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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
サロビア平原の戦い
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34.最後の詰め

 魔物の掃討を任されていた真菜達は誰もが限界を迎えていた。途中抜けていた美冬が戻って来た事、そしてガイアスとフリントが合流した事により一時盛り返してはいたが、それでも連戦に継ぐ連戦に体力も気力も底をつきかけている。


「…流石にこれは厳しいわね」


 真菜が諦めたような笑みを浮かべながら静かに呟いた。上空から攻めてくる'スキンヘッドホーク'を鉄扇から繰り出した"かまいたち"で地面に落とすも、すぐに'ホワイトウルフ'が自分めがけて襲いかかってくる。何より一番きついのは倒しても倒しても終わりが見えないと言う事であった。


「くっそ!!こいつらどんだけいんだよ!!」


 優吾が手に持つ大楯をなりふり構わず振り回す。その大楯もあまたの魔物からの攻撃を受けいたるところにヒビが入っていた。その隣にいるさおりの拳からは血が吹き出している。武器を持たないさおりは己の拳を武器にしている代わりに、武器が損傷するように振るうたびに拳が傷ついていた。


「諦めちゃダメだよ!気持ちで負けたら何もかも終わっちゃう!!」


 皆を励ますさおりの顔にも疲労が色濃く見える。そんなさおりの言葉に応えるように美冬が上級魔法を唱えた。だがその魔法も万全の時とは比べられない程の弱々しいものである。


「………ボクの魔力もそろそろやばい」


「僕達なんてとっくに切れてるよ」


「だからこうして苦手な剣を振っているんですがね」


 拓也と亘は王国の騎士に配給される鉄の剣を必死に魔物に向けていた。戦況の把握を任されていた亘だったが、もうそんな事も言っていられる状況ではなくなり、戦いに参加している。


「ここまで絶望的な状況は久しぶりですね」


「…五年前の戦争の時以来か」


 ガイアスは十字槍を振り回しながらフリントに答えた。三本の刃がある槍だがすでに左右の二本は歯が欠けており、使い物にならなくなっている。フリントの剣も魔物の血や油により著しく切れ味が低下しており、最早剣で切るというより剣で殴るといった様子であった。


 お互いの死角をカバーするように戦っていたはずだったが、いつのまにか互いの背中がぶつかるほどに美冬達は追い詰められていた。取り囲んでいる魔物達はじりじりと距離を詰めてくる。


「………魔力が尽きた」


 美冬が範囲魔法で一掃しようとしたが燃料切れの様子で、仕方なく杖を両手で構えた。既に全員が満身創痍、今できるのは奇跡を信じて今から遅いかかってくるであろう魔物達の強襲を防ぎきることだけであった。

 魔物達の先頭にいるのは'グリズリーベア'。美冬達の様子を注意深く伺いながら近づき、その強靭な腕をゆっくりと振り上げる。そして美冬達にその腕を振り下ろそうとした瞬間、ピクリと身体が反応しその動きを止めた。身構えていた美冬達は訝しげな表情で'グリズリーベア'を見つめる。しかし動きが止まったのは'グリズリーベア'だけではなかった。

 周りにいる全ての魔物がにじり寄った足を止めている。そして恐る恐るといった様子で全員が同じ場所に目を向けた。


 そこには健司を肩に担ぎ、身体中から【威圧】を放っている昴が立っていた。


「斬り殺されたくなかったらさっさと消えろ」


 静かに紡がれた言葉に魔物達はビクッと身体を震わせる。言葉がわかるわけではないが、昴の放つオーラから自分達がこの後どうなるかを肌で感じ取っていた。健司が気絶したことで支配から抜け出した魔物達は昴の存在に怯え、蜂の巣をつついたように四方へと逃げ去っていく。それはこんなランクである'グリズリーベア'や'サーベルタイガー'についても同様であった。

 立ち向かってくるなら面倒だが相手になろうと考えていた昴は一匹残らずいなくなった魔物を見て軽く息を吐く。後ろで剣を構えていた雫も安心した様子で剣を降ろした。

 一瞬の出来事に皆が呆気にとられている中、美冬がトコトコと昴に近づきその頭を杖で殴る。


「痛ってぇな!」


「………助けに来るのが遅い」


「…悪かったよ」


 殴られた箇所をさすりながら昴は渋々謝った。それで気が済んだのか美冬は雫の方へと歩いていく。さおりと真菜も後を追うように雫の元へと駆け寄った。


「雫っち!!」


 勢い良く抱きついてきたさおりを雫が受け止める。さおりの目には安堵からかうっすらと涙が浮かんでいた。


「お疲れ様。あんな魔物倒しちゃうなんて流石ね」


「昴がほぼ一人でやったんだけどね。あたしは最後に前田君の使っている魔道具を浄化をしただけ」


 雫が苦笑いをしながら言うと、それを否定するように美冬が首を左右に振る。


「………雫はよくやった」


「そうよ。雫の力がなければ彼は’ケルベロス’を倒すことはできなかったんでしょ?」


「そう…なのかな?ちょっとわからないよ」


 二人に労われ、えへへ、と少し照れたように笑う雫に真菜は優し気な笑みを向けた。




 昴はまだ呆然としているガイアスの元へと進むと、その前に健司を放り投げた。


「とりあえずこいつをお願いできますか?」


 ハッした表情を浮かべ我にかえると、ガイアスは足元にいる健司の様子を伺う。魔道具により傷ついてはいるが命に別状がないことを確認すると昴の目を見てしっかりと頷いた。


「…本当にとんでもないな、君は」


 フリントが遠くに倒れている'ケルベロス'を見ながら若干の畏怖を感じさせる声で言った。昴は頬をかきながら困ったような表情で肩をすくめる。

 ガイアスが腰の麻袋から取り出した縄で健司を縛り上げているのを横目に、昴は優吾達に顔を向けた。


「久しぶり…って程でもねぇな。随分ボロボロじゃねぇか」


「お前に言われたくはねぇよ!鏡見てみろ!」


 優吾は軽口を叩きながら昴の肩をこづく。その顔には笑みが浮かんでいた。


「まったく…美冬さんの言う通り救援が遅いですよ」


「本当だよ。ちゃんと僕達の弱さを考慮してくれなきゃ」


「偉そうに言うことじゃねぇだろ」


 笑いながらも不満げな様子の二人に昴は苦笑いを浮かべる。何はともあれ多少の傷はあれど美冬達の無事を確認した昴はホッと息をついた。これで懸念事項は殆ど終わったのだが、まだこの戦いの元凶は残っている。


「さて、と。さっさと終わらせに行くとするか」


 そう言うと昴は激戦を繰り広げている二人の方に目を向けた。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


 ニールの繰り出した槍をオセは拳で弾き返す。いくら【身体強化】を施しているとは言っても素手で'ファブニール'を受けれるのは俺の肉体レベルの高さを表していた。耐久力の高さもあって、互いに身体のあちこちから血は流しているものの、決定的な傷は負っていない様子。


「ちっ!!」


 ニールと戦いながらこちらに近づいて来る集団の気配を感じたオセは舌打ちと共に大きく後ろへと下がった。ニールもその気配に気づいており、追撃を加えることはなく構えを解いて後ろに来た昴の方を見ずに話しかける。


「そちらは終わったようだな」


「あぁ、結構手間取ったがな。お前も手こずってるみたいだな」


 ニールはフンッと鼻を鳴らすと纏っていた雷を霧散させた。思ったよりも歯ごたえのある相手であったが、昴が来たのであれば勝負は決したようなものである。

 それを見たオセは顔を歪めるが何も言ってはこなかった。実際に拳を突き合わせニールの強さを身体で感じた上に、先頭に立つ黒髪の男はランクSの魔物を倒すだけの実力を持つ。他の連中は無視したとしてもこの二人を同時に相手する危険性は十分な承知していた。


「協力者つっても所詮は人族、何の役にも立たなかったってわけだ!」


 ガイアスが担いでいる縄で縛られた健司にゴミでも見るような視線を向けながらオセは吐き捨てるように言った。あまりの言いようにクラスメートが顔をしかめる中、昴は無表情で'鴉'を構える。


「そんなゴミにお前は負けるんだよ」


「…はっ!言ってくれるぜ!」


 オセは口角を上げながら昴とニールを睨みつけた。

 この二人はここで息の根を止めて置かなければならない。そうでなければ確実に魔族(自分達)の障害になる。

 直感的にそう感じたオセは最後の切り札を切ることに何のためらいもなかった。


「ここまで戦える奴が王国にいるとは計算外だったな。…ここからは全力でいくぜ!」


 オセの顔つきが変わったのを見てニールと昴が身構える。オセはニヤリと笑みを浮かべ、奥の手を行使しようとした。その時、


「その辺でやめておきなさい」


 戦場に似つかわしくない甘ったるい声が響き渡る。全員がその声のした上空へと目を向けると、そこには蝙蝠のような羽をはためかせた桃色の髪の妖艶な美女が笑みを携え昴達を見つめていた。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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