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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
氷霊種の女と戦いの兆し
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3.ビバーク

 昴達が洞窟に着くのを見計らったかのように雪の降る勢いが増した。強風も吹き荒れ、視界が悪いどころかほとんど前が見えない状態であり、今日はこの洞窟で夜を越す、というニールの提案に異を唱える者はいなかった。


 昴は’シルバーウルフ’を降ろすと、洞窟内に目をやった。奥行きはそこまでないが、三人と’シルバーウルフ’、さらに’スノウベア’の死体を入れても十分なほどの広さである。


「風と雪が凌げるだけましだな」


「のじゃ!外よりはさむくないの…じゃ…っくしょん!!」


「とりあえず火を起こそう。スバル、(たきぎ)はどれくらいある?」


 ニールが問いかけると昴は”アイテムボックス”からありったけの薪を出した。そこそこあるみたいだが、夜通し焚いておくと考えると少し心もとない。


「それぐらいか…近くに木があったから俺が集めてこよう。湿っていて使い物にならないかもしれないが、火の近くにおいて乾かせば薪になるだろ」


 そう言ってニールは洞窟から出ていった。


「それじゃこっちは’シルバーウルフ’の様子でも見るか。タマモ」


「うむ」


 昴が組んだ薪にタマモが無詠唱で火をともす。それだけで洞窟内の温度が二、三度上がった気がした。


「じゃあうちは’スノウベア’を解体するかの!!」


「毛皮はこいつの敷布団にするから奇麗に剥いでくれ」


「了解なのじゃ!!」


 少し暖かくなったのが嬉しいのか、タマモは鼻歌を歌いながら指に作った炎のナイフで’スノウベア’の解体を始める。

 昴は’シルバーウルフ’の身体に近づくと、その傷の具合を確かめ始めた。’シルバーウルフ’からは既に警戒の色はなく、昴のなすがままにされている。先程手が回らなかった場所に薬草でできた傷薬を塗りながら、その傷の違和感に昴は目を細めた。


 しばらくしてニールが丸太を抱えて戻ってくると二人はたき火を囲んで暖を取っていた。包帯がまかれた’シルバーウルフ’も落ち着いた様子でたき火のそばに身体を丸めている。


「もう大丈夫そうだな」


 ニールが座りながら’シルバーウルフ’の頭を撫でると、くぅーん、と気持ちよさような声を上げた。


「あぁ…だけどちょっと気になることがあってな」


「ん?なんだ」


 昴がタマモに視線を向ける。するとタマモは黒い物体と白い物体をニールに渡した。どちらも鋭利に尖っている。


「これは…’スノウベア’の爪と牙か?」


「のじゃ」


「…別に変わったところはなさそうだが?」


 ニールが爪と牙を注意深く観察するが、おかしなところは見受けられなかった。ニールが眉をひそめながらタマモに投げ返す。


「そいつの爪と牙は太いだろ?」


「まぁ、あの巨体だからな」


「それだとこいつの傷の説明がつかない」


 昴に親指でさされた’シルバーウルフ’はチラリと昴を見たがそれ以上の反応はなかった。ニールがそっと手を伸ばし、包帯をずらしながら’シルバーウルフ’の傷を確認する。


「なるほど…傷口が細すぎるな。それにこれは…」


「刀傷だろうな。爪や牙だとこうはなんねぇだろ」


 昴が面倒くさそうに言った。それを見てタマモが嬉しそうな顔をする。


「わかる…わかるのじゃ!昴の考えていることがの!!自分は氷霊種(エケネイス)に会いに来ただけなのに、なんか面倒くさいことに巻き込まれそうで嫌だと思っとるじゃろ!?」


「…そんなところだ」


「面倒なことになるのは避けられないだろ。共生している氷霊種(エケネイス)が’シルバーウルフ’を傷つけるわけはない。かといって刀が使える魔物がこの辺りにいるなど聞いたこともない。そうなると必然的にここには他に誰かいて、しかもそいつは’シルバーウルフ’よりも強いということになるな」


「…だから面倒くせぇんだよ」


 愚痴るように昴は言いながら深いため息をついた。ニールが怪訝そうな表情を浮かべる。


「別に心配する必要はないだろ?俺たちに手がおえないとなると炎龍以上の存在になるぞ?そんな奴がそうそういてたまるか」


「ニール、それは違うぞ」


 タマモがニールを見ながら首を横に振った。


「スバルは心配しているんじゃなくて、ただただ面倒くさがっているだけじゃ!スバルは生粋の面倒くさがり屋だからじゃの!」


「俺たちの谷の事情に首を突っ込んだくせにか?」


「…うるせぇよ」


 昴はそのまま拗ねたようにゴロンと横になった。タマモがそれを見ておかしそうに笑う。


「スバルは面倒くさい面倒くさいと言いながら、結局面倒くさいことに巻き込まれる体質なんじゃ。もうそういう星のもとに生まれたと思って諦めるしかあるまいの」


「なるほど。こいつはトラブルメーカーってことだな」


「とらぶるめーかー?」


「バカのことだ」


「おい!黙って聞いてりゃ好き勝手言ってんじゃねぇぞ!つーかニール!タマモに適当なこと教えんな!!大体お前らな───」


 ぐぅ~。


 昴が文句を言おうとした瞬間、洞窟内に間抜けな音が響き渡った。音の出所に目を向けると、タマモがお腹をさすりながら頭をかいている。


「お腹すいたのじゃ」


 てへ、と照れたように笑うタマモを見て、怒る気力をなくした昴は、はぁ、と息を漏らし、黙って調理をし始めた。


 今日の料理は’スノウベア’の肉の丸焼きと、身体が温まるようにと野菜のスープにすることにした。

 肉の焼ける香ばしい匂いが辺りに漂いだすと、’シルバーウルフ’は立ち上がり、はっはっは、と息を吐きながら、大量の涎を流していた。昴はそれを優しく見つめながら、肉の間近まで顔を近づけ、それ以上に涎を垂らしまくっているタマモの頭に手刀を振り落とす。


「いたっ!?」


「行儀悪い。大人しく待ってろ。そして涎を拭け」


 昴に注意され渋々肉から離れるタマモだが、その視線は一度たりとも肉から離れてはいない。その後ろでニールは静かに愛槍’ファブニール’を研いでいた。しかしその手に砥石が握られている様子はない。


「なにで研いでるんだ?」


 疑問に思った昴がスープをかき混ぜながらニールに問いかける。


「俺の竜鱗だ」


 そう言うとニールは昴に手のひらを見せた。その一部だけが【竜神化】して銀色に煌めている。


「へー…便利だな」


「便利というよりこれでしか研ぐことができないんだ。’ファブニール’は俺の鱗を何枚も重ねて作った槍、こいつと同等かそれ以上の硬さのものでないと研げやしない」


「なるほどな…あっ」


 何かを思いついたような声を出すと、昴は’鴉’を呼び出してニールの前に置いた。


「いままで研いだことなんてなかったからな。俺のもついでに研いどいてくれよ」


「お前…ちゃんと武器は手入れしなければすぐにダメになるぞ」


 ニールは呆れた顔を昴に向けながら’鴉’に手を伸ばすと、触れるか触れないかのところでその手をピタリと止める。


「ん?どうした?」


 昴が不思議そうに顔を覗き込むと、ニールは額から汗を流していた。


「…《ドラゴンフード》でお前は呪われていると言っていたな」


 ニールはゆっくりと手を引いていく。


「確かにこいつは呪いの武器だ。持とうとしただけで命を吸い取られる感覚がした」


「なに?」


「こいつは自分が認めた者にしか振るうことを許さない。まるで意思があるようだな」


 昴は’鴉’を手に取った。その刀身はいつもと変りなく、怪しく黒光りしていた。


「見たところ刃こぼれ一つない。そういう武器なんだろう」


「ということは研がなくても平気なのか?」


 ニールが首を縦に振る。その顔にはまだ驚きが残っていた。


「まったく…そんな武器は初めて見た。異世界人っていうのはお前みたいにおかしいやつばっかりなのか?」


「そういう訳じゃねぇと思うぞ。優吾達を見ただろ?…まぁ、ある意味じゃおかしいやつらか」


 昴は三人を思い出して苦笑いを浮かべる。するとたき火の方からタマモが大きな声で二人を呼んだ。


「ご飯まだなのかの!!お腹すいたのじゃ!!」


「今用意するから待ってろ!…とりあえず飯にするか」


「そうだな。タマモももう限界のようだ」


 二人はたき火の方に移動し、食事の準備をし始めた。


(意思を持っている、か…)


 スープを皿によそりながらも、昴はニールに言われたことがなんとなく頭から離れずにいた。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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