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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
アレクサンドリアの女王
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3.女部屋

 一ヶ月ほどしか城で過ごしていなかっとはいえ、ここを離れていた期間はそう長くないため、昴は勝手知ったる足取りで城内を進んでいく。

 城に入る時に衛兵に止められたが、少し遅れてきたガイアスが説明をしてくれたおかげで問題なく城へと入ることができた。ガイアスと一緒にきたクラスメート達の視線を痛いほど自分達向いているのを感じたが、昴は無視してさっさと自分の部屋へと向かっていったのだった。



「ここが俺の部屋だったところだ」


 部屋の扉を開けながら後ろにいる三人に教える。部屋の中は昴のいた頃と全く変わった様子がなく、なんとなく懐かしさすら感じた。


「ベッドが四つ…贅沢は言えないけどあまり素敵な部屋ではないわね」


 アレクサンドリアの城の中にある部屋と聞いていたユミラティスは残念そうに肩をすくめる。そんなユミラティスとは対照的にタマモは目を輝かせながら部屋の中を走り回った。


「おいおい…お前ら全員ここで寝るのかよ」


 後ろから声が聞こえ、タマモは走り回るのをやめそちらに目を向ける。扉の外には優吾達三人が呆れたような顔で立っていた。


「そもそも四人の時ですら狭かったんだぞ?いけてあと一人か二人ぐらいだ」


「そうだね…それにタマモはいいけどユミラティスさんと一緒っていうのは…緊張しちゃうっていうか…」


「そういうわけなのでユミラティスさん以外の有象無象は早急にこの部屋から出ていってください」


 アホ眼鏡を拳で黙らせると、昴は困ったように部屋を見渡した。


「確かにこの部屋に七人ってのは無理があるか」


「あぁ。一番いい部屋なら問題はないだろうけどな。庶民の部屋にはこの人数は多すぎる」


 優吾はそう言うと手近にあった椅子に腰を落とす。

 優吾が言った通りこの部屋は机と椅子、そしてベッド以外には物が置けないくらいの狭さであった。異世界に来た日に部屋を割り振られたのだが、戦力として期待できない昴達は最低ランクの部屋をあてがわれたのだ。


「そうは言ってもこの部屋以外に泊まるところはなぁ…」


「霧崎のところはどうだ?一緒にいるのは北村だし、高級スイート顔負けの部屋らしいし、タマモとユミラティスも帰り道で霧崎と仲よさそうに話してたし問題なさそうじゃん?」


 優吾の提案を受け、昴がタマモとユミラティスに顔を向けると二人は笑顔で頷いた。


「私は構わないわよ?シズクはいい子だし、もっと話をしてみたいと思っていたしね」


「うちも賛成じゃ!シズクから昴の幼き頃の話とか聞きたいのじゃ!」


 タマモの発言は気になったが、とりあえず二人は問題なさそうなので雫に相談してみることにする。ユミラティスさんはユミラティスさんだけは!と懇願している亘を蹴り飛ばし、昴は二人を連れて雫の部屋へと向かった。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


 部屋の前で扉をノックする。少しの間を置きその扉が開かれた。


「あー雫?ちょっと頼みたいことが」


「………楠木君?」


 昴がいつもの調子で話しかけたが不意にその口が止まる。扉の先にいたのは香織だった。

香織は大きく目を見開き昴を見つめる。そんな香織を見て昴は気まずそうに頬をかいた。


「えーっと….北村さんだったか。突然訪ねて悪い、雫は中にいる?」


「え、あ、うん」


「昴?どうしたの?」


 二人がしどろもどろになりながら会話をしていると、部屋の奥から誰かと話していた雫が顔を覗かせる。どうやら雫の部屋にはさおりと真菜が来ているようであった。


「優吾の部屋に全員は厳しいから、タマモとユミラティスをこっちの部屋に泊めてくれないか?」


「あたしは全然いいけど…香織は?」


 雫はすぐに答えたが、二人を知らない香織を気遣うに見つめる。香織は少しだけぎこちない笑みを浮かべると両手を身体の前で振った。


「私は全然気にしないよ!大勢の方が賑やかで楽しいし!」


「そうか。北村さん、ありがとう」


「よろしくお願いね」


「お世話になるのじゃ!」


 ユミラティスとタマモが部屋に入っていくのを見送ると昴はあっさり踵を返す。


「あ、あの…!」


 そんな昴の背中に香織は思わず声をかけた。不思議そうな表情を浮かべ振り返った昴だったが、香織の言葉は続かない。


「どうしたの?」


「あ、いや………おやすみなさい」


「?あ、あぁ、おやすみ」


 それだけ告げると香織は頭を下げ慌てて扉を閉める。一人残された昴は首を傾げると、気を取り直して優吾達の部屋へと戻っていった。



 扉を閉めた香織は浮かばない顔でため息をついた。


「スバルと話をしたかった?」


 突然声をかけられ、驚きのあまり勢いよく顔を上げると目の前ではユミラティスが微笑んでいた。初対面ということに加え、見惚れてしまうほどの美人を前に緊張感を隠せない香織にユミラティスは優しく声をかける。


氷霊種(エケネイス)のユミラティスよ?よろしくね」


「タマモじゃ!」


「き、北村香織です!よろしくお願いします!」


 慌てて頭を下げる香織を微笑ましく思いながら、ユミラティスは悩ましげな表情で自分の頬に指を当てた。


「スバルも酷いわよね、何も言わずにあなた達の前から消えちゃったんでしょ?それなのに帰って来ても何も言わないなんて」


「大方説明するのがめんどくさいとか思っているのじゃ!スバルらしいのぉ」


 タマモが腕を組みながら納得したよう何度も頷く。それを見た香織が楽しげにクスリと笑った。


「タマモちゃんは楠木君のことをよく知ってるのね」


「む?そうかの?」


 なんとなく嬉しい気持ちになったタマモが頬を染めながら耳をピクピクと動かす。


「三人ともこっちきなよー!」


 扉の前で話をしていると、部屋の中にいたさおりが三人を手招いた。

 

 雫の部屋は優吾達のいた部屋の三倍ほどの広さであった。二人で使っていると聞いていたが、ベッドは四つあり、そのベッドの大きさも優吾達のものよりはるかに大きい。さおり達が座っている椅子やテーブルも豪華な装飾が施されており、明らかに優吾達の部屋とは格差があった。


「流石は王国の一室ね。さっきの部屋は驚いたけどこっちの部屋なら納得だわ」


 華やかな部屋にユミラティスはご満悦な様子。タマモはフカフカのベッドの上で楽しそうに飛び跳ねていた。


「今ちょうど楠木君達の話をしていたんです!」


 さおりが元気よくユミラティスに声をかけると二人が興味深げな顔で雫達に近づいてくる。


「スバルの話?」


「そうだよ!みんなみんな強いから驚いちゃってね!」


「確かに….ユミラティスが戦っているところは見てないけど、あなたも強いんでしょ?」


「ふふっ、ご想像に任せるわ」


 真菜が目を向けるとユミラティスは余裕のある態度で微笑み返した。


「そんなに皆さんは強いの?」


 戦いの内容をほとんど知らない香織が問いかけると雫が肩をすくめる。


「強いのなんのって、昴達が来てくれなかったら負けてもおかしくなかったわ」


「そうなの?タマモちゃんも?」


 こんな可愛い少女が、と思った香織がちらりと視線を向けるとタマモは自分の胸をドンっと叩いた。


「カオリはうちを侮っているようじゃがうちは強いぞ!」


「…そうだね。タマモは強いよ、本当」


 さおりはタマモに助けられた事を思い出し引きつった笑みを浮かべる。タマモの【火属性魔法】による魔物の殲滅はちょっとしたトラウマものであった。そのさおりの態度だけで目に前にいる年下の女の子が只者ではない事を察する。


「楠木君はどうやってこんなに強力な仲間を集められたのかしら?」


「私は仲間ではなくて協力者だけどね」


「協力者?」


 真菜が不思議そうな顔を向けるとユミラティスが笑顔で頷いた。


「私は私の目的のためな今は彼と行動を共にしているだけよ。それはスバルも承知してる」


「そうなんだ…」


 仲間じゃないという事実に少し驚いた様子の雫。いまいち昴とユミラティスの関係性がよくわからなかった。


「でもタマモは楠木君の仲間なんだよね?」


「そうじゃ!うちはスバルの仲間で家族じゃ!」


 さおりに聞かれて自信満々に頷くタマモに皆が暖かな視線を向ける。


「それじゃ楠木君との出会いを聞かせてくれないかな?」


 タマモの話を聞けばあの後何が起きたかわかるかもしれない、と淡い期待を胸に香織が身を乗り出して尋ねた。意気揚々と口を開きかけたタマモだったが、何かを思い出したように口を閉じると首を左右に振る。


「乙女の秘密なのじゃ!」


「えぇー!タマモのケチー!少しくらい話してよー!」


 興味があったのか口を尖らせて抗議するさおりに対してタマモは頑として首を縦には振らなかった。タマモ自身話す事に全く問題はないのだが、昴の判断を仰いだからにしようと話すのを止めたのであった。


「それよりもうちはスバルの過去に興味があるのじゃ!」


「あっそれ面白そう!聞きたい聞きたい!学校にいた時はほとんど話したことないし、っていうかそもそも学校の楠木君と今の楠木君にギャップありすぎ!!」


「あの失礼極まりない男がどんな子供時代を歩んで来たのか興味はあるわね」


 話の矛先を変えようとタマモが雫の方へと顔を向けると、さおりと真菜が食いついてきた。


「あっ、聞きたい?そうだねぇ…」


「スバルの弱味を握れるような素敵な話だといいわ」


「そういう話はあんまりない、かな?」


 ユミラティスの物騒な物言いに雫が頬をピクピクと痙攣らせる。皆が期待した眼差しでこちらに顔を向けているので、雫は一つ息を吐くと、子供の頃を思い出しながら懐かしそうに語り始めた。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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