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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
氷霊種の女と戦いの兆し
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20.悪意の行方

 アレクサンドリア城地下。そこには罪を犯した罪人を幽閉するための牢屋と籠城する事態に備えて物資が蓄えられている倉庫があった。普段は使われることのない場所であるため、倉庫には人がいないのだが、ここ最近ある人物が足繁く通っていた。


「ふぅ…」


 玄田隆人はいつも座っているお気に入りの樽の上に腰を下ろす。ここは薄暗く、人なんて滅多な事がない限り来ないので、隆人にとっては気の抜ける数少ない憩いの場であった。


「魔族、か…」


 先程の会議のことを思い出す。正直、隆人にとって魔族の侵攻などどうでもよかった。魔族によって誰かが殺されようが、この国が滅ぼされようが、それは些細な問題でしかない。重要なのは隆人の敵、今手にある手紙の送り主をぶちのめすことだけだった。


「ふざけやがって…」


 隆人は黒い手紙に視線を落とす。そこには白い文字でただ一言、『城に残れ』と書いてあった。いつもは嫌味ったらしくまわりくどい文章が書かれているのだが、今回は端的なメッセージである。


「この文の短さは今回の魔族の一件、奴にとっても想定外の出来事なのか?なら何かしらアクションを起こすはず」


 これまで送り主の情報は一切ない。この封筒のような魔道具を通してでしかやり取りをしてこなかった。


「必ず尻尾を掴んで、そして…」


 隆人は手紙をぐしゃりと握りつぶすと、ニヤリと笑みを浮かべた。


「俺の手で殺してやる」


 隆人は握りつぶした手紙を"アイテムボックス"に投げ入れると、ここを離れようと立ち上がる。そこで感じる何者かの視線。隆人は瞬時に倉庫の入り口に目を向けると、そこには前田健司が無表情で立っていた。


「てめぇ…黙って俺の後を付いて来やがったのか!?」


 隆人が憤怒の表情で健司を睨みつける。普段であれば隆人の逆鱗に触れるとあたふたする健司だったが、一切表情を変えなかった。隆人はそんな健司の様子を訝しげな表情で見つめる。


「前に俺の事は詮索するなって言ったよな!?」


「……………」


「こそこそ俺の周りをかぎまわりやがって…反吐がでんだよ!!」


「……………」


 何を言っても反応を示さない健司に痺れを切らした隆人は近づいていき、思いっきり胸ぐらを掴んだ。


「なんとか言えよ!!ゴルァ!!」


「………ぶだよ」


「あぁ!?」


 健司がボソボソと何かを呟いたが隆人には聞き取れない。隆人はメンチを切るように健司に顔を近づけた。


「そんなに不安がらなくても大丈夫だよ」


「っ!?」


 思わず掴んでいた手を離して健司から距離を取る。健司は特に気にした様子もなく、無機質な声で続けた。


「今回の魔族の襲撃で全部終わる。だから玄田は怯えなくて大丈夫だよ」


「な、にを言ってんだ…お前…」


 無理やり平静を装うとするも、声が裏返ってしまう。しかしそれでもまだ冷静でいられた、健司の次の言葉を聞くまでは。


「これで霧崎さんにバレなくてよかったね」


 心底楽しそうに笑みを向ける健司を見て隆人は頭が真っ白になる。


(霧崎にバレる…?)


 健司は確かにそう言った。


(なぜそのことをこいつが…なぜ俺が霧崎にバレることを恐れているのを知っている?…なぜ楠木を殺したことを知っている!?)


 健司は笑顔を向けたまま隆人が落ち着くのを待つ。それはまるで苦悩する隆人を見て愉悦に浸っているようであった。


「ま、さか…お前が…?」


 問いかける声は掠れている。


「お前が手紙で指令を…?」


 隆人が震える声で尋ねると、健司はスッと目を細めた。


「玄田が何を言っているかわからないけどこれだけははっきり言えるよ」


 健司は不敵な笑みを隆人に向けた。


「これで全部終わりにするよ」


 そう言うと笑いながら健司は倉庫から離れていく。後に残された隆人はただただその場に立ち尽くすことしかできなかった。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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