ…」


 感謝され慣れていない昴は困惑しながら曖昧にうなずいた。そんな昴の様子も気にせず、マルカットは後ろに控えている二人を手で指し示す。


「この二人は御者と護衛を務めるデルと私のメイドをしているミトリアです」


「デルっす!よろしくっす!!」


「ミトリアと申します。この度は本当にありがとうございました」


 小柄な男が敬礼をしながら名乗り、メイド服の女がグラン同様、見惚れるようなきれいなお辞儀をした。昴も名乗り返し、軽く頭を下げる。一通り挨拶が終わったところでマルカットは昴に向き直った。


「ところでスバルさんはなぜこのような場所に?」


 注意深く昴を観察しながらマルカットが尋ねた。


「えーっと…冒険者をやってまして…」


「冒険者を…」


 さっきスコットに言われた言葉を思い出し、昴は咄嗟に冒険者を名乗った。マルカットはふむ、と顎に手を当てながら昴を見て、倒れているブラックウルフ達に視線を向ける。


「なるほど…さぞかし名のある冒険者のようですね」


 マルカットの言葉に昴はあー、だのえー、だの歯切れの悪い反応を示す。しばらく思案するかのように黙っていたマルカットだったが、意を決したように口を開いた。


「冒険者のスバルさんにぜひお願いがあるのですが…」


「お願いですか…?」


「はい。私の護衛のスコットなのですが、'ブラックウルフ'のせいでとても戦えるような状態ではなくなってしまいました」


 マルカットはチラリとスコットの方を見ると、スコットは面目なさそうに目を伏せた。


「もう一人護衛としてデルもいるのですが、彼は御者をやっているので急な襲撃には対応できません」


「馬と旦那両方の面倒を見るのは無理っす!」


「威張んな!!」


 元気よく答えたデルの頭をスコットが左手で殴った。デルは頭をさすりながら痛いっすよ、と涙目で抗議する。


「なのでスバルさんがよろしければガンドラまで護衛をしていただけませんか?」


 お願いします、と深々と頭を下げるマルカット。それを見て昴は面倒くさいことになった、と人知れずため息をついた。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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