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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
サロビア平原の戦い
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24.'獣将'オセ

 真菜は怒りを鎮めつつ、改めて昴を観察する。


「……武器は使えないと思っていたけれど?」


 近づいてくる昴にぶっきらぼうな口調で真菜は問いかけた。


「あぁ、こいつ以外はな。俺のスキルはお前も知っているだろう?そのスキルの正体がこれだ」


 昴が’鴉’を真菜に見せるように前に出す。昴が持っている武器は真菜が今まで見たことのないような黒一色の双剣であり、魔族以上に禍々しい気配を感じた。それを見ながら真菜は国民の儀の時を思い出す。


 昴のステータスはある意味で【勇者】の浩介よりも注目を引いたものであった。【鴉の呪い】という他のクラスメートとは色の異なるユニークスキルを持ち、ステータスはこの世界の人間と比べても、極めて低い。


 そんな昴が魔族を一蹴したことに、目の前で見ていたとはいえ俄かに信じがたいことであった。


「さて、この辺で望月は後ろに下がってくれるか?」


「はっ?」


 突然の退却命令に真菜は耳を疑う。


「石川や雫がお前のこと心配してるんだ。だから、望月はあいつらのところに戻れ」


「……魔族との戦いはどうするの?」


「俺と……あともう一人俺の仲間が来る予定だから、そいつと二人でやればなんとかなるだろう」


「なるほど」


 確かに昴の強さなら後ろに控えている悪の親玉も倒すことができるかもしれない。しかももう一人、誰かは知らないが、昴の仲間がやって来るとのこと。昴の口振りから、おそらく同じような実力の持ち主なのだろう。そうであれば自分は下がってその二人に任せるのが賢い選択である。


 真菜はニッコリと笑みを浮かべるとはっきりと昴に告げた。


「お断りよ」


「なっ!?」


 まさか断られると思っていなかった昴は目を丸くする。


「私は雫に諸悪の根源を叩くと約束したの。だから、それを達成するまではあの子達のところには戻らない」


 強い意志を持って言い放った真菜を見て、昴は呆れたようにため息を吐いた。


「お前さぁ……体力だってもう限界に近いんだろ?魔力だって消費しまくってるし」


「それは戻る理由にはならない。それにこの戦いの指揮権は雫にあるの。あなたがいくら強いからといって、それに従うつもりはないわ」


 あくまで戻る気は無いと主張する真菜。言っていることの筋が通っているだけに昴は強く出ることができず、思わず頭をガシガシと掻いた。


「魔族相手よりも苦戦しているのではないか?」


 そんな昴を面白がるような声が二人の後ろから聞こえる。振り返ると男嫌いの真菜ですら目を引くような美形の男がからかうような笑みを浮かべて立っていた。


「ニール!?お前早すぎない!?」


「お前の指示通り中央に集めたんだが、なにやらちんたら話し合っていたので俺だけ先に来た」


 昴が驚きながらバツの悪そうな表情を浮かべる。ニールは昴を無視して真菜の方に視線を向けた。


「なかなか肝が座っている者だな」


「望月真菜よ。あなたは?」


「俺は竜人種のニールだ。今はいろいろあってスバルと行動を共にしている」


 銀髪の美男子が人族ではなく竜人種であることに真菜は驚きを隠せない。ニールは真菜を興味深そうに観察すると、不機嫌そうな昴に声をかけた。


「別に一人くらい連れて行っても問題ないだろ?」


「嫌だよ。俺がこいつを守りながら戦うことになんだろうが」


「あら、守ってもらうつもりなんてないけど?」


 刺々しい口調で真菜に言われ言葉に詰まる昴を見て、ニールは本当に嬉しそうに笑みを深める。


「とにかく望月はあいつらのところに戻れ!ここは俺たち二人が」


 言葉の途中で昴とニールが同時に上空へと視線を向けた。その先にはランクCモンスターの’ジャイアントスパロー’が悠々と空を飛んでいる。だが、二人が反応したのはその背に乗る男。’ジャイアントスパロー’の上から地上を眺めていた男は勢いよくその背から飛び降りる。


「……ボスの登場か?」


「……骨のあるやつだといいんだがな」


 昴が視線だけ向けると、ニールは腕を組みながら静かに言った。


 地面に亀裂を作りながら着地したのは大柄な金髪の男。背丈は二メートルを超えるほどで、裸の上半身からは鍛え上げられた肉体がこれでもかというほど主張されている。金髪の男は倒れているウィスキに目をやり、鼻を鳴らすと二人に視線を向けた。


「ウィスキの気配が消えたから何事かと来てみれば……やったのはお前ら二人か?」


「俺だ」


「お前一人でか?はっ!八獣星の筆頭を名乗りながら人族相手にやられるとは情けねぇやつだ!!」


 金髪の男は顔を顰めながら地面に唾を吐いた。昴は突然前に現れた男を何も言わずに観察する。【気配察知】のスキルがこれまで出会った魔族とは一線を画する実力者であることを昴に告げていた。


「オレ様はオセだ。今回の戦いの……まっ親分ってとこだ」


 自分を親指で指しながらオセは不敵な笑みを浮かべる。オセ自身も前に立つ二人から異様な圧力を感じ、強者との戦いを前に気分が高揚するのを感じていた。


「まぁなんだ、オレ様は交渉とかそういう細々したもんが大っ嫌いなんだよ。だから……」


 オセが昴達に【威圧】を放つ。その尋常ではない威圧感に真菜は思わずたじろいだ。


「オレ様を倒せば終わりだ。単純でいいだろ?」


 自分の【威圧】を受けても涼しい顔をしている二人を見て、オセの口角が上がる。


 昴とニールは向き合うと、何も言わずにジャンケンをし始めた。唐突に奇怪な行動をとり始めた二人を、真菜が唖然とした表情で見つめる中、数十回のあいこの末、ニールが勝利を収める。


「はっ!?今の後出しだろ!」


「黙れ。指をくわえて大人しく見ていろ」


 勝ち誇ったような顔で悔しがる昴を見下す。昴は舌打ちをすると負けろ、と一言添えて真菜のところまで下がって行った。混乱の極みであった真菜が慌てて昴に尋ねる。


「ジャンケンって何?というよりなんであんたはここにいるの?」


「順番だよ順番。くっそ……久々にやりがいのある相手だと思ったのに」


 本気で悔しそうな昴を見て真菜は顔をひくつかせる。てっきり二人で戦うものだと思っていた真菜はわけがわからない、といった表情を浮かべた。

 オセも同様に考えており、一人だけ前に立ったニールを見て眉をひそめる。


「なんだ?二人で来ないのか?」


「こんな楽しそうな獲物をあいつに分け与えてやるつもりはない」


 涼しげに言い放ったニールをオセが睨みつける。


「……後悔すんぞ?」


「それはこちらのセリフだな」


 オセは【身体強化】を施すと、ニールに向かって拳を振るった。ニールも同様に自分の拳を打ちつける。二人の拳がぶつかるとその衝撃で二人を中心に地面がせり上がった。


「おらおらおらっ!!」


 オセの繰り出す拳をニールは素手で受けていく。オセの攻撃はウィスキよりも速く、一撃一撃の重みが雲泥の差であった。捌ききれなくなったニールの顔面にオセの拳がクリーンヒットする。

 ニールは後ろに飛びながら身体をひねり、受け身を取りながら地面に着地した。切れた唇から流れた血を指で弾くと、余裕を浮かべているオセを見据える。


「そんなもんじゃねぇだろ?さっさと全力でかかってこいよ」


「……雑魚とは違うみたいだな。面白い」


 ニールは’ファブニール’を取り出すと、身体に魔力を滾らせる。突然槍が現れたことに若干驚いたオセであったが、ニッと笑みを浮かべると興味深そうにニールを眺めた。


「"雷帝(らいてい)"」


 ニールの身体から電気が迸る。ニールの使った魔法を見て、オセはスッと目を細めた。


「【雷属性魔法】とは珍しいもんを使いやがる」


「安心しろ。見掛け倒しじゃない」


 そう言うとニールの姿が一瞬にしてその場から消える。真菜が気づいた時にはオセの隣に移動して槍を振っていた。オセは’ファブニール’を防ぐと、反対の腕で殴りかかろうとしたが、既にそこにはニールの姿はない。

 気配を感じとり、裏拳を放ちながら振り向くも、またしてもニールの姿はなかった。と、思った瞬間、顔面に右足が振り抜かれ、後方へと吹き飛ぶオセ。

 ズザザーと地面の上を滑りながら体勢を整えると、ニールを睨みつける。ニールは追撃する様子もなく、無表情でこちらを見つめていた。


「そんなものか?全力でかかってこい」


 先ほど言った自分の言葉で煽られ、オセは野獣のように荒々しい笑みを浮かべる。


「おもしれぇ!!ぶち殺してやるよ!!」


 オセは気合いを入れるとニールに飛びかかった。ニールもそれを真正面から迎え撃つ。


 混じり合う拳と槍。二人の戦いは次第に激しさを増していった。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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