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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
氷霊種の女と戦いの兆し
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8.ユミラティス

 昴がゆっくりと目を開く。横向きになって寝ているのか飛び込んできたのは九十度曲がった洞窟の景色だった。仰向けになろうと寝返りを打つと昴の頭を柔らかい枕が受け止める。


(やっぱり枕はいいな…)


 昴はぼーっとした頭で考える。最近は野宿が多くて寝袋でばっかり寝ていたから枕なんて久しぶりだった。寝袋も悪くはないんだが、直接地面に敷いて寝るとどうしても岩のごつごつした感じが当たってこういう柔らかい感触は…。


(…柔らかい?)


 自分の言っていることがおかしいことに気づき思わず目を開く。そこにはそんな昴の顔を覗き込んでいるスカイブルーの瞳があった。それ以上に昴の目を引いたのはメロンのように大きな二つの山。


「やっと目が覚めたようね」


 昴は慌てて膝枕から抜け出す。それを見た氷霊種(エケネイス)の女は昴に笑いかけた。


「ふっふっふ…そんなに慌てちゃって。見た目に変わらず初心(うぶ)なのね」


 昴の目の前に立つ氷霊種(エケネイス)はこの寒い中、白いビキニアーマーにそれを隠すための申し訳程度の布しかないような軽装であった。一言でいえば目のやり場に困る。特にその胸当てで押しとどめておけないほどの巨乳を前に、昴は思わず視線を泳がせた。


「…怪我は?」


「え?」


 意識しないように意識したら少しぶっきらぼうな言い方になってしまった。


「怪我はないのか?」


 何とか平静を取り戻し、昴が普段通りを装って問いかけると、少し驚いたようであったがすぐに微笑を浮かべる。


「私の心配より自分の心配しなさい。雪崩に巻き込まれた時にあちこち身体を打っているみたいだったわよ?とりあえず私の【水属性魔法】で治しておいたけど…」


 言われて身体の節々が痛いことに気づく。しかし動けないほどではなかった。


「俺は問題ない。それよりあんたは」


「ユミラティス。それが私の名前よ」


「…ユミラティスは何者だ?」


「あら?私の正体を知っててあそこから助けてくれたんじゃないの?」


 ユミラティスが不思議そうに首をかしげる。なんとなく会話の主導権を握られているような気分になり昴は頭をかいた。


「いや、一応氷霊種(エケネイス)なんじゃないかとは思っているんだが」


「ならそれでいいじゃない」


 ユミラティスが楽し気な笑みを浮かべる。昴は完全に調子が狂わされ、大きくため息を吐いた。


「私は名乗ったんだからあなたのことも教えて」


「ん?あぁ、俺は昴だ。冒険者をやっている」


「ちなみに種族は?」


「…人族だ。見てわかるだろう?」


「見て、ねぇ…」


 ユミラティスは昴を頭からつま先までじっくりと眺めた。


「まぁいいわ。それで?冒険者のスバルさんがなぜこんなところに?」


「俺は氷霊種(エケネイス)に会いに来たんだ」


「へー…それはなんでまた?」


 ユミラティスは笑みを浮かべてはいるが、目だけは油断なく昴を見ていた。

 氷霊種(エケネイス)は今まで魔王の復活を阻止するためにこの山にこもってきた。そんな氷霊種(エケネイス)に会いたいというやつを警戒しない方がおかしい。そう思った昴は言葉を選びながら正直に答えた。


「魔法について教えてもらいたかったからだ」


「何の魔法?」


「…そこまで言うほどまだあんたを信用できない」


「……………」


「でも氷霊種(エケネイス)を害しに来たわけではない」


 ユミラティスが向ける視線を昴がまっすぐに見返す。ユミラティスはしばらく黙って昴を見つめていたが、視線を外そうとしないの昴に諦めたように笑みを浮かべた。


「…どうやら嘘はついていないようね」


「信じてもらえたんなら光栄だな」


「えぇ…あんな化物みたいなことするからてっきり魔族かなんかだと思った」


 ユミラティスの言い草に昴は眉を寄せた。


「化物って?」


「"永久凍土の牢獄(ニブルヘイム)"を無理やり壊したでしょ」


「ニブルヘイム?」


「私を閉じ込めていた氷よ。普通は壊すことなんてできないんだけどね。それを見て怪しい子だと思ったから逃げようと雪崩まで起こしたのに…まさか追って来るとは思わなかった」


 呆れたように肩を竦めるユミラティスに昴がジト目を向ける。

  

「…あの雪崩はあんたの仕業か?」


「そういうこと」


 そう言うとユミラティスは洞窟の出口の方へ進んでいく。


「何してるの?置いてくわよ」


 衝撃の事実を聞いて呆けている昴を急かすように手で招く。なんとなく納得がいかない昴だったが、どんどん先に行ってしまうので仕方なくユミラティスに従い、その後を追った。



 洞窟を出ると相も変らぬ雪景色だった。霊峰ギルガに入ってから建物や特徴的な地形は一切なかったためここがどこなのか昴には到底理解できない。


「ここは?」


「ん?霊峰ギルガだけど?」


「そういうことじゃなくて…」


「あぁ、私がいた洞窟から結構流されたから今は山の中腹辺りかしら」


 ユミラティスはその場にしゃがむと雪の上に手を置いた。


「何してんだ?」


「こうやると雪が届く範囲で何が起こっているのかわかるのよ」


 ユミラティスは瞑想するかのように目を閉じている。それを昴は何も言わずに見つめていた。


「…まずいわね」


「なにがあった?」


 しばらく目を瞑っていたが急に困った表情を浮かべたユミラティスに昴は眉をひそめて問いかけた。


「思ったより流されてしまってて…あなたの仲間達と結構離れてるのよ」


「それはそんなに問題じゃないだろ?」


 ユミラティスは首を横に振った。


「問題はそこじゃなくて、その近くに'あの子達'がいることね」


「'あの子達'?」


「'シルバーウルフ'よ」


 ユミラティスはため息を吐きながら立ち上がる。


「しかもこの気配は…さらに厄介な子がいそうね」


氷霊種(エケネイス)は'シルバーウルフ'とは共生してるんだろ?」


 疑問に感じた昴が尋ねるとユミラティスが浮かない顔で頷いた。


「そうよ。だからあの子達は氷霊種(エケネイス)は襲わない…氷霊種(エケネイス)はね」


「…となると亜人族のあいつらは」


「あの二人には私の匂いがついちゃってると思うし、それで敵と見なされて襲われる可能性が高いわね」


 ユミラティスが山頂に向かって歩き出す。昴も遅れぬようその横にぴったりとついた。


「とにかく急いであの子達の所へ行きましょう」


「なんか素早く移動する方法はないのか?雪崩みたいなやり方で」


「無理ね。下って行くならまだしも登って行くのに氷のソリを出してもしょうがないし」


 早足で歩きながらユミラティスが淡々と答えた。仕方なく昴もそれに合わせて歩く。


 少し登ったところで不意にユミラティスが昴の前に手を出した。一瞬疑問に思ったがユミラティスの顔を見てすぐに'鴉'を呼び出す。


「魔物か?」


「えぇ、結構な団体さんね」


 ユミラティスの顔には苛立ちが浮かんでいた。一刻も早く向かいたいのに、目の前に現れた奴らがそうさせてはくれない。

 体長は二メートルを超えるほど、毛むくじゃらの寸胴体型、手には木でできた棍棒を持っている。そんな奴らが雪の下から次々と顔を覗かせた。


「こいつらは?」


「'イエティ'。雪原の狩人ね」


 昴が油断なく'鴉'を構える。一人一人の強さはそこまででもないが、かなりの数が雪の中から出てきた。明らかに昴達を獲物と認識しているようで中にはニヤニヤと笑っている者までいる。


「ユミラティス、ここは俺が」


 昴が前に出ようとすると、ユミラティスがその美貌と相まって見たものを凍り付かせるような冷たい笑みを浮かべた。


「この霊峰ギルガで私に喧嘩売るとは、おバカさん達ね」


 瞬間、ユミラティスの、身体に尋常じゃない魔力が練られる。その魔力量は隣にいた昴が思わず横に飛んで警戒するほどであった。


「"全てを塵に帰す細氷(ダイヤモンドダスト)"」


 ユミラティスが魔法を唱えると、その周りをキラキラと輝くものが無数に浮遊し始める。昴が目を凝らしてそれを見ると、一つ一つが細かい氷であった。驚くべきはその範囲。ここら一帯に細氷が散りばめられている。ユミラティスはスッと右手を前に出した。


 パチンッ。


 指を弾くとその細氷が一斉に'イエティ'達に襲いかかる。その様子はまるで機関銃。際限ない氷のつぶてに'イエティ'達はなすすべなく、その白い毛を赤く染めながら倒れていく。気づいた時にはユミラティスの前に誰も立ってはいなかった。

 あまりの光景に開いた口が塞がらないといった様子の昴にユミラティスは涼しげな顔で言った。


「さぁ、先を急ぎましょう」


 昴は声の出し方を忘れてしまったように、ただただ頷くことしか出来なかった。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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