24.強くなるために
気づいた時には、昴は平原に立っていた。目の前には'村正'を構えたジェムルが立っている。
「戻ってきたようだな?」
'村正'を消し、ジェムルが昴の様子をうかがうように尋ねる。
「あぁ…目の前に胡散臭そうなおっさんが立ってるってことはそう言うことだろ」
「…それだけ憎まれ口が叩けるなら大丈夫だろうな。それがお前の武器か」
いつの間にか握られているものをジェムルが指さす。
「あぁ…'双刀・鴉'だ」
昴ともう一人の昴が使っていた漆黒の小刀が昴の両手には握られていた。
「なるほど…二刀流か」
ふむ、と顎に手を添え品定めするように'鴉'を見る。
「それで、身体の調子はどうだ?」
「身体の調子?」
「あぁ、俺の時は呪いに打ち勝つとステータスのDOWNはなくなっていたんだがお前はどうだ?」
ジェムルに言われて、自分の身体が以前よりも軽くなっていることに昴は気づいた。
「確かに…前より身体の調子はいいかな?」
「そうか。ちゃんと呪いを屈服させてきたってわけだな」
ジェムルは満足そうに頷く。昴は手にした'鴉'を試しに振ってみるが、特に違和感は感じなかった。
「どんな能力なのか自分で把握できるか?」
「あぁ、こいつを手にしていると何ができるのか自然と頭の中に浮かんでくる。…実際にそれをうまく使えるかは別としてだけど」
「まぁそうだろうな。'双刀・鴉'がもつスキルで何ができるのかはいろいろと使ってみないとわからないだろうな」
「今まで新しくスキルを習得できなかったからスキルっていうもんがどんな物なのかいまいちピンとこないんだよな」
使えるスキルはこれくらいだったし、と昴は"アイテムボックス"のスキルを発動する。その様子を黙ってみていたジェムルはおもむろに口を開いた。
「おそらくこれからも新しいスキルは習得できないだろう。呪いのスキルを所持した者は新たに習得することはできない」
俺もそうだからな、とジェムルは肩を竦めた。うすうすは勘づいていた昴だったが、実際にジェムルに言われたことでその事実を再確認し、肩を落とす。
「だからといって強くなれないとは言ってないぜ?」
予想外の発言にピクリと反応した昴にジェムルはニヤリといたずらっぽい笑みを向けた。
「新たなスキルを習得することはできないが、呪いのスキルっていってもユニークスキルの一つだ。他のスキル同様成長だってする」
「ということは…?」
「お前がスキルの鍛錬をすればするほど、'鴉'に内包されているスキルは成長していくってことだ。新しいスキルなんて習得できなくても、呪いのスキルにはそれ相応の強力なスキルがあるはずだ」
昴は自分の手にある'鴉'に目を向け、力強く握る。自分の新たな目標を達成するために強くならなければ、と強く心に誓いを立てた。
「ところで、スバルは剣を使えるのか?」
「いーや、こいつの呪いのせいで皆が剣の鍛錬をしている最中も俺は満足に振ることすらかなわなかったからな…ましてや二刀流なんて使いこなせる気がしない」
「まぁそうだろうな。剣というのは基本的に両手で握って使うものだから、片手で、それも二本同時にとなるとそう簡単にはいかないな」
「そうだよな…こうなったら修行するしかないわな」
「修行って…あてはあるのか?」
「あるよ」
「……………はっ?」
そう言うと昴はスッとジェムルを指さした。最初は訳が分からないといった様子のジェムルなのだが、昴の意図を理解して素っ頓狂な声を上げる。そんなジェムルを見て昴はニヤリと笑みを浮かべた。
「こいつのスキルの一つなのか…なんとなく相手の強さがわかるんだよ。ジェムルの化物じみた強さが」
気配を敏感に感じる【気配察知】と気配を探り出す【気配探知】、己自身の気配を隠す【気配遮断】という気配に関する三種類のスキルを'鴉'は内包していた。そのうちの【気配察知】により昴はジェムルの威圧感をビシビシと肌で感じていた。
ジェムルは開いた口がふさがらないといった様子で茫然と昴を見つめる。
「つーわけでよろしくな、師匠」
「師匠ってお前、勝手に…」
「俺のことほっとけないんだろ?」
「はぁ!?」
いたずらを成功させたような笑顔をむける昴に呆れてものが言えないジェムルは諦めたように頭をかいた。
「なんかお前ちょっと変わったな…すっきりした顔していやがる」
「まー俺にもいろいろあったんだよ」
はぁ…、と大きくため息をつくとジェムルは昴の前に指を三本たてた。
「三ヵ月だ」
「ん?」
「三ヵ月で俺がお前に戦い方を叩き込む。かなり短い期間なんだ。死ぬ気でやっても足りないぐらいの特訓だぞ」
「望むところだ」
昴の答えを聞くや否や'村正'を呼び出し構えるジェムル。そんなジェムルを昴はポカンとした表情で見つめる。
「何してんだ?時間がねーんだ、さっさとかかってこい。その身体に直接叩き込んでやる」
「っ!?そーいうことか…じゃあ遠慮なくっ!!」
昴は魔力を巡らせ、闘志を身に滾らせながら全力でジェムルに向かっていく。十分後に満身創痍で平原に這いつくばることになるとは思ってもいなかった。




