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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
氷霊種の女と戦いの兆し
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12.森霊種について

 ユミラティスの提案は昴には意図がよくわからなかった。彼女の目的が何なのか皆目見当つかないがどんな目的であろうと自分たちと一緒にいることで彼女にプラスに働くことはないように思える。

 昴がニールに目を向けると腕を組んだまま目を瞑っており、その姿は暗にお前が決めろと言っているようだった。タマモの方はと言うと…。


「ユミラ姉も一緒に旅をするのかの!?」


「えぇ。あなたたちのリーダーがいいと言ってくれればね」


 なにやらユミラティスと嬉しそうに話している。


「なぜ俺たちに同行したいんだ?」


「だってあなた達楽しそうなんだもの。色んな子たちがいて、私も混ぜてもらいたいなって」


 その言葉が本心なのか偽りなのか昴にはわからなかった。こちらが警戒しているとの同様にユミラティスも警戒しているのだろう。彼女から本心を聞くことは今の段階では無理だ、と昴は判断する。

 彼女が一緒に来ることによるメリットはいくら考えても答えが出ないので、同行することによるこちらのデメリットを考えた。

 敵意は…自分のことを囮にしたが、おそらくないだろう。タマモの【第六感】が働いていないということは自分達に危害を加えようという意思もない。

 自分たちの旅の足を引っ張るか、と言われると短い時間ではあるがユミラティスの戦闘能力の高さは昴自身が目にしている。しかも彼女は強力な魔法が得意な遠距離タイプ。万が一こちらを裏切ることがあっても、ニールと自分で取り押さえることは容易。

 気になるのはユミラティスの目的。それ次第では昴達に不利益を被る可能性がある。


「…念のため聞いておくがユミラティスの目的は?」


「うふっ。女は秘密がある方が輝くのよ」


 ダメもとで聞いては見たが、ユミラティスが笑顔ではぐらかす。


「それに秘密があるのはお互い様でしょう?」


「…まぁ、そうだな」


 実際、昴も根っこ部分は話していない。こちらが話していないのに、そっちだけ話せというのは割に合わないだろう。


「一つだけ教えてくれ」


「なにかしら?答えられることなら何でも答えるわよ」


「他の氷霊種(エケネイス)達は探さなくていいのか?」


 昴の言葉を聞いた瞬間、ユミラティスの目が鋭くなるが、すぐにいつもの余裕のある笑みに戻った。


「さぁ…他の子たちのことは知らないわ。恥ずかしがり屋さんが多いからあまり人前には姿を現さないのよね」


「…そうか」


 昴は自分の顎を撫でながらしばらく無言で考える。タマモは昴がどんな答えを出すのか不安で昴の顔とユミラティスの顔を交互に見ていた。


「…いいぞ、同行しても」


「スバル!!」


「ただし!」


 嬉しそうに飛び跳ねたタマモを遮るように昴が語調を強めた。


「もし旅の途中でタマモやニールを陥れようとしたり、危険な目にあわせようとしたりしたら…」


 昴が鋭い視線を向けながら忠告の意味をこめてユミラティスに【威圧】を放つ。


「容赦はしない」


「…肝に銘じておくわ」


 ユミラティスの表情に変化はなく、柔和な笑みを浮かべたまま答えた。タマモが堪えきれずにユミラティスに飛びつき、その豊満な胸に顔をうずめる。


「ユミラ姉、よろしくなのじゃ!!」


「よろしくね、タマモ」


 ユミラティスはタマモを抱えたままニールの側に近寄ると、すっと手を前に出した。


「よろしく」


 ニールは目を開けると、そっけなくユミラティスの手を握った。


「この旅の主導はスバルだから、俺はその判断に従うだけだ」


「そう。じゃあ仲良くやれそうね」


 ユミラティスが微笑みかけると、ニールは鼻を鳴らして視線を逸らす。


「さて、ユミラティス。同行を許可したんだから俺の質問に答えてくれ」


「えぇ。たしか転移魔法についてよね?残念だけど氷霊種(エケネイス)は転移魔法に詳しくないのよ」


 このユミラティスの答えは大方予想がついていた。もし氷霊種(エケネイス)が転移魔法に精通しているのであれば、師匠のジェムルもニールの親であるライゼンも氷霊種(エケネイス)に会え、と昴に進言するだろうと思ったからである。


「じゃあ森霊種(エルフ)の居場所については?」


 ユミラティスが満面の笑みをこちらに向ける。


「知らないわ」


 なんらかの情報はあると思っていたのに、まさかの知らないの一言。その言葉を聞いた瞬間昴達は凍り付いた。


「ほ、本当に知らないのかの?」


「えぇ。正直見当もつかないのよ」


 うふふ、と微笑を携えるユミラティス。昴は回れ右するとニールとタマモに声をかけた。


「二人とも、さっさとこの山を下りるぞ」


「そうだな」


 昴とニールはザクザクと雪を踏み鳴らしながらどんどん先に進んでいく。それを見たユミラティスが慌てて声をかけた。


「ちょっと待ちなさいよ!もう!あわてんぼうさん達ね」


 二人が振り返り、ユミラティスにジト目を向ける。


「スバルの質問の答えを正直に言っただけよ。でも森霊種(エルフ)について知らないとは言っていないわ」


 それを聞いた二人はしぶしぶと言った様子でユミラティスのもとに戻る。


「まずさっきも言ったように森霊種(エルフ)の居場所については知らないわ。森霊種(エルフ)は精霊族の中でも高位の存在なのよ。それ故にあなたたちの種族以上に森霊種(エルフ)は他種族との交わりを望んでいない。だからその居場所は森霊種(エルフ)以外誰も知らないのよ」


 ユミラティスはニールの方に顔を向けながら、困ったものね、と肩を竦めた。


「でも精霊族はある種のシンパシーを持っているの。だから私があなた達に同行すれば、森霊種(エルフ)の気配を感じることができるわ。それで『エルフの里』の場所が特定できるかもしれない」


「それは本当か?」


「本当よ。こんな嘘をつくほど落ちぶれちゃいないわ」


 ユミラティスの表情を見て、昴はとりあえず信じることにした。


「そして、これは耳よりの情報だと思うけど、精霊族は魔法に長けた種族だけど種によって得意な魔法が違うのよ」


「それは得意な属性が違うということかの?」


 タマモが聞くと、ユミラティスが首を横に振った。


「確かに属性の得意不得意はあるけど、今私が言っているのは魔法の種類の事よ」


「魔法の種類?」


「えぇ。例えばタマモちゃんは攻撃魔法が得意だけど防御魔法が少し苦手よね」


「なぬ!?なぜそのことを!!」


「うふふ、あの子たちに聞いたのよ」


 自分の弱点を言われ目を丸くするタマモを見て、笑いながら後ろにいる’シルバーウルフ’達を指さした。


「つまりそういう種類の話。私達、氷霊種(エケネイス)は主に封印魔法を得意としているの」


 そう言うとユミラティスは手に氷の結晶を作り出した。五百年前に猛威を振るった魔王を封印する役を担ったのだ、封印魔法が得意というのは素直に頷ける話であった。


「ここまで話せば大方予想がつくと思うけど森霊種(エルフ)が得意な魔法が転移魔法ってこと。だから転移魔法について知りたいあなたたちが森霊種(エルフ)を探すのは正しい選択なのよ」


 ユミラティスは話し終えるとふぅ、と息をついた。


「とりあえず、私の知っていることはこんなところかしら」


「…あぁ、助かったよ」


「あら?素直にお礼も言えるのね」


 ふふっと笑いかけられ昴はなんとなく居心地が悪くなりながら自分の頭をかく。


「ユミラティスの話も聞けたことだし、ここにはもう用はないな。さっさと山を下りて『エルフの谷』を探そう」


「ちょっと待って」


 歩き出そうとした昴達をユミラティスが手で制した。


「どうした?」


「霊峰ギルガを去る前に行っておきたいところがあるんだけど?」


「行きたいところ?」


「えぇ。魔王のところよ」


 事も無げに言うと昴達の反応も見ずにユミラティスはスタスタと前を歩き出した。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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