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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
サロビア平原の戦い
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38.ナイデル砦での再会

 空が茜色に染まり始めた頃、昴達はナイデル砦へとたどり着いた。戦いが始まったのが夜明けと同時くらいであったため、半日の間戦い続けたということになる。

 戦場から退却した騎士達と異世界の勇者達、そしてタマモとユミラティスは砦の中には入らず、砦に近いところで皆の帰りを待っていた。遠くから歩いて来る雫やガイアスの姿を見た上田萌がホッと安堵の息を漏らす。


「よかった…無事帰ってき…ん?」


 萌の言葉が途中で途切れた事に反応した渡辺千里が萌の見ている方向に顔を向けた。そこには自分と同じ異世界の勇者達と騎士団の団長と副団長、そして自分の窮地を救ってくれた白馬の王子こと銀髪のイケメンの姿がある。千里はその時の事を思い出し、顔を赤らめながら自分の王子様に近づこうとした。


「あぁ….無事だったんですね!本当に心配して………ってえええぇ!!?」


 砦中に響き渡るような悲鳴をあげる。それを聞きつけた加藤誠一と古川勝が千里のもとに駆けつけた。わなわなと震えながら指差している千里を見ると、その指の先に視線を動かし、こちらに歩いて来る人物に目を向けた。そして千里同様に大きく目を見開きながら何を言うわけでもなくその場に凍りつく。


「みんな!ただいま!」


「敵は撤退したからあたし達の勝ちだ!!」


 雫とさおりが明るい声で戦果を伝えるが喜んだのは後ろに控える騎士達だけ。誠一達の視線は幽霊でも見ているかのような顔で雫達の後ろにいる黒コートの男に釘付けであった。


「何か言うことは?」


 隣に立つ真菜がからかうような口調で尋ねると昴は思いっきり顔をしかめる。


「特にねぇけどな」


「………楠木…なのか?」


 一番最初に口を開いたのは誠一だった。昴は面倒臭そうに四人に目を向けると、大きくため息を吐く。


「そうだよ。楠木昴だよ」


「…生きてたのか」


「悪いかよ?」


 勝の無意識に出た言葉に反応した昴が勝を睨みつけた。学校にいた時の昴とは全く違う雰囲気に勝は思わずたじろぐ。


「あの…本当に楠木君?」


 後ろに立っていた萌が眉をしかめながら恐る恐る昴に声をかけた。自分の知っている楠木昴の人物像とあまりにかけ離れた男が目の前に立っており、本人が名乗っても信じることができない。

 昴が少し困ったような顔で答えようとした瞬間、萌の隣を金色の何かが通り抜けていった。


「おかえりなのじゃ!!」


 昴は飛びついてきたタマモを優しく受け止める。そしてゆっくりと頭を撫でるとタマモに優しげな笑顔を向けた。


「ただいま、タマモ。いい子にしてたか?」


「むっ!またうちを子供扱いしおって!!」


「悪い悪い。ほら、あっちにニールがいるからからかってこい」


 一瞬顔をしかめたタマモだったが、ニールの姿を見つけると嬉しそうに昴の腕から離れ、そちらへとかけて行った。

 タマモを見送ると、昴は意外そうな顔でこちらを見ている真菜に横目を向ける。


「なんだよ?」


「別に?あなたもそんな顔ができるんだなって思っただけ」


「…馬鹿にしてんだろ?」


「少しだけね」


 ふふっ、と笑う真菜を昴がジト目で見ていると健司を抱えたガイアスがこちらに近づいてきた。


「前田!?なんでお前が縛られてんだ!?」


 自分の友人が縛られて抱えられている姿を見た誠一が驚きの声をあげる。他の三人も誠一同様驚いているようであった。


「騎士の何名かを一足先にアレクサンドリアへ伝令として遣わせた」


「…そうですか」


 何故それを自分に報告したのか、なんとなく嫌な予感がした昴はそっけない様子で答える。ガイアスはまるで事情がわかっていない四人にチラリと目を向け、そして昴に向き直った。


「さてスバル殿。我々は城へと戻らなければならないのだが、ナイデル砦で身体を休める多少の時間はある」


「…その時間に事情を説明しろ、と?」


「話が早くて助かる。貴殿達にも何があったかの説明が必要であるがゆえ、一度ナイデル砦の会議室に集まってはくれないだろうか?」


 ガイアスに言われ誠一達は戸惑いながらも頷き、ナイデル砦へと歩いていく。それを見ていたガイアスが昴に目を向けると、昴は諦めたように肩を竦めてその後へとついて行った。


「マナ殿。申し訳ないが他の者にもこの旨を伝えてきてくれないか?」


「雫達にですね?」


「あぁ。あとスバル殿の仲間達にもだ」


「わかりました」


 そう答えると、真菜は雫達の所へと走って行った。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


「…とまぁそんな感じですね」


 前に立っていた昴は話が終わると自分の席へと戻っていく。誰一人として言葉を発する者はいない。

 会議室には雫達異世界組が昴を除いて十一人、騎士団としてガイアスとフリント、それになぜかナイデル砦の頼りない隊長であるキッパ。そしてタマモ、ニール、ユミラティスの三人が集まっていた。

 昴の話を黙って聞いていたガイアスがゆっくりと口を開く。


「つまりスバル殿は独自に魔王討伐のための仲間を集めていた、とそういうわけだな?」


「えぇ。運良く生き残ったので俺は俺に出来ることでもしようかなって考えました」


 ガイアスの問いかけに昴は涼しげな表情でスラスラと答える。

 

 昴がこの場で話したのは、'グリズリーベア'から逃げている途中で足を踏み外し、川へと落ちたのだが、なんとかガンドラの街に辿り着くことができたので、城での鍛錬は雫達に任し、自分は魔王討伐に協力してくれる仲間を探しに旅に出た、というものであった。

 言うなれば全くのデタラメ。本当の事情を知っている美冬達やタマモとニールにはそれがわかっており、付き合いが長い雫も、詳しい事情はわからないにしろ昴が嘘をついているということはわかったがあえて何も言わなかった。


「なるほど….確かに強力な仲間を見つけてきてくれたようだな」


 ガイアスが納得したように頷きながらタマモ達に目を向ける。ガイアスが見たのはニールとタマモの戦いだけだが、おそらくそこにいるユミラティスもそれと似た戦闘力の持ち主であろう。そう考えればアレクサンドリアは異世界の勇者以上の戦力を得たのだ。あくまでニール達がアレクサンドリアのために戦ってくれるのであれば。


「…他に何か聞きたい者はいるか?」


 ガイアスが会議室の中を見渡すが顔を上げる者はいない。昴の話の前にガイアスがした健司の話にショックを受けていた誠一と勝はほとんど昴の話など聞いておらず、千里にいたっては心ここに在らずの様子でニールのことばかり見つめていた。唯一の常識人である萌は難しい顔をして昴を見ていたが、そもそも昴とあまり関わりのなかった萌にとって昴に聞きたいことなど正直言ってあまりない。


「…もういいだろう。こんな狭い部屋にいつまでもいたら息がつまる」


 誰も声を上げない中、ニールがつまらなさそうに告げるとさっさと部屋から出て行った。ユミラティスも肩をすくめるとその後に続く。それを見ていた千里がおもむろに立ち上がった。


「正直、あんたがどこで何をしてたかなんか興味はないわ」


 それだけ言うと千里は萌の腕を掴んで会議室を出て行く。どう考えてもニールの事が気になって後を追ったようにしか見えなかったが、咎める者は誰もいない。


「…俺達も少し外の空気を吸ってくる」


 誠一が覇気のない声で言うと、隣に座る勝を促してこの場から去って行った。自分とつるんでいた奴が自分達を裏切り、魔族側に加担していたという事実を知って、今は何かを考える余裕はないようだ。


 半数ほどが居なくなった会議室で、フリントが昴の方に顔を向けた。


「僕は君の強さの秘密が知りたいな。あれは普通じゃないでしょ?」


「そ、そんなに強いのでありますか?」


 騎士団の中でも実力者であるフリントの言葉にキッパが目を丸くしてどもりながら尋ねると、フリントはコクリと頷く。


「少なくともランクSの魔物を歯牙にも掛けないほどの実力は持っているだろうね」


「ランクS…」


 フリントの信じられない発言に、キッパは絶句しながら昴に目を向けた。当の本人は眉を寄せながら頭をかいている。


「…身体一つで外の世界に飛び出しましたから、かなりの魔物と戦ったんです。それでレベルがかなり上がったんでしょう」


「あの黒い刀は?」


「あれはガンドラの名高い商人と仲良くなり、譲ってもらいました」


 おそらく聞かれるであろう問いかけに昴は用意していた答えで返した。そんな理由で説明のつく強さではなかったのだが、追及したところで満足のいく答えは返ってこないだろうと判断したフリントは何も言わずに引き下がる。

 これで質問は終わりだろう、と昴は思ったのだが、ふと何かを思い出したかのように雫が顔を上げた。


「そういえば昴はどうやってあたし達の事を知ったの?」


 雫の疑問はもっともだった。確かにアレクサンドリアにいれば雫達がサロビア平原へ戦いに赴くのを知る事が出来たであろうが、昴がいたのはアレクサンドリアはおろかこのパンドラ地方ですらないサリーナ地方。こちらの事情を把握できるとは到底思えない。

 昴はその質問に答えるか少し迷ったが、正直に言ったところでそこまで問題はないと判断した。


「隼人に会ったんだ。それで雫達が何をしようとしているのかを知ったってわけだ」


「なに?ハヤト殿に?」


 昴の言葉に反応したのはそれまで黙って話を聞いていたガイアスであった。少し困惑したような顔でこちらを見るガイアスに昴は頷きで答える。


「あいつは…隼人は恐らく魔族領に行こうとしているんだと思います」


「魔族領に?」


「はい。詳しく聞いたわけではないんですが、あいつなりに魔王を討伐のために何かを考えて行動しているんだと思います」


「そう、なのか…うーむ…」


 昴の話を聞いたガイアスは腕を組み、眉をひそめながら唸り声をあげた。

 隼人の持つ【剣聖】のユニークスキルはこと戦闘に至っては破格のスキルであり、その隼人が居なくなったことは城でも問題視されていた。

 そんな隼人の動向を知れたのはいいのだが、いる場所が場所なだけにガイアスの心境は複雑である。


「とりあえず話は以上なんでさっさと城に戻りませんか?」


「…うむ。そうだな、そうするとしよう」


 隼人のことを考えていたガイアスだったが昴に言われ立ち上がった。それを見た残りの者達も席を立ち、会議室の扉へと移動していく。

 昴もそれに倣おうとしたのだが、いつのまにか隣に来ていた真菜が怪訝な表情でこちらを見ていた。


「さっきの話、本当なの?」


「さっきのって?」


「あなたが魔王討伐のために仲間を集めていたって話」


「…俺が嘘をつく理由があるのか?」


 昴がすまし顔で答えるが、真菜は疑うように目を細めるばかり。


「あなたの事をよく知らないけど、魔王討伐のためなんて殊勝な心がけをするような人ではないと思ったから」


 そう言うと真菜はスタスタと部屋の出口へ歩いて行った。その姿を見ながら昴は思わず苦笑いを浮かべる。


「まさか望月にまで見抜かれるとはな…」


 昴は気を取り直して、ただ一人席に座ったままのタマモの下に向かった。そして会議が始まった瞬間からずっと眠っていたタマモの頭を軽く叩く。


「終わったぞ」


「ふにゃ…もうご飯の時間かの?」


「寝ぼけてないでさっさと行くぞ」


 大きく伸びをしているタマモを置いて昴は歩き出した。タマモも寝ぼけ眼で椅子から降りるとその後について行く。

 

 会議室の扉まで行くと側にキッパが立っており、昴を見ると「ひぃっ!」と身体を震わしながら慌てて道を譲った。そんなに怯えることはないだろう、と思いながらも何も言わずにキッパの脇を抜けた昴だったが、タマモはなぜか足を止め、不思議そうにキッパを見つめる。


「タマモ?どうした?」


 タマモの行動に疑問を感じた昴が声をかけた。タマモは少しの間キッパの顔を眺めた後、目を離し昴の方へと駆け寄る。


「なんでもないのじゃ!さっさと皆のところに行くのじゃ!」


「…そうか?」


 昴の前を歩き出したタマモの背中を見ながら昴がチラリとキッパに視線を向けた。昴の視線に気づいたキッパが身体をビクッとさせ背筋を伸ばす。特に変わったところも見当たらないので昴はすぐに視線を外し、タマモの後についていき、砦を後にした。その時には昴の頭の中にキッパという人物は綺麗さっぱり無くなっていた。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


「ふぅ…」


 アレクサンドリアから来た者達を見送ったキッパは隊長室で一人息を吐く。この部屋は誰の立ち入りも許していない、キッパのテリトリーであった。


「まさか撃退されちゃうなんてねぇ…」


 一人呟く声はいつものどもりを全く感じさせない淡々としたもの。キッパはゆっくりと椅子に座ると、窓から外の景色を見つめた。


「昴君だっけ?物騒な後輩もいたもんだよ」


 ランクSの魔物を倒せるほどの猛者。自分のやりたい事にとって昴は最大の障害となる。キッパは椅子にもたれかかりながら大きくため息を吐いた。


「そろそろ潮時かな?ここを魔族に攻め落とさせれば面白い事になると思ったんだけど…」


 キッパは自分の顔に手を添える。一瞬光に包まれた後、キッパがいたはずのそこに現れたのはミディアムヘアをした麗しい妙齢の女性であった。


「亜人族の女の子に見抜かれそうになっちゃったな。まだまだ修行不足だね」


 謎の女性はその場に立ち上がると静かに窓を開ける。


「次は何をして遊ぼうかな」


 そう呟きながら微かに笑みを浮かべると、謎の女性は窓の外へと飛び出していった。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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