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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
サロビア平原の戦い
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40.隼人と魔族の子

 昴達と別れた高橋隼人は一人で森の中を歩いていた。


「さて…情報収集源もなくなってしまったし、足も昴に渡しちゃったし、どうしたもんかな」


 隼人は景色を楽しみながらのんびりと森を進んでいく。


 自分の意思でアレクサンドリアの城を出た隼人はこの世界の情報を得るために山賊に混じって行動していた。彼らにとって情報とは自身の生命線であり、常に網を張っているため、山賊の仲間となるのが一番効率のいい情報収集のやり方であった。


「この世界のことはなんとなくわかったんだけど、肝心の魔族のことがよくわからないんだよね」


 山賊が集める情報は二つ。

 一つは自分達の獲物となる者の情報。商人や貴族といったお得意様がどれほどの財を積んで、どれだけの護衛をつけて、どのタイミングでどこへ向かうのか。詳細がわからないままに突っ込めばそれは三流の山賊、すぐに土に還ることになる。

 二つ目は自分達の脅威となる者の情報。王国であれば騎士団、帝国であれば自警団の動向や冒険者ギルドにおいて自分達の討伐依頼の有無。それに付随してランクの高い冒険者の強さや能力を調査し、仮に襲われても即座に対応できるようにしておく。

 そのため帝国や王国ではどういった貴族が力を持っているのか、冒険者のなかで注意すべき相手は誰なのかといったことは隼人は知ることができたのだが、魔族に関しては初めから関わるつもりは毛頭ない、といった感じなので、どこそこに魔族が出たから近づかないように、といった情報しか得ることができなかった。


「やっぱり魔族の本拠地に行くのが手っ取り早いかな………ん?」


 隼人の【気配探知】に何かの気配が引っかかる。隼人の【剣聖】のスキルが持つ【気配探知】は通常のものとは異なり、索敵範囲がそこまで広くない代わりに常時発動型で精度もかなり高いスキルであった。


「この感じ、魔物二匹と…子供かな?」


 こんな危険な森に子供が一人でいるなどトラブルの匂いしかしない。少しだけ悩んだが、気づいてしまっては放っておくわけにもいかず、隼人はその気配の下へと向かっていった。


 三匹の’ワイルドファング’が目の前で蹲る獲物を静かに取り囲んでいく。彼らは狩猟のスペシャリスト、たとえ獲物が小さくか弱い存在であっても一切の油断はしない。

 じりじりと距離を詰めてくる’ワイルドファング’に気づいていないのか、微動だにしない獲物を前に’ワイルドファング’は不信感を抱き、互いに視線を交えた。だがこれは絶好の好機、三匹の’ワイルドファング’は息を合わせると、一斉に蹲る獲物へと飛び掛かかる。


「犬は好きなんだけどね。でも人に襲いかかるのをは見過ごせないな」


 ’ワイルドファング’が敵に気がついた時には頭と身体が別れた後であった。三匹の魔物を一瞬で葬り去った隼人は布で細剣を拭くと腰に携えた鞘へと戻す。そして蹲る子供に目をやるとゆっくりと近づいていった。


「さて、と。色々聞きたいことはあるんだけど、とりあえず大丈夫かな?」


 声をかけるも全く反応を示さない。手を伸ばし、背中を軽くたたいても全然動く気配はなかった。よく見ると手や足は骨に皮がついているだけのようにやせ細っており、身なりも服というよりもボロ布をかぶっているだけの格好である。

 隼人が蹲る子供の身体に腕を回し優しく抱きあげると、何の抵抗もなくその身を委ねる。顔を覗き込むとまだあどけなさの残る顔をした白髪の少女が目を瞑って眠っているようであった。


「気を失っているのか…いやそれ以上にかなり衰弱しているね…ってこれは…」


 隼人は少女の額を見て思わず目を丸くする。その額からは小さいながらも一本の角が自分の種族を知らしめるように生えていた。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


「ようやく上手くいった」


 見知らぬ誰かの声が聞こえる。

 

 ゆっくりと目を開くと水の中にいるのか視界がぼやけて周りを見ることはできない。ただ白衣を着たたくさんの者達が忙しくなく動き回っているのだけは分かった。


「身体機能、異常なし。魔力回路、異状なし。これは早速報告だ!!」


 外にいる誰かが興奮した声を上げているが、自分には何を言っているのかさっぱりわからない。そもそもここがどこなのか、なぜ自分がこんなところにいるのかわからない。

 視界に飛び込んでくる景色も知らないし、そこにいる人たちにも見覚えがない。

 あれ?見覚えがある人なんていたっけ?自分が知っている人なんていたっけ?他人を見たことがあったっけ?


 わからないわからないわからない。自分が誰かも、いや自分が何なのかもわからない。


 でもこの液体の中はすごく居心地がいい。暖かくて、優しくて、なんだかとっても眠くなる。


 そうして自分は静かに目を閉じていった。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


 目を開くと目の前には大きな木と、赤ずんだ空が広がっていた。パチパチと火がはじける音がしており、なにやら香ばしい匂いもあたりに充満している。


「おや?お目覚めかな?」


 誰かの声がしたのでそちらに顔を向けると、少しだけ長い髪をした男がこちらを見て微笑んでいた。


「今’ワイルドファング’の肉を焼いているから少しだけ待っててね」


 なるべく優しく声をかけるが魔族の少女は表情を一切変えずに生気のない目でこちらを見つめている。隼人は肉を焼きながらさりげなく魔族の少女の様子を覗った。


 年の頃は大体六歳くらいであろうか。白い髪は全く手入れがされている様子はなく、肌も垢やら土埃で大分汚れている。しかしそれ以上に気になったのは、この子から感情というものが一切感じられないことであった。美冬も確かに無表情ではあるが、それは感情の表現が薄いだけでこの子はそれとは全くの別物。目の前の少女は中身のない抜け殻のような、むしろ本当に何かの抜け殻ではないかと思わせるほど虚ろな瞳をしていた。


「はい、お肉焼けたよ」


 隼人が木に刺した肉を差し出すと、少女はゆっくりと起き上がりながら自分にかけられていた隼人の上着を脇にやり、機械的に肉へと手を伸ばす。そして受け取った肉を隅々まで眺めるとおもむろにかぶりついた。

 ものすごい勢いで肉に食いつく少女を笑顔で見つめながら隼人が問いかける。


「食べながらでいいから聞いてくれるかな。というか言葉は分かる?」


 一瞬食べる手を止めた少女は隼人に目をやるとコクリと小さく頷いた。意思の疎通が図れないと大変だと考えていた隼人はとりあえずコミュニケーションが取れることにほっと息を吐く。


「まずは君の名前を聞こうか?」


 隼人の言葉に少しだけ悩んだ素振りを見せると、顔を俯かせ首を左右に振った。それを見た隼人が眉を顰める。


「それは…名前がわからないということ?」


 隼人が尋ねると少女はさっきよりも大きめにブンブンと首を横に振った。


「それなら名前はないってこと?」


 その問いかけに少女は頷く。隼人は軽くため息を吐き、頭を抱えた。

 名前がないということは両親のことを聞いてもおそらく無駄だろう。それどころか何を聞いても彼女に関する情報は一切出てこない可能性すら出てきた。


「君は…記憶がないのかな?」


 隼人が真剣な表情でそう聞くと、少女は不思議そうな顔で首をかしげる。そんな彼女を見るとなぜだか隼人の心が痛んだ。


「そうか…わからないんだね…君は何も…」


 光のない目でこちらを見てくる少女の視線から逃げるように隼人は空を仰いだ。炎のように赤い空は時期に全てを塗りつぶす黒へと変わり、夜の静寂が辺りを包み込むことになるだろう。

 隼人はゆっくりと息を吐き出すと、身を乗り出し少女の瞳を見つめた。


「これから何かやることがあるのかな?」


 答えのわかっている質問をする。案の定目の前の少女は首を横に振って否定した。


「それならどうかな?しばらく俺の旅に付き合うっていうのは?」


 キョトンとした表情を浮かべる少女。隼人の言葉の意味がわからず、必死に頭の中で考える。そんな少女を見て隼人は思わず苦笑いを浮かべた。


「ちょっと難しかったかな?じゃあシンプルに言うけど…俺と一緒に行かない?」


 一瞬大きく目を見開いた少女は視線を下に向けると、動いたか動かないかわからないほど小さく首を縦に振る。隼人は優しく少女の頭に手をのせると笑顔を向けた。


「俺は隼人。君は…名前がないんだよね。なら(はく)って呼んでもいいかな?」


 少女はまたしても下を向いたまま微かに首を動かす。そんな少女のことを隼人は慈しむように撫でた。


「よろしくね。白」


 隼人は白の頭から手を放すと、焼きあがった肉を白へと渡す。先程とは違い、白は少し照れたように顔を染めながら肉を受け取り頬張った。そんな彼女に隼人は優し気な表情を向ける。


「…誰かさんのお人よしがうつったかな」


 今頃クラスメートを助けに向かっている親友の顔を思い出し、隼人は微笑を浮かべながら魔族の少女のことを見つめ続けた。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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