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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
アレクサンドリアの女王
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4.男部屋

 アレクサンドリア城、異世界の勇者達が生活するエリア。基本的には城の者も近寄ることはないこの場所に、異様な緊張感を放つ部屋が一つあった。

 テーブルを挟んで向かい合った二人の男。二人とも真剣な表情を浮かべ、互いの顔を睨みつけている。言葉を交わすことはないが、二人は一触即発の雰囲気を醸し出していた。

そんな二人から周りにいる優吾達は片時も目を離さない。まるで悪魔に魅せられたように二人の姿に視線が釘付けになっていた。二人が放つ殺気により肌はピリピリとチリつくようで、喉は水分を欲するようにカラカラと乾く。あまりの緊張感に卓也は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。


 動いたのは昴。相手の目から一切視線を外さずゆっくりと手を伸ばしていく。

 選択肢は二つ。一方は勝利の栄光を昴に与えてくれるが、もう一方は昴を敗北者として奈落に叩き落とす。

 伸ばした手が空中で停止した。その様を見ても目の前にいるニールは眉ひとつ動かさず昴を凝視している。

 

 右なのか左なのか。手は無意識に震え、額から汗が流れた。

 

 昴はゆっくりと目を瞑る。自分の心を落ち着け、ニールの思考を読み解く。

 

 覚悟は決まった。昴は目を開くと意を決したように自分の選んだ選択肢に手を運ぶ。それを見たニールは勝利を確信したようにニヤリと笑みを浮かべた。


「………」


 昴は呆れた表情を浮かべると、取ろうとしていたカードではない方のカードをニールの手から取る。そしてあっさりと数字を揃えると真ん中のテーブルの上に出した。


「な、なぜだ!」


 ニールは驚愕に目を見開きながら自分の手元に残ったジョーカーのカードを机に叩きつける。早々に自分の手札を終わらせ、二人を見ていた優吾達が大きくため息をついた。


「これでニールの十連敗…お前どんだけババ抜き弱いんだよ」


 優吾が頭をかきながらニールに目をやると、ニールはぐぬぬ、と唸るだけで反論することができない。


「ニールがジョーカーを持ったらこのゲーム終わりですね。相手がジョーカーを取ろうとしたらニヤニヤしますから」


「…かと言って何回配ってもなぜかニールのところにジョーカーがいっちゃうんだよね」


 亘に白い目で見られ、卓也には憐れみの視線を向けられたニールが不機嫌そうに顔を歪めた。


「お前…ジョーカーに呪われてんじゃねぇか?」


「………ニールは昴が大好き。だからジョーカーを引き寄せてしまう」


「んなわけあるか!」


「ってかなんで美冬がいんだよ!」


 昴の横からひょっこり顔を出した美冬の言葉をニールが全力で否定する。突然現れた美冬に昴は目を丸くしたのだが、優吾達は特に驚いた様子はない。


「姐さんが俺達の部屋に突然やってくるなんて、なぁ?」


 優吾が視線を向けると、さも当然と言ったように卓也が頷いた。


「いつものことだよね。というより突然以外のケースがない」


「………暇だから遊びに来た」


 そう言うと美冬は【無詠唱】による【地属性魔法】で適当に椅子を作ると、昴と優吾の間に入る。ニールは美冬を見ながらテーブルをバンッと叩いた。


「そんな事よりもう一戦やるぞ」


「えー…もう一回やるの?」


 嫌そうな顔をする卓也をニールがギロリと睨みつける。


「当然だ。勝つまでやる。俺がジョーカー如きに遅れを取るはずがない」


「…俺は関係ないだろ」


 親の仇を見るような目でニールに見られ昴は面倒臭そうに肩をすくめた。卓也はため息をついてカードを一まとめにすると、慣れた手つきでそれをきり始める。


「ミフユも参加するだろ?」


 ニールに問いかけられた美冬がコクリと頷いた。それを見ていた昴が顔をひきつらせる。


「じゃあ六人分だね」


 そんな昴の様子に気づいていない卓也はせっせとみんなにカードを配った。


「………お前ら美冬とトランプやったことないのか?」


「あーそういえばなかったな。なんか問題あるのか?」


 なんとなく様子がおかしい昴に優吾が眉をひそめる。何か言いたげな昴であったが何も言わずに顔背け、配られたカードを取り上げた。

 優吾は首を傾げたが、気を取り直し自分もカードを取るとペアを探し始める。


 しばらく無言で皆がカードを選び場に出していった。一通り全員が出せるカードを出したところでいざゲーム開始、という流れになった時に事件は起こった。


「………上がり」


「「「「えっ?」」」」


 耳を疑うような言葉に、昴を除く四人の視線が一斉に発言者へと向く。昴だけはやっぱりか、と諦めた表情を浮かべ肩をすくめた。


「み、美冬さん?い、今なんと?」


「………上がりって言った。僕の手札はもうない」


 亘が震える声で問いかけると美冬は無表情でカードを何も持っていない手をヒラヒラと振るす。それを見た全員が愕然とした表情で絶句した。


「…気持ちはわかるが諦めろ。美冬はゲームに関して理不尽な強さを持っている。さぁ、さっさと始めようぜ」


 こうなることがわかっていた昴は未だに美冬を見つめたまま固まっている連中に告げる。ゲームの神に愛された女、それが北原美冬なのだ。それには理屈も道理もへったくれもない。

 昴の声によって我を取り戻した優吾達が、そういうものなのだ、と悟ったような表情でカードを引く順番を決め始める。


「ミフユ…恐るべし」


 ただ一人ニールだけが畏怖を込めた視線で美冬を見つめ続けていた。




 残りのカードが少ない順番でカードを引くため、卓也からのスタートとなった。


「そういえば…」


 亘の手札からカードを引きながら卓也がぼそりと呟く。どうせジョーカーを持っている男は決まっているのでカードを引く動作に一切の迷いはなかった。


「昴君と玄田君の間に何かあったの?」


「あーそれ俺も気になってたわ」


 卓也の言葉を聞いた優吾が昴に目を向ける。


「何かってなんだよ?」


「昴君は知らないと思いますけど、君がいなくなってから彼の様子が少し…いやかなりおかしかったんですよ」


 次は亘がニールからカードを引く番。亘は一枚一枚カードに手を伸ばし、ニールの表情を確認すると、あっさりとカードを抜いた。


「別に…『恵みの森』で崖から突き落とされただけだ」


「…はっ?」


 さらっと昴が言うと、ぽかんと口を大きく開ける優吾。卓也も驚きに目を見開いており、亘はスッとその目を細めた。


「…それだけですか?」


「それだけってお前…!!」


「何を驚いている?」


 優吾が信じられないといった表情で亘の方に顔を向けると、真剣な表情で優吾の手札とにらめっこしていたニールが不意に声を上げる。


「別におかしなことではないだろう。俺だって初対面のこいつを殺そうとした」


「そういやそうだったな」


 昴は、どうせお前がババ持ってんだから悩んでもしょうがねぇだろ、という言葉が喉まで出かかったがなんとか堪えながらニールの言葉を肯定した。

 優吾は呆気に取られた顔をしたが、何かを振り払うように首をぶんぶんと左右に振る。


「いやいや!それもどうかと思うけども!それとこれとは話が違うだろ!?」


「確かに…クラスメートを殺そうとするなんて」


「そこだよ、そこ!」


 卓也がショックから立ち直れなていない様子で言うと、優吾はそれに激しく同意の意を示す。そして余り態度の変わっていない美冬へと視線を向けた。


「姐さん驚いてないみたいだけど知ってたのか?」


 美冬は優吾の方に顔を向けると無表情でフルフルと首を横に振る。


「………知らなかったけど、あの男ならやりかねないから別に驚いてない」


「そんな馬鹿な…」


「おい、ユウゴ。俺が引いたんだから次は貴様の番だ」


 いつの間にかカードを引いていたニールが不機嫌そうな顔で優吾に催促した。もはやババ抜きどころではないのだが、ニールがうるさいので優吾は仕方なく昴のカードを引く。


「…まぁいいや。それで亘、それだけってどういう意味だよ?」


 とりあえず隆人のやったことは置いておいて優吾は亘の質問の意図を尋ねた。隣では昴がさっさと卓也からカードを引きながら亘の方を見ている。ニールの手札(ジョーカーの所在地)がはっきりしているので警戒することなど一切ない。

 全員の視線を浴びながら亘は眼鏡の位置を正す。


「玄田君の態度がおかしかったのはみんなが知っているところです。そしてそうなったのが『恵みの森』から帰ってきてからという事も明らかでしたので、『恵みの森』で行方不明になった昴君と何らかのトラブルがあった、と普通の人なら考えますよね」


「そうだね。みんな口には出さなかったけどそう思っていたと思うよ」


「そ、その通りだな!」


 卓也に便乗して優吾が何度も頷いた。そんな優吾を完全に無視して亘は話を続ける。


「今日だってナイデル砦から帰ってきた瞬間、狂ったように昴君に襲いかかりましたからね。でも昴君の話を聞いてそれは納得しました」


「自分が殺したと思っていた相手が突然現れたんだもんね。はい、上がり」


 亘からカードを引いた卓也があっさりと二抜けを宣言した。


「問題は昴君がいなくなってからの彼です」


「どういう事だ?」


 話が読めないニールが亘に目を向ける。


「彼は、理由はわかりませんが昴君を殺しました。…事実はそうではないのですが少なくとも彼は殺したとそう思っていました。人一人を殺めてしまったんですから落ち込むのはわかります」


「そういうものなのか?」


 昴達の世界に疎いニールが美冬に確認すると、美冬は何も言わずにコクリと頷いた。


「ただ彼は違った。落ち込むというよりも疑心暗鬼に陥っていた。誰も近づけず、誰とも話さず、ずっと一人でいましたからね」


「そういやそうだな。いつも加藤達とつるんでいたのにそれも急になくなっちまってたしな」


 優吾が思い出しながら言うと、亘がそれに同意する。


「だから私は聞いたんです。それだけですか?って」


 亘はカードを捨てながら昴の顔を見つめた。昴は難しい顔をしながら少し無言で考えると、ゆっくりと話し始める。


「俺があいつをおかしいと思ったのは『恵みの森』の探索が始まってからだ。ただその時は疑心暗鬼というよりも俺の事を憎んでいるって感じだった」


「憎んでる?」


「あぁ。理由はわからないがな。後はさっき話した通り俺はいきなり崖から突き落とされた、それだけだ」


「それだけ、ですか…?」


 昴の話を聞いた亘が口元に手を当て思考にふけり始めた。こうなっては亘は考えがまとまるまで口を開かないため、昴達はババ抜きを続けながら亘を待つ。


「………昴君、一つ聞いてもいいですか?」


「なんだ?」


 しばらく一人で考えていた亘が昴に声をかけた。


「崖から突き落とされた事、誰かに話しましたか?」


 いつも以上に亘は真剣な表情を浮かべる。その鋭い視線を見て、昴は亘の言いたいことに合点がいった。


「…そういうことか」


 静かに呟くと亘からカードを引き、ペアを場に出して自分の手札をなくすと昴も真面目な顔になる。


「話してない。そもそも一人になって初めて会ったのがお前らだからな。だからそれをネタにできるやつは限られてくるな」


「そうなりますね」


「なになに?なんだよ!お前ら二人で納得しちゃって!!俺にもわかるように説明してくれ!」


 話が見えない優吾が卓也に救援要請を出した。なんとなく顔色の悪い卓也が優吾にもわかりやすく説明をする。


「優吾君…人が疑心暗鬼になる時ってどんな時だと思う?」


「誰も信じられなくなった時だろ?」


 優吾がそんなの当たり前だ、といった顔で答えると卓也は真顔で頷いた。


「じゃあ人を殺した人が疑心暗鬼になるのはどんな時だと思う?」


「そりゃ…どういう時だ?」


 首をかしげる優吾を見て亘は盛大にため息をつく。


「君には想像力が欠如していますね」


「うるせぇ!わかりやすく話さないお前らが悪い!」


 完全に開き直った優吾に美冬が呆れたような視線を向けた。


「………目撃者がいたとしたら?」


 その言葉に優吾はハッとした表情を浮かべる。もし昴を殺したところを見た者がいたとしたら?そして隆人が誰も信じられなくなるとしたら?


「…脅されていたのか?昴を殺した事をネタに」


「えぇ….しかもおそらく匿名でね」


 亘もニールから引いたカードで上がりとなり、残るは二人になった。


「じゃあその相手は昴と探索をしていた奴らの中に…?」


「…それは断定できません。私達にはスキルがありますから。遠くで起こっている事を見るスキルを持っている人がいてもおかしくないですね。まぁ王国側がそれをするメリットは皆無ですが」


 駆け引きも何もなく優吾はニールからカードを引くと、自分の持っていた最後の一枚とともに絵柄も見ずに場に放り出す。当然数字は揃っており、ニールは手に残ったジョーカーをワナワナ震えながら睨みつけた。


「…あいつが俺を崖から突き落としたのは’グリズリーベア’もろともって感じにだ。当然こっちの世界の奴らがそれを見ても、玄田を脅そうとは思わねぇだろうな」


「敵を倒すために味方を犠牲にしてもそれはこちらの世界では珍しいことではないということですか…まぁ彼の場合狙いは昴君のようですが」


「おいおい…それって…」


 優吾が唖然としていると、亘が眼鏡を光らせながら身を乗り出す。


「私達の中によからぬことを考えている輩がいる、ということですね」

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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