46.エピローグ
新しい仲間も加わり、意気揚々と前を歩き出した昴にニールが声をかけた。
「これからどこ行くんだ?」
「『エルフの里』に向かう」
昴は振り返るとライゼンと面会しているときにいなかったニールに簡単に状況を説明する。
「なるほど…異世界への帰り方を知るために『エルフの里』を目指す、と。それで?『エルフの里』ってどこにあるんだ?」
ニールの言葉を聞いて昴の動きが止まる。ジェムルもライゼンも『エルフの里』に行け、とは言ったが場所については詳しく教えてくれなかった。
昴は頭をトントンと叩きながら少しの間悩むと、おもむろにニールの方へと顔を向ける
「えーっと、ニールは『エルフの里』の」
「知らんな」
「場所…」
昴が言い終わる前にニールがきっぱりと否定した。昴が藁にもすがる思いでタマモに目を向けると、タマモはニコニコと無邪気に笑っているばかり。『龍神の谷』を出て五分、昴達は早速目的地を見失った。
「スバル…お前、あんな自信満々に行こうって言っておきながら場所もわかってなかったのか」
「うるせぇ」
呆れたようにニールが言うと昴は、はぁ…と肩を落としてその場に座り込んだ。
「のうのう。元気出すのじゃ、スバル」
タマモが昴の横に屈んで肩をつんつんするが、昴は顔を伏せたまま、全く動かない。
「…お前たちはエルフについてどれくらい知っているんだ?」
このままでは埒が明かないと思い、ニールが二人に尋ねる。昴とタマモは互いに顔を見合わせ、ニールの方に向き直ると同時に答えた
「耳のとがった人」
「耳が尖っているのじゃ!!」
「…他には?」
予想外の答えに若干頭痛を感じつつもニールは続きを促す。
「うーん…なんか美形のイメージ?」
「あっそれわかるのぉ!!整った顔をしていそうなのじゃ!!」
二人の答えを聞いてニールは思わず自分の頭を抱えた。こんな二人がよく『龍神の谷』まで来ることができたもんだ。ニールは大きくため息をつくと二人の目をしっかりと見つめた。
「エルフというのは精霊族の一つ森霊種のことだ。身体能力が高い亜人族とは異なり、精霊族は一様に魔法を得意としている」
「あー…それなんか城で聞いたことあるな。確か精霊族って竜人種と同じで他種族とあんまり関わらない種族だろ?」
「あの者達は俺達とは違う。竜人種は強大な力を利用されないために他種族と距離をとる。精霊族は利用とかそういうことは考えていない。本当に他種族に興味がないだけだ」
「むー…よくわからないが森霊種なら森を探せばいいのではないかの?」
タマモが自分のこめかみを人差し指で押さえながら言った。ニールは難しそうな表情で首を左右に振る。
「確かにそれも一つの手だが…何の手掛かりもなしに森を探し回るなど、川に流された小さな指輪を探すくらい難しいぞ」
「なんか妙に具体的な例えだな」
「…実体験だ」
ニールが顔を逸らしながら答えた。おそらくサクヤが川で無くしたのを探したことがあるのであろう。妹のためにそこまでするとは、と昴は内心呆れを通り越して半ば感心していた。ニールがごまかすように咳払いをする。
「とりあえず俺が言いたいのはだな。まずは手がかりを見つけることだ」
「手がかりって言ってもな…」
「見当もつかないのじゃ」
昴とタマモが揃って頭をひねる。
「それについては俺に心当たりがある」
ニールが親指で今来た道を指した。
「いや、お前それ親父に頼ってるだけじゃねぇか!えらそうに心当たりがあるとか言っておきながら…」
「違う。大体俺は谷には戻れないだろ」
「あー…じゃあ何を指したんだ」
「霊峰ギルガだ」
「霊峰ギルガ?」
ニールは頷くと再び指さした。ニールの指の先は『龍神の谷』の更に奥にある真っ白な高い山に向けられている。
「あそこは五百年前の人魔戦争における魔王と人族の最終決戦地。当時最強と名高かった魔王を打ち倒した場所として人族は敬意をこめてあの山を霊峰ギルガと名付けたんだ」
「五百年前…」
昴がタマモに視線を向けると、タマモは無表情で霊峰ギルガを見つめていた。昴のいない間にタマモの身の上を聞いていたニールがタマモの頭にそっと手を乗せる。
「タマモのことがわかる何かがあればいいな」
「…のじゃ」
タマモが山を見つめたまま静かにうなずく。
「…霊峰ギルガのことは分かった。それと森霊種と何の関係が?」
昴が釈然としない表情でニールに尋ねた。
「五百年前の魔王は絶大な力を持っていたらしい。人族は決死の思いで戦ったが滅ぼすには至らず、しかし封印することには成功した」
「封印?」
「あぁ。魔王は人族だけでなく、すべての種族の脅威となっていたため人族に手を貸す種族が数多く存在した。魔王を実際に封印したのはエケネイスと呼ばれる精霊族の氷霊種だ。氷霊種は二度と魔王による災厄が起こらないよう霊峰ギルガに住まい、代々封印した魔王を見張っているという事だ」
「なるほどね…同じ精霊族なら森霊種の居場所どころか、転移魔法のこと自体知っているかもしれねぇな」
昴が顎に手を添えながら言うと、ニールが頷く。
「『エルフの里』の場所がわからない以上、霊峰ギルガに向かってみるのも悪くないだろう」
「そうだな。とりあえずそこ向かってみるか」
「『龍神の谷』は突っ切ることはできない。あの谷全体に魔法がかけられていて門から以外出ることも入ることもできないようになっている。東にある『裁きの地』から行く方がいいだろうな」
「『裁きの地』ってマレー山脈だよな?あそこは危ないんじゃなかったのか?」
「『裁きの地』が危険だった原因はお前が倒しただろうが」
「あぁ、そういうこと」
昴が納得したように手を叩いた。難しい話が終わったのを見計らってタマモが問いかける。
「結局そのレイホーギルガに向かうのかの?」
「霊峰、な。あの白い山に行くぞ」
「白い…そういえばなんであの山は白いんじゃ?」
タマモが不思議そうな顔でニールに尋ねた。
「霊峰ギルガは万年雪が降り続く地だからな。それが積もっているんだろう」
「雪?積もる?」
タマモの頭にいくつもの疑問符が浮かぶ。そんなタマモを見てニールが不思議そうに問いかけた。
「タマモは雪を知らないのか?」
「あー…タマモがいたところは比較的温暖な気候だったから雪を見たことがないんだな」
「のうのう!雪ってなんじゃ?」
タマモがニールの袖を引っ張る。
「雪っていうのは大気の水蒸気から生成される氷の結晶が空から落下してくる氷晶単体である雪片のことだな」
「いやわかんねぇよ!!ちゃんと雪が何か説明してやれ」
「水だ」
「お前にはもう期待しねぇ!!」
昴がタマモの肩を掴みこちらに向かせる。
「いいかタマモ、ミントさんが食後に出してくれたアイスがあるだろ?」
「おぉ!!甘くてとってもおいしかったのじゃ!!」
「あれと似た白くて冷たいやつが寒いと空から降って来る。そしてそれが積もっているから霊峰ギルガは白いんだ。わかるか?」
「うむ!霊峰ギルガは美味しそうってことじゃな?」
自信たっぷりにそう言い切ったタマモを見て、もうそれでいいや、と昴は自己完結させる。
「よし!タマモも雪について分かったことだし、早速出発するか!」
「絶対にわかってないだろ…まぁいい。霊峰ギルガはかなり気温が低いんだが、お前らは防寒具があるのか?」
「あぁ。俺のコートは【体温調節】のスキルを付与されているから寒いところも大丈夫だって言われたし、タマモもココに言われて毛皮のコートを持っているからな」
「あのもこもこしたやつを着るのかの…あれは暑いのじゃ」
タマモが少し憂鬱そうに言った。
「それならいい。霊峰ギルガの麓まで俺達なら一日足らずで着けるだろ」
「そんな近いのか?」
「あぁ。…まぁ守備隊の奴らでも一週間はかかったが問題ないだろう」
「「え?」」
昴とタマモがニールの発言を聞いて驚いていると、ニールは構わず【身体強化】を使った。
「二人とも何をしている?さっさと身体を強化しろ」
ちんたらしてるな、と言わんばかりの表情でニールが告げると、タマモは【身体強化】を、昴は’鴉’を呼び出し”烏哭”を唱えた。
「よし、道案内するから俺についてこい」
そう言うや否やニールがすさまじい速度で走り始めた。タマモは慌ててそれについて行き、昴は後ろで小さくため息をつく。
「あいつ、意外と体育会系なのね」
そうぼやきながら新たな地、霊峰ギルガへと向かうため、昴は二人の後を追っていった。
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名:楠木 昴 年齢:17歳
性別:男 出身地:アレクサンドリア
種族:人族
レベル:572
筋力:4612
体力:3998
耐久:4012
魔力:4405
魔耐:4226
敏捷:4797
スキル:【鴉の呪い】【多言語理解】【アイテムボックス】
※【鴉の呪い】…【双剣術】【気配察知】【気配探知】【気配遮断】【黒属性魔法】【威圧】【夜目】【成長促進】【???】
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名:タマモ 年齢:12歳
性別:女 出身地:ガンドラ
種族:亜人族・弧人種
レベル:391
筋力:2658
体力:2515
耐久:2476
魔力:3944
魔耐:3351
敏捷:3030
スキル:【火属性魔法】【無詠唱】【炎の担い手】【身体強化】【第六感】【近距離戦闘】【気配遮断】【魔力増幅】【自己治癒能力】【嗅覚検知】【動体視力】【成長躍進】
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名:ニール 年齢:19歳
性別:男 出身地:龍神の谷
種族:亜人族・竜人種
レベル:565
筋力:5021
体力:4706
耐久:4873
魔力:2817
魔耐:2560
敏捷:4141
スキル:【雷属性魔法】【身体強化】【槍術】【気配遮断】【気配探知】【気配察知】【自己治癒能力】【絶対耐性】【環境対応】【威圧】【龍鱗】【竜気】【竜神化】【逆鱗】【強敵成長】
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