6.VS魔族
真っ先に飛び出したのはタマモ。その炎の爪を駆使してすれ違いざまに攻撃を加えて行く。その後ろをカバーするように二人が走っていた。
「およそ六十人くらいか」
「一人当たり何人だ?」
「うーむ…二十人ほどかの?」
「上出来だ!」
魔族集団の中心に来た三人はその言葉を合図にタマモはそのまま突き進み、昴は左、ニールは右へと散開した。
「三人が別れたぞ!馬鹿め!出来損ないを取り囲め!!」
武器を取り出し、タマモを袋叩きにしようと魔族の男達が突っ込む。タマモは魔族たちの動きを見ながら魔力を練り、その攻撃をひょいひょいと躱していく。目の前の魔族が自慢の斧を振り下ろしてきたが、ふわりと身体を浮かし、その男の肩を蹴って更に上空に飛ぶと両手を下に向けた。
「"炎の大旋風"!!」
その手から飛び出したのは炎で出来た竜巻。'炎龍'が使っていた魔法で、それよりも規模は小さいがそれでも集まった魔族を燃やしつくすには十分な威力。その魔法を見た魔族の男が慌てて魔力を練り上げる。
「「"強襲する大海流"」」
二人がかりで【水属性魔法】の上級魔法を放ち、タマモの魔法をなんとか食い止めた。流石に反対属性の魔法、いとも容易く"炎の大旋風"を打ち消し、勝ち誇った顔を浮かべる。そしてその表情のまま地面に倒れ臥した。反魔法が撃たれた時点で着地をしたタマモがその二人の足元へと瞬時に移動し、魔法が消されるのと同時に炎の爪を突き刺していた。
「な、なんだこいつ!?」
「は、早く出来損ないを止めろぉぉぉ!!」
タマモの魔法と動きに焦りを感じている魔族を見て、タマモは呆れたように笑った。
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「ぐぁぁ!!」
「なっ!?一体どこから…ぎゃぁぁ!!」
魔族が何をするでもなく次々と倒れて行く。時々バチィ!という電気の音と、白い残光は見えるものの相手の姿を全く捉えることはできない。
「気をつけろ!相手は透明になれるに違いな…ぐわぁぁ!!」
味方に注意喚起しようとした男の胸に銀の槍が突き刺さった。
「バカが。透明になどなれるわけないだろ」
その男から槍を引き抜きながらニールは鼻で笑う。やっと敵の姿を確認することができた魔族が慌ててニールに武器を構えなおした。
「い、いたぞ!姿が見える今がチャンスだ!!」
「一斉に襲い掛かれ!!」
全員が武器を振り上げニールに向かって走り出しすが、それを見たニールがやれやれと首を振る。全方位から振り下ろされる武器。逃げ場などない、そう魔族の男は思いニヤリと笑みを浮かべた。
「やったか!?」
自分の武器が打ち付けた先を見るがそこには地面しかなく、敵の姿をまたもや見失う。
「"雷光波"」
ニールの持つ'ファブニール'から拡散した電気が迸る。魔族達は声のする上空に目を向けた瞬間にはもうその意識を刈り取られていた。ニールは気絶した魔族達の心臓を一人残らず一突きにする。
「魔族もここまで弱くなったか」
着地と同時に愛槍を消すと、ニールは心底つまらなそうに呟いた。
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昴を囲む魔族達は不気味な敵を前に攻撃することを躊躇していた。昴は右手に持った'鴉'で肩をトントンと叩いているだけで一切動こうとしない。
「貴様ぁ!?戦う気がないのか!?」
「あるよ」
何か罠があるに違いない、そう思わせるほどに昴は余裕を見せていた。
「貴様…どんな卑怯な手を使うつもりなんだ!?」
「卑怯な手?そんなのねぇよ」
「嘘をつけ!!ならばなぜそんな態度でいられる!?」
「元からこういう態度だっつーの」
痺れを切らした一人の男が声を荒げるが昴は面倒くさそうに答えた。
「どうでもいいけどさ…」
昴がため息を吐きながら呆れた表情でぐるりと周りを見渡す。
「さっさとかかって来いよ。下等種族にびびりっぱなしの魔族さん」
その一言が周りの男達に火をつけた。
「殺せぇぇぇぇ!!」
「「「うぉぉぉぉぉ!!」」」
周りを取り囲んでいた魔族達が同時に昴に襲い掛かる。それを見た昴はニヤリと笑みを浮かべた。
「ご愁傷様」
そう呟くと腕を交差させ、魔力をのせ剣を振りながらその場で一回転する。
「"舞鶴"」
昴の振った'鴉'の軌道に合わせて黒い円が出来たと思ったら、その円内にいた魔族達の上半身と下半身が綺麗に真っ二つに分かれた。魔族達は驚きに目を見開いた顔のままその場で絶命する。
それを一瞥すると'鴉'を戻し、昴はため息を吐きながら一言呟いた。
「めんどくせぇな」
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タマモが最後の魔族にトドメを刺す頃には、二人は後ろでその戦いっぷりを見ていた。なんとかノルマを達成したタマモが急いで二人の元に駆け寄る。
「魔法に無駄な破壊が多すぎるな」
「動きが忙しない。最小限の動きで敵を倒せ」
「詰めが甘いっつーの。何回か反撃されただろ」
「防御が疎かだ。今回は鋭い攻撃をして来る者がいなかったからいいものの、もっと守りを意識して戦え」
「うがー!!二人ともうるさいのじゃ!!」
戻った途端にダメ出しの嵐にタマモはぷくっと頬を膨らませた。昴はそんなタマモを宥めるように頭を撫でる。
「つーかさ…これじゃ氷霊種の話聞けなくね?」
昴は周りを見渡すが、そこには地獄絵図が広がっているだけで、喋れる者は誰一人としていなかった。
「お前が皆殺しにしろっていうからだろ」
「お前だって『当然だ』とか言ってカッコつけてただろうが!!」
「なっ!?別にカッコつけてなんかないわ!!」
「いーや、あれは絶対自分がカッコいいって思ってるやつだったな!ドヤ顔が半端なかったし!!」
「のうのう」
「お前の方が敵を倒した時のドヤ顔は凄まじかったぞ!!自分に酔いしれてるって感じでちょっと引いたぐらいだ!!」
「違いますー!あれは敵の弱さに呆れてただけですー!」
「のうのう!」
「と言うよりもあいつらとは敵対しない予定ではなかったのか!?それなのに言い出しっぺが真っ先に手を出して…まったくもって忍耐が足りない!!」
「俺がやらなければお前が動いていただろうが!!」
「俺はあんな安い挑発に乗ることはない!!」
「よく言うぜ!!あんな殺気駄々洩れでさっ!!」
「のうのう!!」
「「なんだっ!?」」
二人が同時に顔を向けると、タマモがジト目を二人に向けながらどこかを指している。その指の先を辿るとそこには洞窟があった。
「なんだ、あれ?」
「…場所的にあの洞窟を魔族達は守っていたのか?」
二人も怪しい洞窟を見て眉を寄せる。そんな二人の袖をタマモが引っ張った。
「早速行ってみようぞ!」
「ん?あぁ…ニール、どう思う?」
「まぁ、行ってみても問題ないだろう。何かあれば対処すればいい」
ニールの言葉に頷くと昴はタマモについて洞窟の方に足を進める。
入り口は至って普通の洞窟だった。結構深いのか、中は闇が広がっており、ここからでは奥まで確認することができない。
「俺は【夜目】があるから暗くても見えるけどお前らは?」
「むぅ、夜くらいなら問題ないのじゃがここまで暗いとよく見えないのぉ…」
「右に同じく」
「なら松明使ってくか」
昴は"アイテムボックス"から松明を取り出しタマモに向ける。そこにタマモが【無詠唱】で火をつけると、洞窟内の闇を炎が照らし出した。
「じゃあ行くぞ」
松明を持つ昴が先頭で、その後ろから二人が付いて来る。一応【気配探知】を発動しておくが、特になんの気配もなかった。だが背筋の凍るような冷気だけが洞窟の奥から流れてくるのを感じる。
洞窟に入って十分ほど歩くと、前方に何かが見えてきた。昴は現れたものに松明を向けると思わず息を呑む。後ろの二人も遅れて同じ反応をした。
そこにあったのは、思わず見惚れてしまうような美しい女性が氷の塊の中で目を瞑る姿であった。