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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
氷霊種の女と戦いの兆し
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13.直滑降

 ルナと‘シルバーウルフ’達に別れを告げ、ユミラティスについてやってきたのは彼女が氷付けにされていた洞窟よりもさらに頂上に近いところ。そこには山の一部を切り崩して作った祠があり、二階建ての家が丸々入るくらいの広さであった。

 祠の奥行きはそれほどでもなく、一面が氷の壁で出来ている。その中心に一部くり貫かれたような大きな穴がある。


「やっぱりね…」


 それを見たユミラティスが真面目な顔で静かにつぶやいた。


「ここは?」


「魔王が封印されていた祠よ」


 昴の質問にユミラティスが淡々と答える。しかし目に入る範囲にそれらしい姿は一切なく、おまけに大きな穴があることから推察するに、考えられることは一つしかなかった。


「えぇ。その通りよ。封印されていた魔王は魔族達に持っていかれたみたいね」


 昴が口にする前にその表情から言いたいことを読み取り、ユミラティスが答えた。その声色にはそこまで悲観の色はない。


「それは…大丈夫なのかの?」


 タマモが不安そうに尋ねた。魔王のいた時代に生きていたタマモは、ここに封印されていた魔王の残虐さや激烈さを噂で聞いている。


「魔王に施した封印は普通のものではないわ。そう簡単に解けるものではない」


「でもくり貫かれてるぞ?こんな簡単に取り出せるなら封印も簡単に解けるんじゃないのか?」


「これはくり貫かれているように見えてそうではないの。氷付けにした魔王をさらに氷の壁の中に閉じ込めたのよ。あの子達がしたのは氷の壁の中から"永久凍土の牢獄(ニブルヘイム)"によって氷漬けになっている魔王を取り出しただけに過ぎないわ」


 ユミラティスの話では封印されていた魔王の周りには"永久凍土の牢獄(ニブルヘイム)"の魔法による氷と、その氷漬けにした魔王を格納する氷の壁があったということだ。魔族達はその氷の壁から強固な封印が施された魔王を持って行ったに過ぎない。


「あっさり封印をとかれたら氷霊種(エケネイス)の名折れだわ。魔王を封印したのは百人単位って話だからその封印の性能は常軌を逸しているはずよ」


「ほえー…そんな大勢で一つの魔法を放ったんじゃな」


「それも氷霊種(エケネイス)の特徴ね。【魔法結合】のスキルを持っていて、魔法と魔法を掛け合わせることが出来るのよ」


 ユミラティスの話を聞いて感心しているタマモであったが、昴とニールは引っかかりを感じていた。


「…ユミラティスの話はわかった。数百人規模で封印された魔王はそう簡単には出られないだろう」


「わかってもらえて嬉しいわ」


「だけど一つ気になることがある」


「なにかしら?」


「封印ということは氷霊種(エケネイス)にはそれを解くことができるんだろ?」


 昴の問いかけにユミラティスは笑顔のまま無言になる。


「俺はてっきり魔族にやられた氷霊種(エケネイス)が命からがら逃げだしたのかと思ったが…魔王の封印を解くために連れていかれたという可能性はないのか?」


「…そうね。魔族の子達がそう考えて氷霊種(エケネイス)を連れて行ったって可能性はゼロではないわね」


「それならなおの事、仲間を探さなくていいのか?」


 昴が問いかけるとユミラティスは柔和な笑みを浮かべた。


私達氷霊種(エケネイス)の使命は魔王の復活を阻止すること。例え何人もの氷霊種(エケネイス)を用意したところで解き方を知らない子達には封印を解くことはできない」


「…そうじゃなくて仲間を助けに行かなくていいのかって聞いてんだよ」


 昴が鋭い視線を向け、ニールが疑いの眼差しを向けても、ユミラティスは余裕の笑みを絶やさない。少しの間閉口した後、静かに口を開いた。


「…それはあなた達が気にしなければならないこと?」


 昴はユミラティスの目を見つめた。彼女の口元は笑っているが、目は真剣そのもの。それを見た昴は軽く肩を竦める。


「…まぁ、俺たちに害になんなきゃそれでいいんだけどな」


「安心して。そうはならないから」


 ユミラティスが三人に微笑みかけた。それによりギスギスした雰囲気はなくなり、タマモはほっと息をつく。


「ちなみに魔王の封印を解くにはどうすればいいんだ?」


「それを聞いちゃう?あなたが魔王を利用しないとも限らないのに?」


「そりゃそうだ」


 ばつの悪そうな表情を浮かべた昴を見てユミラティスはくすくすと笑った。


「冗談よ。詳しくはいえないけど、女王の力が必要になるわね」


「女王の力が?」


 タマモが不思議そうな顔で首をかしげた。


「そうよ。氷霊種(エケネイス)にはそれをまとめる女王がいるの。…魔王の封印を解かれないように今は遠いところにいるけれどね」


「へぇー!!それなら安心なのじゃ!!」


 タマモがきらきらした瞳をユミラティスに向ける。


「ってことはその女王様が魔族側に行かない限り魔王復活なんて面倒くさそうなことにはならないってわけだな。でも魔族がその居場所をかぎつけたらどうすんだ」


「それも心配ないわ」


「…なぜそう言い切れる?」


 それまで黙って話を聞いていたニールが尋ねると、ユミラティスは悪戯っぽく笑った。


「女王様も私達に封印されているからね」


「…!?なるほどな。それが一番確かな鍵の隠し方だな」


 ユミラティスの言葉に少し驚いた様子のニールだったが、腕を組みながら納得したように頷く。


「しかしならばなぜここに来たんだ?その女王がいなければ問題ないのであろう?」


「魔王の居場所を把握しておかなければいざというときに対応できないからよ。魔王の身体は魔族の手に落ちた、それだけわかれば今は十分だわ」


「ならさっさと行くぞ。ここで封印の抜け殻など見ていても時間の無駄だ」


 ニールは長話はうんざりといった様子で言い放った。


「そうだな…とりあえずここを下りよう」


「どちらに下りるか決まっているの?」


「どっち…そうか、『龍神の谷』とは逆の方にも行けるのか」


 昴はユミラティスに言われ、改めてどこに行くか悩み始める。


「…『龍神の谷』の近くに森霊種(エルフ)がいる可能性はあるか?」


「ゼロとは言いがたいが…狩りであの付近をいろいろまわったが、それらしいのは見たことがないな」


「となれば南よりも北に進んだ方がいいのか」


「北に下りればデルサピアという大きな町があるはずだわ。そこで情報収集するのはどうかしら?」


 他にいい意見もなさそうなのでユミラティスの提案でいくことに決めた。


「じゃあひとまずの目的地としてデルサピアに向かうか」


「デルサピアにはおいしい料理があるかの?」


「うふふ、タマモは食いしん坊さんね。確かデルサピアは寒い土地だから、スープとか身体が温まるような料理が名産よ」


「温かい料理!!スバル!!早く行くのじゃ!!」


 早くも期待に胸を膨らませているタマモを見て昴は苦笑した。


「それじゃ目的地も決まったところで一気に山を下りましょう」


「一気に?」


「えぇ。見てて」


 そう言うとユミラティスは手を前にかざし魔力を高めた。


「"凍てつく創造(アイスクリエイト)"」


 昴たちの前で氷が生まれ、段々と何かを形作っていく。現れたのは美しい氷で出来たソリ。


「なるほど…こいつに乗ってってことか」


「うはー!!ユミラ姉すごいのじゃ!!」


「私が雪を操れば右に行くにも左に行くにも自由自在よ」


 ユミラティスはソリの先頭に座り、昴たちにも乗るように促す。タマモは嬉々としてソリに腰をかけたがあまりの冷たさに飛び上がった。仕方ないので昴は自分の膝の上にタマモを乗せる。


「準備はいい?」


「あぁ」


「こっちも大丈夫だ…ってタマモあまり動くな」


「うひょー!一気に下るとか楽しみなのじゃ!!」


 遊園地のアトラクションに乗る前のようにテンションが高いタマモを昴が必死に宥める。


「移動中はかなりの速度が出るからしっかり掴まっててね。…あまり掴まる所ないけど」


「「「えっ?」」」


 ユミラティスの不吉な言葉に疑問を抱いた三人だったが、その瞬間にはもうすでにソリは滑り始めていた。ほぼ直滑降で山を下りていくソリはグングン速度を増していく。あまりのスピードに昴とニールの顔がどんどん引きつっていった。昴の膝の上にいるタマモだけが楽しそうに目を輝かせている。


「速いのじゃー!!最高なのじゃー!!」


「ふふ、そうかしら?じゃあもうちょっと速度を上げるわね」


 楽しそうな女性二人に比べ、男二人はグッ目を瞑り、ソリの縁を強く握ったまま一言も声を発することはなかった。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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