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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
サロビア平原の戦い
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30.反動

今年最後の投稿になります!


皆さん、よいお年を!

 健司は昴と'ケルベロス‘の戦いを見ながら不機嫌そうに顔を歪めた。


「くそ…くそぉ!!」


 激しく動き回る'ケルベロス'の背中に必死にしがみつきながら吐き捨てるように呟く。自分が生み出したこの魔物は'ドラゴン'にも引けを取らない最強の魔物のはずだ。ランクSの魔物には例え異世界の勇者であっても到底歯が立たないだろ。

 そう思っていたはずなのに、今目の前で一人の人間に苦戦を強いられている'ケルベロス'がいる。


「楠木の分際で…ゴミで卑怯者でクズの分際でぇぇぇぇええぇぇえぇ!!」


 健司が血管がはち切れんばかりの絶叫をあげるが、戦局はなんら変わらない。相変わらず自分の最強モンスターは自分が見下していた人間に翻弄されていた。その現実を受け止めることができない男は'ケルベロス'に魔力を注ぎ続ける。


「なぜだ…なんで倒せない?あいつは…」


 自分達に虐げられ地面に這いつくばっているのがお似合いの奴だ。いつもクラスの隅でうじうじしていて、鬱憤が溜まった時の最高のサンドバッグだったはずだ。

 なのに、なのにどうして俺の魔物の攻撃が当たらない?どうして奴の刀は俺の魔物に傷を与えることができる?ランクSの魔物だぞ!?生半可な攻撃なんて聞かないはずだろうが!!


「'ケルベロス'!!さっさと奴を葬り去れ!!」


 煮えくり返る(はらわた)を吐き出すように'ケルベロス'に檄をとばす。それに反応し、'ケルベロス'は地を蹴って後ろに下がると二つの頭が同時に魔法を唱えた。一つは巨大なスパイクが蛇のように昴めがけて進んでいき、もう一つは自分の周囲に一メートル程の岩を無数に浮遊させる。

 相手を追尾する岩のスパイクを黒い円形の盾によって防がれた'ケルベロス'は激高し、浮遊させていた岩を全弾発射した。


「そうだぁ!それで奴の命をすり潰せぇ!!」


 無数の岩が昴に飛んでいくのを見て歓喜の表情を浮かべる健司。だがその顔には焦りの色が見え隠れしていた。




 昴は'ケルベロス'が飛ばしてくる岩を一つ一つ丁寧に"飛燕(ひえん)"で迎撃しながら着実にダメージを重ねていく。


「確かに強いが…炎龍には遠く及ばねぇな」


 昴は飛び上がり、三つの頭に向けて"飛燕(ひえん)"を撃ちまくる。大して魔力を注ぎ込んでいないその攻撃は'ケルベロス'になんのダメージも与えることは出来ないが目くらましには十分であった。'ケルベロス'が眼前の黒い刃に意識が向いている間に昴は素早く足元へと移動する。


「『お手』だ、わん公」


 そう言うと魔力を一気に高め”舞鶴(まいづる)”を唱えた。鋭利な回転ノコギリのように回転しながら放たれたそれは、鋼鉄以上の強度を誇っていた'ケルベロス'の皮膚を容易に貫き、右前足をかなりの深手を負わせる。


「ぎゃぁぁあおおぉう!!」


 'ケルベロス'は雄叫びをあげるながらその場で倒れそうになるが、残る三本の足で地面を踏みしめすんでのところでなんとか堪えた。六つの目が少し離れた昴を憎々しげに睨みつけるが、思うように動くことができない。


「それで機動力は半減だ。勝負あったな」


 'ケルベロス'の背で悔しそうに歯噛みする健司に昴が構えを解きながら淡々と告げる。万全の状態ですら敵わなかった相手に、片足を負傷した'ケルベロス'にもはや勝ち目がないのは明らかだった。


「まだやるってんなら相手になるけど手加減はできねぇぞ」


「……………」


 健司は俯いたまま昴の言葉に一切の反応を示さない。昴はいつでも不意を突かれてもいいように【気配察知】のスキルだけは発動させておく。’ケルベロス’自身も片足をやられて勝てる相手ではないことを身体で感じ取っており、どうにも攻めあぐねていた。

 しばらく様子を伺っていたが引く気配のない健司に痺れを切らした昴が声を上げる。


「おい、前田。これ以上は」


「黙れクズが」


 昴の言葉を怒気を孕んだ声が遮った。健司はゆっくりと顔を上げると胸に装着している魔道具に手を伸ばす。


「勝ったつもりでいるのか?」


 悔しげな表情から一転、今度は嘲笑うような顔を昴に向けた。唐突な態度の変化に昴は眉をひそめる。


「こいつは俺が作った魔物だぞ?俺さえ生きていれば何度だって甦るんだよ!!」


 健司は魔道具の力を最大限に発揮した。魔道具が目が絡むような黒い光を発すると、肉眼で確認できるほどの濃密な魔力が'ケルベロス'の身体を包み込む。

 魔力のベールを脱いだそこには先程まで受けた傷が綺麗さっぱり無くなっている'ケルベロス'の姿があった。完全に回復しきった'ケルベロス'は地を揺らすほどの雄叫びをあげる。


「めんどくせぇな…」


 昴は顔を顰めて舌打ちをすると両手に持つ'鴉'を構え直した。完全に息の根を止める以外に道はない、そう考え駆け出した昴の動きがピタリと止まる。


「がはっ!ごほっ!」


 咄嗟に手で口を押さえた健司だったが、その手から大量の血があふれ出した。昴は大きく目を見開きながら健司の様子を眺める。


「お前…」


 健司は明らかに尋常な様子ではない自分を前に戸惑いを隠せない昴をビシッと指差した。


「殺せ…殺せぇぇぇ!!!」


 その叫びに呼応するように'ケルベロス'が動き出す。先程よりも速く、先程よりも苛烈に攻めてくる'ケルベロス'の攻撃を'鴉'で受ける昴。その表情には迷いが生じていた。


「前田!このまま続ければお前確実に死ぬぞ!!」


 昴が大声を上げるも健司は全く聞く耳を持たない。口から垂れた血を手の甲で拭うと狂気に満ちた笑みを浮かべた。


「俺が死ぬ?死ぬのはお前の間違いだろうが!!さぁ、'ケルベロス'!!さっさとそのクズを蹴散らせぇぇぇ!!」


 もはや捨て身の覚悟で'ケルベロス'が突っ込んでくる。その頭には目の前に立つ敵を殺すことしか頭になかった。

 三つの顔全てが昴の姿を捉えながら執拗に牙をたて、鋭い爪を振りかざしてくる。受けに徹している昴の守りを躍起になって剥がそうとしていた。


「この…馬鹿野郎が…!!」


 思わず悪態をつく昴だったが、健司の吐血した姿が目に浮かび、'ケルベロス'相手になすすべがない。打開策が浮かぶまで'ケルベロス'の猛攻を受け続ける以外に昴に選択肢はなかった。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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