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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
氷霊種の女と戦いの兆し
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22.エピローグ

 ユミラティスとニールは昴の目の前で微笑んでいる男に対し、油断なく構えているのだが、タマモだけは不思議そうな顔で高橋隼人の顔を見つめていた。それに気づいた隼人が優しく声をかける。


「俺の顔に何かついているかい?可愛いお嬢さん」


「いや……何もついていないんじゃが……」


 いきなり可愛いと言われ、照れながらタマモが答える。


「なんとなくスバルやユウゴ達と同じ匂いを感じるのじゃ」


「ユウゴ……と、いうことは昴は美冬たちに会ったのかい?」


 隼人がタマモから視線を移すと、昴は頷き、’鴉’を元に戻した。


「たまたま『龍神の谷』で出くわしてな」


「そうなんだ……彼らは?」


「安心しろ。無事だ」


 昴の言葉を聞いて隼人はホット胸をなでおろす。美冬がついているから大丈夫であるとは思っていたが、心の中ではずっと気になっていたのだ。


「とりあえず説明しろ」


「そうね。正直状況が全然把握できないわ」


 昴が'鴉'を消したのを見て、武装解除したニールとユミラティスが昴のもとにやって来る。ニールはともかく、詳しい情報を与えていないユミラティスになんと説明していいか昴は迷っていた。それを察した隼人が口を開く。


「はじめまして。俺の名前は隼人。昴が王都アレクサンドリアにいた時の知り合いだよ。同じような境遇にいるって言えば伝わるかな?」


 にこやかした隼人の自己紹介を聞いて、タマモとニールはすぐにピンときた。王都アレクサンドリアの知り合いで昴と同じ境遇ということは、隼人も異世界人で間違いない。唯一そのことを知らないユミラティスだったが、特に言及はしてこなかった。


「うちはタマモ!狐人種で冒険者をやっておる!」


「俺はニール。竜人種だ」


「ニールとタマモだね。竜人種とは驚いたな……それで?そちらの奇麗なお姉さんは?」


 隼人に目を向けられたユミラティスはまんざらでもない表情を浮かべる。


「あらお上手ね。スバルも見習ってほしいぐらいだわ。私は氷霊種(エケネイス)のユミラティスよ。よろしくね?」


「よろしく、ユミラティス。昴にそういうのを求めるのは諦めた方がいいよ」


「そうみたいね」


「おい」


 昴が不機嫌そうに睨むと、隼人は飄々とした態度で肩を竦めた。


「それより昴。ちゃんと雫には会ったのかい?君がいなくなってかなり落ち込んでいたようだよ?」


「……会ってねーな」


「次会ったらちゃんと謝っておきなよ」


「お、おい!!てめぇら!!俺たちを無視して話をしているんじゃねぇよ!!」


 いろんなことが起こりすぎて茫然としていた山賊の頭が、我を取り戻したように怒声を上げる。


「まさかてめぇらがグルだったとはなぁ!!」


「別にグルじゃないよ。昴とここで出会って、俺だって驚いているんだから」


「うるせぇ!!やっちまえ!!」


 淡々と答える隼人を無視して、山賊の頭は手下をけしかける。それを見たニールは、さっき力の差を見せつけたというのに、とつまらなさそうに息をついた。そしてそのまま’ファブニール’を構えようとすると、隼人が笑顔でそれを止める。


「ここは俺がやるからいいよ」


 そういうと隼人はその場から消えた。少なくとも山賊の頭の目にはそう写ったであろう。次の瞬間には自分の目の前に現れ、軽快もなく走ってきた手下たちは一人残らず喉から血を吹いて倒れていった。


「……疾いな」


 ニールが呟く隣で、タマモが感心したように手をパチパチと叩いていた。隼人の速度は昴やニールに肩を並べるほどであったが、それよりもニールが驚いたのはその動きの無駄のなさであった。流れるように山賊たちの間をすり抜け、一部の隙も無く山賊たちを屠っていったのだ。


「なっ…なっ…」


 山賊の頭は目の前に佇む死神を見て、思わず腰を抜かした。


「ま、まさか…お前が…さ、山賊狩り…!?」


 山賊の頭は震える身体で隼人を指さす。この男の掴んだ情報では、山賊狩りに狩られた山賊たちはみな喉を掻っ切られていたとのことだった。実際にその惨状を目にしたわけではないが、今のこの状況を見て、気づかぬ者はいないだろう。


「俺は山賊狩りなんてやっているつもりはないんだけどね。でもまっ、想像の通りだと思うよ」


「い、命だけは…」


「そう命乞いした人を君は見逃したのかい?」


「へっ…?」


 隼人の問いに山賊の頭は答えなかった。否、答えることができなかった。隼人は山賊の男に問いかけると同時に、腰に携えた細剣を目にもとまらぬ速さで振りぬいた。ドスン、と音を立てて山賊の頭の首が地面に落ち、数秒遅れてその身体が倒れる。

 隼人はふぅ、と息を流し、”アイテムボックス”から布を取り出すと血のりをきれいにふき取ると、昴達の方に向き直った。


「こんなに簡単に人を殺して幻滅したかな?」


「……しねーよ」


 少し寂しそうに笑いながら聞いてきた隼人に、昴は面倒くさそうに答えた。


「俺もつい最近、魔族をたくさん殺したからな」


「魔族を?」


 少し驚いた様子の隼人。


「でも、魔族と人では違う」


「同じだよ。じゃないと俺とこいつらは違うってことになっちまうからな」


 昴がタマモたちに目を向ける。


「重要なのは種族じゃなくて敵か味方か……敵だったんなら、人であろうと隼人のように容赦なく殺すぞ、俺は」


「……そう考えるんだ」


 隼人がそっと目を伏せた。


「昴は随分こっちの世界に染まっちゃってるんだね」


「お互いにな」


「…そうだね」


 なんとなくしみじみとした空気が流れる。そんな空気をぶち壊したのはいつもの通りタマモであった。目をキラキラと輝かせながら隼人のもとに駆け寄る。


「のうのう!ハヤト!今のどうやったんじゃ!?動きは目で追えたんじゃが剣を抜いてるようには見えんかった!!」


 タマモは尻尾を左右に振りながら、新しいおもちゃを目の前にした子供のようにはしゃいでいる。


「俺も興味あるな。初めて見た剣術だ」


 ニールは武に精通しているため、槍だけでなく剣もある程度使える。『龍神の谷』にもいろいろな流派の剣術があるが、隼人が見せたそれはそのどれにも当てはまらないものであったため、ニールは大いに興味を持った。


「あぁ、さっきのは居合というんだ」


「イアイ?」


 タマモが首をかしげて、疑問符を浮かべる。


「そうだよ。とはいってもそんな難しい話じゃない。簡単に言えば鞘に入っている剣を抜いて斬って納める。その一連の動作を連続でやっているだけなんだ」


「それだけを……それであそこまでの速度が出るのか?」


 ニールは驚きに目を見開く。ニールの目にも刀の動きではなく刀が描いた軌跡しか見ることができなかったほどのスピードだ。


「予備動作がないからね。こんな風に!」


 隼人は目で追えるよう速度を少し落として手近にあった木を居合で切り倒す。タマモがオー!っと歓声を上げ、何かを思い出したように昴の方を向いた。


「これは昴が’ベヒーモス’を倒した時に使った技じゃな!!」


 昴はギクリとすると、少し目をそらして頬を掻いた。


「いやー……使った覚えねーな……」


「いいや!うちは覚えておるのじゃ!!ハヤトの居合よりもしょぼかったがの」


「うるせぇよ!」


「へー……昴が俺の技をねぇ……それもしょぼかったなんて……ぷぷっ」


 愉快そうに笑う隼人を見て、昴は大きくため息をついた。


「そんなことより、隼人はなんでこんなところにいるんだ?」


「うーん…昴と同じなんじゃないかな?」


「俺と?つーことは元の世界に帰る方法を探してるってことか」


「そういうこと。とにかく情報を集めようと思ってさ。山賊に紛れるのが一番手っ取り早かったんだよね」


「あぁ、山賊は情報通が多いものね。情報収集を怠れば自分たちの命が危ういから」


 ユミラティスが納得したようにうなずいた。


「適当に山賊の仲間入りをして、その山賊が誰かを襲いそうになったらそれを阻止してたってわけだよ」


「なるほどな…だから山賊狩りなんて変な呼び名がついたのか」


「呼び名については昴に言われたくないなー…ねぇ?ジョーカーさん?」


「なっ!?」


 驚きすぎて口をパクパクさせ言葉を発することができない。そんな昴を見て隼人はニヤリと笑った。


「あてずっぽうで言ってみたけど、その反応を見るに昴がランクA冒険者の’ジョーカー’で間違いないみたいだね」


「お、お前…どこでそれを!?」


 慌てふためく昴を見て、隼人は心底楽しそうに笑う。


「ここよりもっと南にある港町の冒険者ギルドで、最近ランクAになった冒険者が暴れたっていう噂を聞いたからね。山賊は冒険者に討伐されることもあるから、冒険者情報は結構入ってくるんだよ」


「……一番知られたくないやつに知られた」


「元気出せ、’ジョーカー’」


「ニールは黙ってろ!」


 からかうように言ったニールを昴は睨みつける。ユミラティスはニヤニヤしながら昴の顔を見ていた。


「なに?スバルは’ジョーカー’って二つ名の冒険者なの?かっこよくていいじゃない!」


 言っていることは褒め言葉であるが、顔は完全に馬鹿にしていた。ユミラティスにも知られて昴はがっくりと肩を落とす。


「それがここにいる一つ目の理由だね」


「一つ目?」


 昴が眉をひそめながら隼人を見た。


「うん。もう一つの理由はこの目で魔族を見ておきたかった」


「……なるほどな」


 隼人が魔族を見ておきたい理由は昴には何となくわかった。この世界で聞いた魔族の情報は王都アレクサンドリアで得たモノだけ。人間、事実だけを伝えるというのは案外難しいことで、その魔族の情報も確実に脚色されているはずだ。おそらく隼人はそう思い、自分の目で見て確かめるためにここまで来たのであろう。ここまでの推測がたてられたのは、何を隠そう昴も同じように考えていたからだ。


「スバルと目的が同じなら一緒に行けばよいのではないか?」


 タマモが大きな目を隼人に向ける。


「そいつは一緒には来ねーよ」


「えっ?」


「つるむのが好きじゃないやつなんだ」


「そういうこと。誘ってくれてありがとうね」


 隼人は微笑みながらタマモの頭を撫でた。


「でも、会えてよかった…伝えたいこともあったし」


「伝えたいこと?」


 昴が聞き返すと、隼人はその顔から笑みを消した。


「今、アレクサンドリアは魔族に侵攻されているらしい」


 タマモは息を呑み、ニールは組んでいた腕の指をピクッと動かした。ユミラティスは魔族と聞いて眉を顰め、スッと昴は目を細める。


「……それはマジな話か?」


「山賊からの情報だから信ぴょう性はわからないけどね」


「…………」


「どうするんだい?」


 隼人が昴に試すような視線を向ける。


「スバル……」


 タマモは心配そうな表情で昴を見た。昴の頭の中に浮かぶのは、もうアレクサンドリアに戻っているであろう美冬たち四人と雫の姿。


「……行くとしても足がない」


「それなら心配いらないよ。俺が拝借した’グリフォン’を使えばいい。四人くらいならギリギリ乗れるだろう」


 隼人の言葉を聞いて昴は逡巡する。あそこには昴の死なせたくない人たちがいる。だが、それは昴個人の話、今一緒に旅しているタマモやニール、そしてユミラティスには関係のない話。そんな戦いに果たしてこいつらを巻き込んでしまっていいのか。そんなことばかりが昴の頭の中をぐるぐると駆け巡る。


「何を迷っている?」


 それまで静かに話を聞いていたニールがおもむろに口を開いた。


「迷うくらいなら行く…それがお前だろう?」


「そうじゃスバル!ユウゴやワタル、タクヤにミフユを助けに行かねば!!」


 ニールに続いてタマモも昴に訴えかける。昴はそんな二人に目を向けてからユミラティスの方を見た。彼女は優しく微笑みながら頷く。


「…いいのか?ユミラティスには関係のない話だぞ?」


「アレクサンドリアには大事な仲間がいるんでしょう?それなら守りに行きましょう。…守りたくても守れなかった人だっているんだから、後悔しないようにしなさい」


 ユミラティスがどこか憂いを帯びた表情を浮かべる。昴はそのユミラティスの反応が気になったが今は追求せず、感謝の意味をこめて頭を下げた。


「みんなわりぃ…ちょっとだけ俺のわがままに付き合ってくれ」


「何をいまさら」


「当然なのじゃ!!」


「ふふふ、魔族には少し聞きたいことがあったからちょうどいいわね」


 三人とも快く認めてくれたことに昴は内心でお礼を言った。そんな昴達を隼人は優しそうな眼差しで見ている。


「……いい仲間たちだね」


「あぁ、俺にはもったいない」


「本当にそう思うよ」


 隼人は笑みを浮かべると森の奥を指さした。


「このまままっすぐ森を歩いて行けば洞窟が見える。そこに’グリフォン’がいるからそれで王都に向かってよ」


「……その口ぶりだとお前はいかねぇのか?」


 なんとなくそんな気はしていた昴だったが、一応隼人に尋ねると隼人は首を縦に振った。


「行くつもりだったけどね。昴達が行ってくれるなら問題ないでしょ」


 ユニークスキル【剣聖】が内包するスキル【心眼】を持つ隼人には、昴達が一癖も二癖もある集団であることを見破っていた。


「俺は自分のやるべきことをやるよ」


「……そうか。ならありがたく’グリフォン’は使わせてもらうぜ」


 そう声をかけると昴達は隼人が指さした方へと歩き始めた。


「昴」


 隼人が思い出したように昴の名を呼ぶ。昴が振り返るのと同時に隼人の右ストレートが昴の顔面を打ち抜いた。突然の出来事に唖然とする一同。殴り飛ばされた昴はそのまま木にぶつかり、寄りかかる形で隼人の方を見た。


「雫を泣かせた分、殴るの忘れてた」


「…………」


「雫からも一発もらっとくんだよ?」


「……わーってるって」


 昴は立ち上がりながら切れた唇から流れた血をぬぐった。


「今日会って分かったけど、少しはましになったようだね。……でも前みたいな昴に戻ったら俺は」


「戻らねぇよ。約束したからな」


 ‘鴉’を屈服させるためもぐりこんだ自分の精神世界で昴は恵子と約束をした。自分のことを許し、前に進むと。

 昴の表情を見て、隼人は満足そうに笑うと、昴達に背を向けた。


「そっちは任せるよ」


「任せとけ。魔族に会いに行くんだろ?お前こそ魔族に後れを取るなよ」


 隼人は手を挙げてそれに応えるとそのまま森の奥へと歩いていった。昴はその背中を見送り、気を引き締める。


「懐かしい顔でも拝みに行くとするかな」


 そう言って昴は隼人とは反対方向に向かって歩き始めた。人族と魔族の衝突、その結末がどうなるのか誰にもわからない。しかしその結末に昴は興味を抱かない。大事なことは自分の大切なものを守ること、それだけだった。


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名:楠木 昴  年齢:17歳

性別:男 出身地:アレクサンドリア

種族:人族 

レベル:581

筋力:4692

体力:4051

耐久:4070

魔力:4468

魔耐:4308

敏捷:4889

スキル:【鴉の呪い】【多言語理解】【アイテムボックス】

※【鴉の呪い】…【双剣術】【気配察知】【気配探知】【気配遮断】【黒属性魔法】【威圧】【夜目】【成長促進】【???】

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名:タマモ  年齢:12歳

性別:女 出身地:ガンドラ

種族:亜人族・弧人種 

レベル:445

筋力:2746

体力:2650

耐久:2583

魔力:4292

魔耐:3674

敏捷:3377

スキル:【火属性魔法】【無詠唱】【炎の担い手】【身体強化】【第六感】【近距離戦闘】【気配遮断】【魔力増幅】【自己治癒能力】【嗅覚検知】【動体視力】【成長躍進】

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名:ニール  年齢:19歳

性別:男 出身地:龍神の谷

種族:亜人族・竜人種 

レベル:576

筋力:5206

体力:4821

耐久:5019

魔力:2892

魔耐:2587

敏捷:4304

スキル:【雷属性魔法】【身体強化】【槍術】【気配遮断】【気配探知】【気配察知】【自己治癒能力】【絶対耐性】【環境対応】【威圧】【龍鱗】【竜気】【竜神化】【逆鱗】

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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