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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
サロビア平原の戦い
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11.アニマトリウス

皆様の暖かい感想やコメントに後押しされたので、少しだけ投稿ペースを上げたいと思います!


とりあえず、音を上げるまで週二回のペースで投稿します!!

 今回の首謀者でもある魔族の登場に二人の顔に緊張の色が浮かぶ。

 現れた魔族は三人。一人は拍手をしていた男で、灰色の短髪に頑強な肉体、玩具でも見るよう視線を雫達に向けていた。

 後ろに立つ髪が薄い茶髪の男は少し小柄で警戒心が強いのか、こちらを探るようにチラチラとこちらを見ている。

 最後の男は黒い長髪でひょろりと背が高く、雫達に興味がないのか、つまらなさそうに佇んでいた。


「ウォック、さっさと任務を終えるぞ」


 黒髪の男が感情の見えない声で先頭に立つ灰色の髪の男に告げる。


「なんだよジンロ!久しぶりの人族とやりあえるんだぞ?もっと楽しそうにしろよ!!」


「興味ない。私は早く帰って寝たい」


「かーっ!!つまんねぇ野郎だな!!おいビル!!お前はワクワクしてるよな!?」


 反応の薄いジンロに顔を顰めながら、ウォックは小柄な男を睨みつけた。ビルと呼ばれた男はヒッ、と小さく叫び声を視線を左右に泳がせ、しどろもどろになりながら答える。


「お、俺っちは(かしら)に言われたから来ただけっていうか…ウォックみたいに純粋に戦いを楽しめないっていうか」


「相変わらずはっきりしない野郎だな!!」


 ウォックは呆れたように自分の髪をかきむしる。そんな三人のやり取りを戸惑いを隠せない様子で見ている二人に気がつくと、豪快な笑いかけた。


「すまねぇな!こいつらはちょっと変わっててな!あんまり気にしないでくれ」


「………あなた達は誰?」


 このままでは相手のペースに飲まれてしまうと思った雫が、ウォックに鋭い視線を向ける。そんな視線を楽しむようにウォックはニヤリと笑みを浮かべた。


「こいつは失礼したな。俺は’獣将’オセが率いる獣王軍、その八獣星に数えられる’凶狼(きょうろう)’のウォックだ。肩書が長いのは勘弁してくれ」


「…八獣星の一人、’怠馬(たいま)’のジンロ」


「俺っちは八獣星の一人の’迷鼠(めいそ)’のビルっていうか」


 ウォックに続き、二人が名乗りを上げる。八獣星というものには聞き覚えがなかったが、ウォックが言ったオセという人物については女王陛下の謁見の時に聞いたことがある名だった。


「あなた達は魔族なの?」


 答えははっきりしているが雫が確かめるように問いかけると、ウォックが意外そうな表情を浮かべた。


「そうに決まってるだろ?嬢ちゃんたちは誰と戦っていると思っていたんだ?」


「戦っている相手は知っている。でも、あなた達の見た目があまりに……」


「人族に近い、そう言いたいか?」


 それまで興味なさげであったジンロから憎しみをこめた視線を向けられ雫は思わず怯んでしまう。ウォックが窘めるような視線を向けると、ジンロは雫から視線を外し、不機嫌そうにそっぽを向いた。


「わりぃな。俺たちの中でもこいつは一番人族に恨みを持っている奴でな。嬢ちゃんたち、魔族は初めてか?」


 ウォックに問いかけられ、雫とさおりは無言でうなずく。


「そうか…なら説明してやろう」


「ウォック、いい加減にしろ」


「まぁいいじゃねぇか。自分を殺す相手が何者か知らないんじゃ浮かばれねぇだろ?」


 飄々と言い放ったウォックに対し、ジンロは舌打ちするとそれっきり口を閉じた。そんなジンロを見てやれやれと頭を振ると、ウォックは雫達に向き直る。


「まずはさっきも言った通り俺たちは魔族だ。そして’獣将’オセの(かしら)の下に就いている」


「‘獣将’オセっていうのは?」


 謁見の間にいなかったさおりが訝しげな表情を浮かべる。それを見たウォックが呆れたような表情をさおりに向けた。


「おいおい…それぐらいは知っておいてくれよ。戦う相手のことはちゃんと調べる、これは戦争の常識だぞ?ものぐさな(かしら)でさえ軽視しないぞっつーのに」


 敵にダメだしされさおりは悔しそうに口をつぐんだ。


「俺達魔族にはとびぬけてやばいやつらが七人いてな。七帝将って呼ばれているんだが、そのうちの一人がうちの(かしら)だ」


「七帝将…」


 雫は思わず身震いする。今回の騒動の黒幕が’獣将’オセの仕業であることは明らかになったが、そのオセというのは魔族の親玉だとばかり思っていた。しかし、ウォックの話を聞く限り、オセと同等の魔族が少なくとも七人はいる。

 オセの実力は未知数であるが、これほどの規模の戦争を吹っ掛けられるのを加味するとおそらく化物レベルの強者であろう。そんなオセと肩を並べられるものが他にいるなど雫にとっては悪夢以外の何者でもなかった。


(かしら)の獣王軍は俺たちのようなアニマトリウスで構成されているんだ」


「アニマトリウス?」


「魔族の種類だ。魔族にも色々いる…デビル、ダークエルフ、ヴァンパイア、そういった種類の中で獣の力を使いこなすのが俺達アニマトリウスだ」


「ウォック…いい加減しゃべりすぎだ」


「俺っちもそう思うっていうか」


 自慢げに話すウォックを二人が窘めると、ウォックはおっといけねぇ、と頬をポリポリと掻いた。


「すまねぇ…ただこいつらがあまりに無知だったもんだからよ」


「これから死ぬ者たちに、私達誇り高き魔族の情報など与える必要はない」


 ジンロはぴしゃりと言い放つと腰に携えていたモーニングスターを手に取る。それを見たビルが慌てて自分も二本のナイフを取り出し構えた。


「つーわけだ。色々教えてやったんだからそろそろ───」


「シズク殿!サオリ殿!」


 ウォックがメリケンサックを拳にはめ込み臨戦態勢に移ろうとしたところで、遅れてやってきた騎士達が大声で二人を呼ぶ。


「マナ殿の姿が見えない様ですが…こ、これは…!?」


 雫達のもとまでやってきた騎士達が目の前にいる魔族に気づき目を見開く。咄嗟に剣を構え飛び出そうとする者もいたので、雫は慌ててそれを止めた。


「騎士団の皆さんは周りの魔物の相手をしてください!魔族はあたしたちが相手をします!」


 大声で指示をすると両手で剣を構え相手をしっかりと見据える。話をしている間に何とか戦えるくらいには体力が回復したさおりがその隣に立った。


「さおりちゃん…いける?」


 気遣うようにチラリとこちらを見た雫に対し、さおりはウインクで返す。


「当然!…とはお世辞にも言えないけど何とかやってみるよ!」


 そんな二人を見てウォックは嬉しそうに笑みを浮かべた。


「はっはー!!いいね!!後ろの有象無象の雑魚には興味がねぇ!!俺はあんたらとやり合いたかったんだよ!!」


 ウォックは自身の拳を合わせると愉悦の表情で身体に魔力をみなぎらせる。


「“獣神化(ビーストソウル)”!!!」


 【獣神化】、このスキルを生まれながらに持つのがアニマトリウス足る所以。獣の力を己が身に宿すこのスキルにより、人族同じようなウォックの腕や足からは毛が生え始め、爪は凶器のように長く鋭く伸びていき、巨大な牙は口からはみ出している。筋肉も肥大化しており、先ほどよりも身体つきが一回り大きくなっているようであった。


「あっ…あっ………」


 そんなウォックの変わりようを見て戦意を失っていく騎士達。


「これがアニマトリウス!!狼の力を宿した俺は無敵よぉ!!」


 ワオォォーン!!とウォックが遠吠えをするだけで肌がビリビリと震え、中には尻餅をついている者もいた。ウォックは後ろに立つ騎士たちには目もくれず、冷めた眼差しでこちらを見つめる雫をメリケンサックをはめた手で指さした。


「俺はこいつをやる!!あとは好きにしろ!!」


「じゃあビル、あとは任せた。俺は見てる」


「えぇ…ジンロにも手伝ってほしいっていうか」


 不満げな表情でジンロを見るも反応がないため、ビルは諦めたように肩を竦めると魔力を練り上げた。


「“獣神化(ビーストソウル)”」


 ウォックよりも控えめな口調で【獣神化】のスキルを発動したビルは、小柄な身体がさらに小さく丸くなり、前歯が異常に大きくなる。ジンロは本当に静観を決め込むようで、二人から少し離れると、その場で腕組みをした。

 雫とさおりは目を合わせ、互いにうなずくと何も言わずに【身体強化】を施す。同時に雫は【聖鎧(セイントアーマー)】のスキルを最大限高め、さおりは【魔力格闘】のスキルを発動させた。そんな二人を見てウォックは満足そうな表情を浮かべる。


「いいねぇ…楽しくなりそうだっ!!」


 そう言い終わらないうちに地面を蹴り、雫へと突っ込むウォック。それをしっかりと見据えながら、雫はウォック目がけて銀の剣を振り下ろした。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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