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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
サロビア平原の戦い
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16.聖騎士の護り

 現れたのはランクBモンスター’サーベルタイガー’、ランクCモンスター’ブルーブル’、そして同ランクの’グリズリーベア’。一目見ただけでは正確な数がわからないほどの群れがこちらに向かってきている。この三種類の魔物は基本的には単独で行動することを好むため、ギルドの依頼でもここまでの数の討伐はありえない。


「まじかよ…」


 優吾の呟きが三人の気持ちを代弁していた。あの数の魔物を相手にするのは万全な状態でなければ厳しいというのに、こちらは疲弊しており、魔族のおまけもついている。どう考えても絶望しかない、少なくとも優吾とさおりはそう思っていた。


「なるほどね…戦っている最中もやけに話しかけてくると思ったら、時間を稼いでいたのね」


 ただ一人、予想外の魔物の登場に驚きこそすれ、絶望をしていない女が一人。雫は倒すべき敵をしっかりと見据え、剣を構えた。ウォックは自分の顎をなぞりながら雫を感心したように見つめる。


「この状況で目が死んでねぇな…【聖騎士】は伊達じゃねぇか」


「強がっているだけだろう」


 ウォックに対してジンロは冷たい視線を向ける。


「さっさと倒した方がいいっていうか、魔物も使って全員で戦った方がいいっていうか」


 さっきのトラウマがあるのか、ビルが慎重な意見を口にするとウォックは不満そうに舌打ちをした。


「そういう戦い方は好きじゃねぇが…ここで時間食っている場合じゃねぇしな。さっきのちっこい女は少しやばい気がする」


「美冬の事?」


「あぁ、さっき俺たちに魔法を使ってきたやつだ。あいつはお前と違って相手を倒しきる目をしてやがる。お前とは覚悟が違ったな」


 煽るようにウォックが告げるが、雫は一切気にしている素振りはない。そんな雫の態度がウォックには気に入らなかった。


「なんだよ?馬鹿にされて言い返すこともしないのか?プライドはねぇのか!?」


「別に…美冬とあたしの覚悟は種類が違うだけだから」


「種類が違う?」


「えぇ」


 眉をひそめるウォックに無表情で答えると雫は【身体強化】を発動し、”聖なる祝福(ホーリーブレス)”を唱える。


「あの子は自分に立ちはだかる敵を倒す覚悟。あたしは…」


 雫はゆっくりと膝を曲げると、力強く地面を踏み込んだ。


騎士(ナイト)として皆を守り抜く覚悟」


 そのまま猛スピードでウォックに突っ込み、剣を振りぬく。ウォックが慌てて拳を突き出すも剣圧に押され、その拳は弾き飛ばされた。


「させないっていうか」


その隙をついて斬りかかろうとした雫の横から紫色のナイフが飛び出してきた。雫はナイフを喰らうのを覚悟でウォックへ剣を振り下ろす。


「おりゃぁぁぁ!!」


 雫がウォックを切るのと同時に、雫に注意が向いているビルの顔面をさおりが思いっきり殴り飛ばした。ウォックは切り口に手を当て膝をつき、ビルはゴムまりのように跳ね、地面に叩きつけられる。


「やっと殴れたよ!でも、まだまだ全然足りない!!」


「ちっ!喰らえ!!」


「やらせねぇよ!!」


 ジンロがさおりに放った鉄球を優吾が盾を構えて受け止める。はじかれた鉄球は忌々し気な表情をしているジンロの下へと返っていった。


「調子に…乗るんじゃねぇ!!」


 ウォックが雄たけびを上げながら拳を乱暴に振り回すのを、冷静に躱しながら雫は二太刀、三太刀と入れていく。美冬が来てくれたおかげで後顧の憂いが完全に晴れた雫は本来の動きを取り戻していた。


「ぐ…あ…」


 ウォックの身体がぐらついたのに合わせて止めの一撃をいれようとさらに魔力を高める。先程戦いを途中でやめにしたときのような情けは今の雫には一切ない。


「はぁぁぁ!!」


 気合一閃、ウォックの身体を真っ二つにする勢いで斬りかかったが、ジンロがモーニングスターをウォックの身体に巻き付け引っ張ったために雫の剣はギリギリで空を切る。


「まだだよ!!」


「俺らがいるのを忘れるんじゃねぇ!!」


 雫を引き継ぐように優吾とさおりがウォックに飛び掛かるが、さおりは自分に向けてナイフが投げられている事に気づき、舌打ちをしながら後ろへと飛んで躱す。優吾は盾を構えてそのまま突っ込んでいったが、立ち直ったウォックに盾ごと殴り飛ばされた。


「はぁ…はぁ…なんて野蛮な女っていうか」


 さおりに投げナイフを放ったビルはペッ、と血の混じった唾を吐きながら顔を歪める。


「まだ殴られたりないみたいだね!いいよ!かかってきなよ!!」


 さおりは先ほどとはうって変わって余裕を見せながらビルを挑発する。自分への攻撃は優吾が防いでくれる、そんな信頼があるためか強気に出ることができた。当の優吾はしこたま地面に叩きつけられたため、呻きながら立ち上がり、自分の持っている盾を見て驚愕に目を見開いていた。


「うわっ!盾がへこんでる!!どんだけ馬鹿力なんだよ!!」


 冒険者ギルドの依頼の時に愛用していた鋼の盾がベコンとへこんでいた。優吾はウォックの力に戦慄を覚えながら盾を捨てると、”アイテムボックス”から予備の盾を取り出す。


「あの馬っちがやっかいだね」


 雫の隣に移動したさおりがジンロを睨みつける。


「そうだね…でも勝機はありそうだよ」


「その通り!あんな鉄球、全部俺が防いでやるよ!!」


 いつの間にか近くにいた優吾が自信ありげに自分の胸を叩いた。それを見て雫とさおりがクスリと笑う。


「な、なんだよ?」


「いや別に!なーんか青木のくせに頼もしいなって!」


「頼りにしてるよ、青木君!」


「お、おう!まかせろ!!」


 好きな相手と学年一の美女と名高い雫に言われ、優吾はドギマギしながら答えた。


「そんな悠長にしてていいのかねぇ」


 そんな三人の余裕っぷりを見てモーニングスターから解放されたウォックが静かに告げる。


「俺達との戦いに夢中になっているとお仲間がどんどんやられちまうぞ?」


 ウォックの視線の先に顔を向けると、高ランクモンスターを前にかなりの苦戦をしている騎士たちの姿があった。三人は真剣な表情で魔族に向き直る。


「もう一つお前たちにいいことを教えよう」


 積極的に雫達に話しかけてこなかったジンロがおもむろに口を開いた。


「さっきこいつが言っていたことには嘘がある」


「なっ…お前!!」


 ジンロに指摘され慌てた様子のウォック。その隣でビルがうんうんと頷いていた。


「嘘っていうかうぬぼれっていうか」


「うるせぇ!!」


 恥ずかしさのためか、ウォックは無駄に大きい声でビルを怒鳴りつける。そんな二人を放っておいてジンロは感情のない声で続けた。


「八獣星で一番強いのはこいつではない。そして…」


 この戦いが始まってから無表情を貫いていたジンロが、初めて醜悪に満ちた表情を浮かべる。


「一番強い者は一人で先行したお前の仲間のところにいる」


 雫とさおりの身体が金縛りにあったかのようにその場に立ちすくむ。状況がわからない優吾だけはジンロの言葉に首を傾げていた。


「ま…さか…」


 頭の中が真っ白になって考えることができない。一人で先行した仲間、そんな者は魔物を操っている黒幕を倒しに行ったあの人しかいない。


「真菜…真菜ぁぁぁぁ!!!」


 完全に気が動転したさおりが叫び声を上げながら前へ進もとするのを、優吾が必死に押さえつけて止める。


「な、なぁ!?一体どういうことだよ!?」


 一人だけ蚊帳の外の優吾が問いかけると、雫は身体を震わしながらか細い声で答えた。


「…真菜が黒幕を倒しに一人で先に行ってるのよ」


「なっ…それって…」


 雫は血が出るほど唇を噛み締めながら前に立つ三人の魔族を睨みつけた。そんな雫を見てジンロは愉悦に浸っている表情を浮かべる。

 やっと状況が飲み込めた優吾の力が緩んだすきにさおりはその腕から抜け出し、真菜を助けに行こうとするが、ウォックがそれを止めるように声をかける。


「おぉっと!!ここでこいつらを置いて行っちまっていいのか!?今なら俺たちを倒せるかもしれないんだぞ!?もっとも、倒すのに時間がかかってたら先に行った仲間も後ろの雑魚共もみんなあの世行きだけどな」


 今にも駆け出そうとしていたさおりの身体がピタリと止まる。そんなさおりを見てウォックはニヤリと笑みを浮かべた。


「確か皆を守る覚悟があるんだったよな?騎士(ナイト)様よ?」


「…この外道がぁぁぁぁぁ!!!」


 盾を握り締め、ウォックに殴りかかろうとする優吾にビルがナイフを投げる。お腹や肩にナイフが刺さろうと気にせず優吾は突っ込むが、ジンロの放った鉄球をもろに食らい、後方へと吹き飛ばされた。


「青木っ!!」


 さおりが倒れている優吾に駆け寄り抱き起すも、ダメージは大きく、優吾は呻くばかり。さおりは優吾を抱えながら泣きそうな表情で雫の方に顔を向けた。


「雫っちどうしよう!!」


「さおりちゃん」


「このままじゃみんなが」


「さおりちゃん」


「真菜が…真菜がっ!!!」


「さおりちゃんっ!!」


 怒声にも近い声で名前を呼ばれ、さおりは思わずビクッと身体を震わせる。


「さおりちゃんと青木君は後ろの騎士の人たちの手助けをお願い。ある程度なんとかなりそうだったらそのまま真菜ちゃんを追って」


 雫の声はギリギリ聞こえる程度の小さなものであったが、そこには有無を言わせぬ空気があった。雫の言葉にさおりは頷くことしかできなかったが、ウォックはそれを聞いて顔を顰める。


「おいおい…そんなこと俺たちが許すと思うか?お前ら三人は他が全滅するまで俺達と遊ぶんだよ」


「そんなことさせない」


 雫は静かに言い放つと剣を真上に掲げ、魔力を開放する。


「“隔絶せし聖なる壁(セイントウォール)”」


 雫が唱えたのは萌も使用した聖なる障壁。それが雫とウォック達を取り囲むように展開される。


「なっ…!?」


 予想外の出来事に目を見開くウォック達。本来の”隔絶せし聖なる壁(セイントウォール)”の用途は萌が使ったように攻撃や敵の侵入を防ぐために用いられるもの。しかし雫は敵が撤退するのを食い止めるため使用したのであった。


「雫っち!!」


 さおりが叫び声に近い声で雫の背中に呼びかけると、雫は顔を少しだけ動かし、微かに笑って返した。


「これが皆を守るっていうあたしの誇り(プライド)。」


 怒りをこめた視線をウォック達に向ける。ウォック達は一様に顔を歪めていた。


「さっさとあんたたちを倒して仲間を助けにいく…覚悟しなよ!!」


 雫は己に残る魔力を全力でつぎ込み、ウォック達に向かっていった。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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