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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
サロビア平原の戦い
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19.青肌の美女

 「おーい!!スバルー!!」


 およそ戦場には似つかない可愛らしい少女の声が聞こえ、雫は目元をぬぐいながら慌てて昴から離れる。昴が呼ばれた方に目を向けると、上機嫌のタマモ、なんだか疲れた様子の優吾、そして困り顔のさおりと騎士たちが走ってくるのが見えた。

 雫の近くにいる昴を見てさおりが指をさしながら声にならない悲鳴を上げる。そんなさおりを見て昴は思わず苦笑いを浮かべた。


「驚かせて悪いな。でも、今は事情を説明している暇はないんだ」


 しかも口調が自分が知っている楠木昴のものと全然違うため、さおりの頭は混乱の極致にあった。騎士の中にも昴に見覚えがあるものがいたのか、口をポカンと開けて昴を見ているものが見受けられるが、昴はあえて気がつかないふりをする。


「ちゃんと特定の相手だけに炎を当てられるようになったのじゃ!!」


「そうか。これで乱戦状態でもタマモの魔法に期待できるな」


 自信満々に話しかけたタマモの頭を優しくなでる。


 龍神様と戦った時にタマモが昴を自分の魔法で焼き殺さないように調節してみせたのを機に、昴はタマモに対象以外には炎の影響を与えないよう調節できるようになることを課していた。夜寝る前や朝起きてからコツコツと練習をしていた成果もあり、なんとか本番一発で成功させることができたのだ。


 タマモに優しく接する昴を見ながら、雫とさおりは微妙な表情を浮かべる。


「昴?その子は?」


 遠慮がちに聞いてくる雫に対し、なんて説明するか迷ったが、昴はシンプルに自己紹介することにした。


「仲間のタマモだ」


「スバルの仲間のタマモじゃ!よろしくのっ!!」


 仲間と言われたのが嬉しかったのか、尻尾をピンと立てながら雫に笑顔で話かけた。その様子のあまりの可愛さに、女子二人のタマモをモフりたい欲求がうなぎ上りになる。


「詳しい話はこれが終わってからってことで。とりあえず今の状況を教えてくれ」


 昴に言われ、今自分たちが置かれている状況を思い出した三人の顔が真剣なものになり、前にいる魔族達の方へ向いた。魔族達はなぜかこちらの様子を見ているだけで何かをしてこようという素振りはない。雫は魔族達を警戒しながら昴に状況を説明し始めた。


「時間がないから簡潔に話すね。魔族がアレクサンドリア王国に侵攻。それを食い止めるためにあたし達異世界の勇者と騎士団がここサロビア平原に派遣されたの。そして三手に別れて侵攻を阻止しようとしているのだけれど、そのいずれにも彼らのような手ごわい魔族と魔物の群れがあたし達に襲いかかってきてる」


「なるほどね……だから上から探知したときに三つほど塊があったのか……」


 雫が早口で要点だけ伝えると、昴は納得したようにうなずいた。


「そうよっ!だから早く他の人たちのところへ……!!」


「雫、大丈夫だ」


 他の仲間を助けたいと気が()いている雫を昴が落ち着かせる。なんで大丈夫なんて言えるか雫にはわからなかったのだが、昴の言葉は信頼できた。


「大丈夫っていうのは?」


 昴が落ち着いているなら問題ないだろう、と理解している優吾が特に心配した様子もなく尋ねる。昴は優吾に目を向けると悪戯を仕掛けた子供みたいにニヤリと笑みを浮かべた。


「俺たちの仲間がそれぞれの場所に向かっている」


「仲間って言うと?」


「優吾も知っているだろう?ニールだ」


「あいつが昴について行ったのは知ってるよ。でも、戦場は三つあるんだ、もう一人仲間がいるんだろ?」


 優吾の言葉に昴は少しだけ眉をひそめた。


「あいつは……正確には仲間じゃないけど……まぁ大丈夫だと思う……多分」


 はっきりしない昴の口調に皆の不安が掻き立てられる。タマモが気配を察し、全員に笑いかけた。


「大丈夫じゃっ!ユミラ(ねぇ)は強いのじゃ!!」


「……戦闘力は申し分ないんだが、気まぐれそうだからなぁ」


 昴は仲間が降り立った戦場へと目を向けながらぼやくように呟いた。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


 誠一達はものすごく戸惑っていた。


 ランクCモンスターである’ブルーブル’と’グリズリーベア’を勝が倒した後、意気揚々と進む誠一たちの前に二人の魔族が現れた。’鋭鼬(えいゆう)’のラミーと’鈍熊(どんゆう)’のキーラの名乗る二人は自分たちが八獣星であることを告げるや否や誠一たちに襲いかかってきた。


 ラミーの方はイタチの力を身に宿して地中を泳ぐように移動しながらこちらを翻弄し、キーラは熊のように身体を大きくすると、力自慢である勝をも超える膂力で誠一達を苦しめた。


 活路が見いだせないまま敵の攻撃をしのいでいると、同じ異世界人の亘と卓也が加勢に入り、なんとか五分五分のところまで立て直したものの、高ランクの魔物が次々と後ろからやって来たため、誠一たちは再び窮地に追いやられていた。


 勝の【凶化状態】もこれ以上使えなくなり、亘と卓也の魔力も底をつき始めていたその時、突然空から王国の紋章が入った鞍をつけている’グリフォン’が空から舞い降りてきた。

 王国からの援軍か、といろめ色めきだつ誠一だったが下りてきた人物を見て、皆一様に唖然とした表情を浮かべた。

 ブルーサファイヤのような色の美しい青い髪は腰まで伸びており、すらりと伸びた身長はモデル顔負けといった感じ。目のやり場に困るような薄着で、ビキニアーマーの白が髪をより引き立たせていた。薄く青みがかかった肌の色が彼女が人族でないことを証明していた。


 あまりの美しさにこの場にいる全員が目を奪われているなか、誠一は魔族の様子を覗う。こちらの軍勢に見覚えがあるものがいないとなれば、必然的に彼女は魔族側の手の者だろう。そう考えた誠一が魔族の方に目を向けるも、二人とも困惑したような表情で現れた美女を見つめていた。


 青髪の美女は何かを確認するように誠一達と魔族を一瞥すると、何も言わずに手を前にかざした。その瞬間、誠一達と魔物を切り離すように氷の壁が出現し、青髪の美女が微笑を携えながらこちらへと歩いてきたのだった。




 ユミラティスは驚愕の表情でこちらを見ている人族達の顔をじっと見つめる。’グリフォン’で昴に聞いた情報に合致する者は見受けられない。


「もうちょっとちゃんと教えなさいよね」


 一人愚痴るユミラティスであったが、卓也と亘を見つけるとそこで視線を止めた。


「あら、あなた達がワタルとタクヤ?」


 ユミラティスが名前を呼んだので、誠一達が驚いたように二人に視線を向ける。見知らぬ美女がまさか自分達の名前を知っているとは思いもよらなかった当の本人達は周りの者達よりも数段驚いていた。


「……私が中村亙ですが?」


「ぼ、僕が斎藤卓也です……」


 二人がそう名乗り出るとユミラティスが嬉しそうに二人に近づいてきた。


「よかった!スバルの情報があやふやすぎて自信がなかったのよ」


 ユミラティスがスバルの名前を出した瞬間二人の顔から緊張の色が消えた。


「なるほど、昴君の仲間でしたか」


「仲間っていうか……まぁ今はそんな理解でいいわ。ユミラティスよ」


「こんな短時間で仲間が増えてたなんて驚きだね……あっと、よろしくお願いします」


 律儀に頭を下げる卓也を見てユミラティスは笑みを浮かべた。そんなユミラティスを見ながら亘は身体をワナワナと震わす。


「タマモ嬢は可愛らしいですが、まだ幼いので昴君の仲間と聞いても何とも思いませんでしたが……こんな奇麗な女性が仲間とはうらやま……けしからんですね」


 高速で眼鏡を上げ下げしている亘を見て、ユミラティスは呆れたように息を吐いた。


「……案外スバルの情報もあやふやじゃなかったかもしれないわ」


「昴君はなんと?」


「戦場に『無口な女』と『残念馬鹿』と『ムッツリ眼鏡のアホ』と『根暗オタク』がいたら助けてやってくれって。ねぇ、『オタク』って何かしら?」


 サラサラとユミラティスがあけすけに言い放つと、卓也と亘は不機嫌そうに閉口する。そんな三人の様子を蚊帳の外で見ていた誠一が亘に問いただした。


「おい、この奇麗な人は誰だ?」


「あー……私にもよくわかりませんが味方……ってことでいいんですよね?」


「その認識でいいわ」


 やんわりとユミラティスに微笑みかけられ、誠一は少し顔を赤くしながらそっぽを向く。


「とりあえずあなた達全員を一旦中央へと……」


 ユミラティスの話の途中で全員を囲っていた氷壁が音を立てて砕け散った。そちらに目を向けると、そこには巨大な腕を突き出したキーラの姿が。


「オラたちのことを無視してー何を話しているだー!!」


 間の抜けたしゃべり方とは裏腹に、眉を吊り上げ怒気をあらわにしている。


「キーラの言う通りだ!」


 くぐもった声が聞こえるが辺りを見回しても声の主は見つからない。ユミラティスがつまらなさそうにキーラの方を見た。


「余裕を見せたお前たちが悪い!」


 それまで地中に隠れていたラミーが地面から飛び出すと同時にその鋭利な爪でユミラティスを串刺しにした。周りはどよめき、ラミーとキーラから慌てて距離をとる。


「お前らもこの女のように……ん?」


 ユミラティスから爪を引き抜こうとするも、なぜか手が動かない。おかしいと思ったラミーはユミラティスの方に目を向けるが、刺し口から吹き出しているであろう血が一滴も流れていなかった。


「“氷の彫像(アイススタチュー)”」


 その言葉とともに、腹部を貫かれたユミラティスがたちまち氷像へと変化していく。ラミーが慌てて声のする方に目を向けると、ユミラティスが’グリフォン’の上で膝を組んで座っていた。


「相手の息の根を止めるまで油断してはダメよ」


 笑顔でユミラティスが忠告する。ラミーは必死に自分の腕を引き抜こうとするが氷像に刺さった腕は微動だにしない。


「くっ……キーラ!!」


 相棒に呼ばれたキーラはようやくユミラティスの存在に気がつき、そちらへ向かおうとするが、なぜだかその場から動くことができずにいた。首をかしげながら自分の足元を見ると、氷漬けにされた足が地面に張り付けられている。


「敵を見失うのもダメ」


「だめだー動けねぇよー」


「なんだと……?」


 キーラの怪力具合はラミーが一番よく知っていた。そのキーラが力づくで動けないほどの氷を目の前の女が操っている、ラミーの背中に冷たいものが走る。


「く、くそぉ!!魔物ども!あの女をやっちま……え……?」


 自分達が動けないなら魔物達をけしかけようと、そっちに目をやると魔物達もキーラ同様、足が氷漬けにされておりその場に釘付けにされていた。恐怖の色を浮かべながらラミーが視線を向けると、ユミラティスは静かに笑いかける。その笑顔が何よりも恐ろしかった。


「あなた達と遊んであげたいのは山々なんだけど、こっちもあまり時間がないみたいだから」


「ま、待ってくれ!!」


 ユミラティスが魔力をこめながら右手を上げるのを見て、慌てたようにラミーが話かけた。


「お、お前氷霊種(エケネイス)だろ!?なんで人族の味方なんてしていやがるんだ!!」


 ユミラティスの動きがピタッと止まる。それを見て手ごたえを感じたラミーはユミラティスを説得し始めた。


「お前も人族にいい印象は持ってないだろ!?今からでも遅くはない、俺達魔族側につけ!!悪いようにはしない!!」


 興味深そうにラミーを見ていたユミラティスがフッと微笑を浮かべる。


「そうね……別にいい印象は持っていないわね。好きってわけでもないし」


「なら俺達の仲間になれ!!そうすりゃ俺が掛け合ってお前らの種族を優遇してやるよ!!」


「それは魅力的なお誘いね」


 ラミーはほっと息を吐き、誠一達を見ながらニヤリと笑みを浮かべた。卓也と亘を除く誠一達は不安そうにユミラティスの方に顔を向ける。


「だろ!?今からでも遅くはない!!俺からオセ様に口利きを───」


「でも、残念ながら魔族(あなた達)のことは大嫌いなの。ごめんなさいね」


「へっ?」


 ユミラティスは爆発的に魔力を高め、親指と中指をそっと合わせた。


「“絶対零度(アブソリュートゼロ)”」


 ユミラティスが指を鳴らした瞬間、人族を除くすべてのものが一瞬で氷結した。散々こちらを苦しめていた魔物も、せっかちで卑怯な(イタチ)も、愚鈍で馬鹿力な熊も氷に包まれ、もう二度と動くことはない。

 ユミラティスは氷漬けになったラミーに近づくと妖艶な笑みを浮かべる。


「最後の忠告。交渉するときは相手を怒らせてはダメよ」


 それだけ告げると何事もなかったかのように誠一たちのもとへとやって来た。


「さぁ、行きましょうか」


 一瞬で全てが凍り付く、という離れ業をやってのけたユミラティスを唖然とした様子で見ていた誠一達であったが、歩き出したユミラティスに疑問も抱かずについていく亘と卓也を見て、慌ててその後を追う。

 すぐ後ろについて来る二人にちらりと目を向けると、ユミラティスは柔らかい口調で尋ねた。


「あなた達は私が裏切るとは思わなかった?」


「えぇ、全く」


「昴君が送ってくれた人だからね」


 当然のように二人が答えるとユミラティスは一瞬呆けたような顔を見せる。そして、すぐに微笑を浮かべると、昴がこの二人を守れと言った理由が少しわかったような気がした。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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