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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
サロビア平原の戦い
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22.猛虎

 魔物をうまく躱しながら真菜は戦場をどんどん進んでいく。途中高ランクモンスターの大群と遭遇し、身構えた真菜であったが、特に交戦することもなく通り抜けることができた。おそらく狙いは後方で戦っている雫達であろう。真菜は一瞬戻るかどうか迷ったが、魔物を操る元凶を倒すことを優先し先へと急いだ。

 しばらく進むと魔物の姿が一切見えなくなり、違和感を抱きながら走っていると不意に真菜の足が止まる。その視線の先には腕を組みながら目を瞑り、鋭利なスピアを携えた男が立っていた。


「私達の仲間……ってわけじゃなさそうね」


 男が放つ威圧感に気圧されながら、真菜が鉄扇を構えると男はゆっくりと目を開く。


「最初にここへとたどり着いたのが小娘とはな……嘆かわしいことだ」


 重厚な声には若干の呆れの色が滲んでいた。男は鋭い視線で真菜のことを値踏みするように見つめる。


「我はこそは八獣星の一人、’猛虎’のウィスキ。……ここまで来たことは褒めてやるが、人族である貴様が魔族の我と刃を交えるのか?」


 魔族という言葉に真菜がピクリと反応した。しかし、すぐに頭を切り替え、目の前にいる人族と変わらない姿の男は自分の敵であることを認識する。


「あなたが魔族で私が人族である限り、戦うしかないわね」


「……是非もなし」


 【身体強化】をかけ迫ってくる真菜を見ても、顔色一つ変えず鉄扇をスピアで受け止めた。真菜は相手の力に逆らわず、スピアの上を滑るように移動すると懐に入り込み鉄扇を胴体に叩きつけるが、スピアの持っていない方の腕であっさりと防がれた。真菜は目を見開くと、ウィスキの身体を蹴って距離をとる。


「ほぉ……ここまで来るだけのことはあるということか」


 一連の真菜の動きに感心したような口ぶりのウィスキだったが、まだまだ余裕の面持ちであった。真菜は両手に持った鉄扇を開くと魔力を練り上げる。


「“乱れ狂う風刃(カマイタチ)”」


 鉄扇から繰り出される無数の風の刃をウィスキは事も無げに一つ一つスピアで弾いていった。真菜はその隙に後ろへと回り込み鉄扇を振るうが、ウィスキは身体を反らしてそれを躱す。


「狙いが甘い」


「それはどうかしら?」


 相手が避けるのも織り込み済みだった真菜は溜めていた魔力で魔法を唱えた。


「“空気砲(エアーショット)”!!」


 圧縮された空気の塊がウィスキの顔面に直撃する。下級魔法であるのでそこまでのダメージは期待できないが、それでも相手を怯ませる効果はあった。


「ぐぬぬ……」


 真菜はのけ反った相手の足を素早く払い、倒れてくるウィスキの腕を掴んで、その流れに逆らわないように自身も回転しながら投げ飛ばした。


「“空気砲(エアーショット)”!!」


 すかさず相手に魔法を放つが、ウィスキは地面に手をついて横へと飛び、難なくそれを躱していく。ウィスキは何度か飛び跳ねながら体勢を立て直すと、真菜に向き直った。


「妙な技を使うのだな」


「しゃべってる暇はないわよ」


 相手の息を整える暇を与えない、と真菜がウィスキに向かっていく。流れるように繰り出される二本の鉄扇をウィスキはスピア一本のみで受けていった。


「まるで踊りのようだな。それでは我には勝てん」


「そうね……なら魔法に頼ることにするわ」


「ぬっ!?」


「”吹き荒れる暴風(ハリケーン)”」


 真菜が咄嗟にその場から離れると、ウィスキを中心に巨大な竜巻が発生する。真菜が唱えることができる最大の上級魔法はウィスキの身体を容赦なく切り刻んでいった。


 これで倒しきらなければウィスキを倒すことは難しくなる。真菜が真剣な表情で見つめる中、暴風が消え去りウィスキの姿が見えてきた。その身体はいたるところから血が噴き出しており、かなりのダメージを受けているように見受けられる。


「なるほど……異世界の勇者、面白い相手だ」


 しかし、その口調にはまだ余裕が感じられた。真菜は内心で舌打ちをしながら、無言でウィスキの様子をうかがう。


「よもや人族相手に使うことになるとは……貴様、アニマトリウスを知っているか?」


「アニマトリウス?」


「知らぬか……まぁいい。見てればわかる」


 ウィスキは血だらけの身体で魔力を高めていった。その魔力の量に真菜は警戒心を高めながら、なにが来てもいいように身体の前で鉄扇を開き身構える。


「“獣神化(ビーストソウル)”」


 ウィスキの姿がみるみる変貌していった。人族と変わらない姿が腕と足の筋肉が膨れ上がり、身体は黄色く黒い縞模様が入っていく。爪も牙も鋭くなり、それだけで致命傷が与えられそうな武器へと変わった。


「これがアニマトリウスだ。我の場合は虎の力を宿し、身体能力が格段に強化される」


 驚いている真菜を見て、ウィスキが薄い笑みを浮かべる。


「さて、今度はこちらから行くぞ」


 槍を構え、真菜へと突進をする。真菜は慌てて鉄扇で受け流そうとするも、突きの威力、速度共に先程とは比べられないほど強化されていた。


「そらそら、さっきの威勢はどうした?」


 ウィスキは連続で突きを繰り出した。防ぐので精いっぱいで魔法を唱えることができずにいる真菜をいたぶるように攻撃を続けていく。


「くっ……」


 肩や腕に槍がかすめ、真菜は思わず顔を歪めた。ドクドクと血が流れているものの、【風属性魔法】により応急処置をしている暇はない。

 鉄扇でなんとか槍を受けていた真菜だったが、力負けしてバランスを崩したところをウィスキが槍の後ろにある石突で腹を突いた。


「がっ…」


 吹き飛ばされた真菜はそのまま地面を滑っていく。なんとか立ち上がろうとするも、すさまじい激痛が腹部を襲い、思わずその場で蹲った。ウィスキは愉快そうにそんな真菜を眺めるだけで、近づき止めを刺そうとしない。


「どうした?そんなものか?我はまだまだ戦い足りぬぞ?」


 真菜は”アイテムボックス”から治癒ポーションを取り出すと一気に飲み干した。まだ痛みは残るものの、ある程度体力が回復し、よろよろと立ち上がる。それを見てウィスキがニヤリと笑みを浮かべた。


「そうだ!もっと我を楽しませてみろ!」


「……この戦闘凶め」


 悪態をつきながら限界まで【身体強化】を施し、ウィスキへと向かっていく。とにかく相手に攻撃をする暇を与えないよう、連続で鉄扇を振るっていった。【剣舞】のスキルを持つ真菜は連続攻撃をスムーズに行うことができ、その速度は攻撃を加えるたびに加速する。

 

 どれだけ時間がたったであろう、無限とも思える剣戟が二人の間で繰り広げられていた。真菜は体力が続く限り攻撃の手を緩めない。それをウィスキは余裕の表情でさばいていく。

 本気を出せば一瞬で勝負をつけることができるのだが、ウィスキは真菜との戦いを楽しむように自分からは攻撃することを控えていた。真菜もそれを感じており、この油断を利用しようと虎視眈々とその機会をうかがっている。

 真菜の鉄扇を躱したところでウィスキが槍を少しだけ後ろに引いた。長時間戦って来たおかげでウィスキの癖がわかっていた真菜は突き攻撃が来ることを察知し、この時が好機と魔力を一気に高める。


「ここよ!」


 突き攻撃を放つとき、ウィスキの身体が前に出ることを利用して、カウンターの要領で魔力をこめた一撃をウィスキの顔面に叩き込んだ。真菜の鉄扇の勢いに自分の勢いも合わさってウィスキはものすごい勢いで後方へと吹き飛んでいき、動かなくなる。


「これでどう……?」


 はぁはぁと息を荒げながらウィスキの様子を覗う。立ち上がる素振りが見えないので真菜はホッと息を吐いた。


「……今の攻撃はなかなか良かった」


 ビクッと身体を震わせ、目を向けると、そこには首をコキコキと鳴らしながら立ち上がるウィスキの姿があった。


「だが、重さが足りない」


 特にダメージを負った様子を見て愕然としている真菜の目の前に超高速でウィスキが現れると、真菜の顔面に右ストレートを放つ。防御する猶予もなかった真菜は、そのままモロに拳を受け、殴り飛ばされた。


「ここらが潮時か」


 立ち上がろうともがく真菜を見ながら、ウィスキがつまらなさそうに呟く。


「所詮はこの程度か……女の割にはよくやった方だな」


 ウィスキの言葉に真菜の動きがピタリと止まる。沸々と沸き起こるのは怒りの感情。


「……女の割に?戦いに性別が関係するのかしら?」


「当然だ。女は弱い生き物。戦うのは雄の役目」


「呆れてものが言えないわ」


 真菜は口から流れてくる血をそっとぬぐいながら、気力で立ち上がるとウィスキに鋭い視線をぶつけた。


「あなたみたいに女を馬鹿にする男は大嫌いなの」


「……核心を突かれて逆上しているようにしか見えないが?」


 小馬鹿にしたような態度をとるウィスキ。真菜は大きく息を吐くと自分の服に手をかけた。


 今まで戦っていた真菜は本気ではあったが、全力ではなかった。正確に言うと全力を出したくなかったのだ。真菜のユニークスキルである【踊り子】には強力だが扱いに困るスキルがあった。


 それは【軽装強化】。

 軽装であれば、薄着であればあるほどそのステータスが上昇するスキル。踊り子の服のように露出の高い服で戦えば、その強さは他のユニークスキルを凌駕する。


 このスキルを真菜は毛嫌いしていた。ただでさえ男が嫌いな真菜が、強くなるためとはいえ、そんな男達の前に自分の肌を露出するのにどうしても抵抗があった。【軽装強化】のスキルを使わなくても今まで困ったことはなかったため、真菜はこのスキルを使わないことを心に決めていた。


 だが、そんな決意を揺るがすほど真菜は目の前の敵が許せなかった。女を男の下と決めつけ、見下すような態度をとる男が、真菜にとって最も忌避すべき対象。


 気持ちを落ち着けるようにゆっくりと息を吐くと、覚悟を決める。


 だが、その覚悟は無駄なものになった。真菜が敵を見据えながら上着を脱ごうとした瞬間、二人の間に何者かが割って入ってくる。突然現れた黒髪黒コートの男は目を丸くしている真菜の顔を見て、安心したような表情を浮かべた。


 死んだと思われていた楠木昴が望月真菜のもとへとたどり着いたのだった。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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