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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
呪いのステータス
12/192

12.グリズリーベア

文を読みやすく改行しました!


最後の方の昴が高いところが苦手である描写を消しました!


魔法の表記を変えました!

 暗い森の中を無言で突き進む昴達。勝を含む五人の気遣うような視線が先頭を進む背中に向けられる。悪態どころか言葉一つ出さない隆人にかける言葉が見つからないため、何も言わずについて行くことしかできない。


 どれくらい歩いたのだろう、最終地点までもう間もなくといったところでそれは起こった。


 ガサッ…


 かなり近い場所で葉の擦れる音がする。

 一瞬で昴達を緊張感が包み込み、足を止め周囲を警戒を向けた。何かが動く気配を感じる度どんどんと恐怖が増していく。

 気配が近づいて来るに連れ昴達は自然とお互いに身を寄せた。アトラスは前に出ると腰の剣をぬき、音のする方をにらみつける。

 音は次第に大きくなり、バキッベキッと木をなぎ倒すようなものまで聞こえてきた。音の正体を探ろうと辺りを見回すが、松明の灯りが届く範囲は限られており、その正体を確認できない。


 不意に音が途絶える。時間にして数秒の静寂のはずなのに永遠とも思えるほど長く感じた。

 隆人は意を決したように前に出て音が止んだあたりに松明を向ける。そこに照らしだされた姿を見て昴達は思わず息をのんだ。


 そこには熊のような生き物が立っていた。それが熊ではないといえるのはその規格外の大きさ。

 普通の熊であれば体長は二メートルほど、大きいものでも三メートルは超えない。だが昴達の目の前にいるのは優に四メートルを超えるほどの巨体。左目には傷を負っており、右目は赤く光っている。バカでかい牙から涎したたり落としながら、先ほどまでは様子見だったのか、今はグルルルルッとうなり声をあげ、いつ襲い掛かってきてもおかしくない。


「‘グリズリーベア’かよ!!ちくしょう!!」


 アトラスが昴達の前に出ながら悪態をつく。その顔には焦りが浮かんでいた。


「全員退避ッ!!バラバラにならないように、周りに木がないところまで…」


「グオオオオォォォォオオオォォォン!!!!!」


 アトラスが昴達に向けて発した声が'グリズリーベア'のすさまじい咆哮にさえぎられる。その咆哮に隆人は尻もちをつき、香織と咲も腰を抜かした。勝は逃げ出そうとするが足がもつれてうまく歩けず、昴はあまりの恐怖に身体を動かすことができない。

 咆哮を上げた'グリズリーベア'は完全に戦闘モードに入り、昴達目がけて勢いよく突っ込んできた。アトラスは舌打ちをしながら向かってくる'グリズリーベア'に対して剣を構える。車がぶつかったような音とともにアトラスの身体が吹き飛び、大木に叩きつけられた。


「ぐはっ…」


 呻き声と共に吐血し、木に寄りかかる形でそのまま地面にへと崩れ落ちる。己が吹き飛ばした獲物には興味がなく、'グリズリーベア'の眼が一番近くにいる香織に向けられた。香織はヒィッ!と小さく声を上げるも、なんとか魔法で対処しようとするが、ガクガクと身体が震えてしまい、うまく魔力を練ることができない。


「グォォォオオオオォォォォン!!」


 もう一度威嚇するように吼えると手を振り上げながら香織に向かって一直線に突っ込んでいった。どうすることもできない香織は恐怖から逃れるために目をぎゅっと閉じる。

 'グリズリーベア'の手が香織に振り下ろされる瞬間、気合で身体の硬直をといた昴は、香織に駆け寄り飛びついた。肩に燃えるような痛みを感じながらも、昴は香織をかばうように抱きしめ受け身をとる。

目を開けると自分が昴の腕の中にいることに驚くが、すぐに自分が助けられたことを察した。香織は昴に向かってお礼を言おうとしたが、肩から流れる血に気が付き、慌てて起き上がる。


「楠木君!血が!!」


「大丈夫。今はそれどころじゃない」


 取り乱す香織を手で制しながら昴は'グリズリーベア'に目をやる。自分の爪についた昴の血を舐め、ニターッと笑うさまはまるで悪魔がとりついたようだった。


「"飛来する火球(ファイヤーボール)"!!」


 なんとか体勢を立て直したアトラスが空に向かって魔法を放った。'グリズリーベア'が自分に気を取られている間にアトラスが声の限りに叫ぶ。


「走れぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


 その言葉に我に返った勝と隆人。松明を拾いなおして走る隆人の背を、へたりこんでる咲を脇に抱えて勝が追いかける。昴と香織も慌てて立ち上がりその後に続いた。

 昴達が逃げ出したことを確認したアトラスは'グリズリーベア'に剣を向ける。自分の食料を逃がした相手に苛立ちを隠せない'グリズリーベア'は、ありったけの殺意を放っていた。


「やれやれ…瘴気の測定をするだけの簡単なお仕事だと思ってたんだけどね…まぁ彼らが逃げれただけ良しとするか」


 怒りで毛を逆立出た'グリズリーベア'を前に無理やり闘志を奮い立たせる。


「さてと…やりますか!」


「グオオオオオオォォォォォオオオオオォォォン!!!」


 向かってくる黒い化け物にアトラスは覚悟を決めた。


−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・


 森の中を全力疾走する隆人達。後ろを振り返ることなく森の中を駆け抜ける。五分ほど走ると周りに木がない開けた野原に出た。


「はぁ…はぁ…なんとか逃げられたね…」


 香織は息も絶え絶えにその場に座り込む。勝も脇に抱えている咲をゆっくりと降ろし、自分も腰を下ろした。咲はまだ身体がいうことをきかないようで、震えを抑えるように膝を抱えて座っている。隆人は'グリズリーベア'が追ってきていないか警戒するように走ってきた森を見つめた。


「そうだ!楠木君の肩を治療しなきゃ!!」


 自分をかばってくれたことを思い出し、香織は周りを見回すが昴の姿は見つからない。


「アトラスさんもいない…」


 震える声で咲がそう告げると、香織がハッとした表情を浮かべた。


「まさか…」


 最悪のシナリオが頭に浮かび、香織の顔がサーッと青ざめる。そして勢いよく森の方に振り返るとそのまま走り出した。

 そんな香織の腕をつかんで隆人が止める。


「離してっ!このままじゃ二人が!!」


「……………俺が行く」


 ぼそりと呟くように言うと、隆人は香織を後ろに押しやり、止める間もなく森の中へと消えていった。


−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・


「…これはちょっと厳しいかな」


 アトラスはあまりに絶望的な状況に苦笑いする。【身体強化】のスキルを極限まで使っても相手の攻撃を受け流すのが精いっぱい。それどころか何発かは受け流せずにくらってしまい、いたるところから血が流れていた。

 アトラスの方は満身創痍、それに比べて'グリズリーベア'はかすり傷一つもない。これを絶望的な状況と言わずになんと言うか、そんなことを考えていたアトラスはもはや万策尽きていた。

 'グリズリーベア'の方は、いい加減空腹にも耐えきれなくなったのか、次の一撃で終わらせようと身体に力を籠める。


「さーて、最後くらい全力で気張ってみるかな」


 グリズリーベアの猛攻により左手が利かなくなったアトラスは片手で剣を構え、諦めたように笑う。

 そんなアトラスめがけて突進するべく踏み込んだ'グリズリーベア'の頭にカンッと何かが当たった。突然の出来事に動きを止める'グリズリーベア'に対し今度はさっきよりも大きな石が顔に当たる。石が飛んできた方に同時に目を向ける一匹と一人。そこには片手に石を弄びながら不敵に笑う昴が立っていた。


「おい、熊の化物。餌ならこっちだぞ」


 昴が石を投げつけると、'グリズリーベア'はうっとうしそうに手で飛んできた石をはじき飛ばした。あまりの出来事に呆気に取られていたアトラスだったが、すぐに我に戻って昴に怒鳴り声をあげる。


「スバル君っ!なにをやってるんだっ!!早く逃げろっ!!!」


 アトラスはなりふり構わず'グリズリーベア'に突進したが、すでに興味は、馬鹿にしたような笑みを向ける気に入らない()にうつっていた。アトラスを面倒くさそうに手であしらうと、猛然と昴に向かって駆け出す。


「…っと調子に乗りすぎたか。アトラスさん!あとは任せました!!」


 踵を返して走り出した昴をアトラスが必死に呼び止めるが、そんなの御構い無しで森の奥へ、奥へと昴は駆け抜けた。


 後ろから凄まじい音をたてながら徐々に近づいてくる気配を感じながら昴は直線的ではなく、蛇行しながら木々の間をぬうように走っていく。後ろのバケモノは突進してくるスピードこそ恐ろしいものがあるがその分曲がったりするのは苦手らしい。

 なんとか逃げ続けている昴には勝算があった。昴達が逃げる前にアトラスが放った魔法は近くにいる仲間に危機を知らせるためのものだ。そしてはじめこそ'グリズリーベア'に恐怖で慄いていた隆人達だが、今はもう冷静になれているはず。

 そんな隆人達がアトラスと合流して助けに来てさえくれれば、救助信号を見て駆けつけてくれた仲間と合わせれば十分な数。クラスメート達は経験こそないものの、その能力は普通の騎士よりも高い。それならば倒すまではいかなくても数の暴力で撃退くらいはできるはずだ。


「…まぁ、玄田が俺を助けようとしてくれればの話だけどな」


 苦笑いを浮かべながら独りごちる。あんな目で自分を見てきた男が助けに来る絵が想像できないが、香織も咲もいるのだ、隆人が駄々をこねても来てくれるだろう、と一縷の望みにかけるしかなかった。


 そんな事考えつつ、昴は自分にできることをまとめる。それはとにかく時間を稼ぐこと。逃げて逃げて逃げまくって、援軍が来ることを待つこと。

 幸い'グリズリーベア'は息を殺して静かに獲物を追うタイプではないので、すぐに見つけることができるだろう。


 勝利までの方程式を頭で計算していた昴の思考が突然停止した。

 森の中を走っていたはずの昴がたどり着いたのは崖の上。闇雲に走っていたと思った昴は、気づかぬ間にこの場所に誘導されていたのだ。

 慌てて森に戻ろうと振り返ると、勝ち誇った表情を浮かべた'グリズリーベア'がゆっくりと近づいて来るのが目に入った。後ずさりしながら必死に考えを巡らせた昴だったが、この状況を打破する案は浮かばず、崖の端っこまで追い詰められる。

 恐る恐る後ろを見ると、崖の下には月明かりを受けてキラキラと輝くメチル川があった。そのあまりの高さに思わず目が眩む。足を竦ませながら崖下から視線を戻すと、'グリズリーベア'は昴の目の前でやって来ていた。


「こいつぁ…一か八かやるしかねーな」


 昴が"アイテムボックス"に収納されている剣を取り出そうとした瞬間、ドンっ!と重いものがぶつかったような音がした。後ろからの衝撃に'グリズリーベア'は成すすべなく目の前に立っていた昴諸共吹き飛ばされる。

 落ちていく昴の目に景色がコマ送りのように飛び込んで来た。そして昴は目にする、崖の上から狂気を滾らし、昴を見ている隆人の姿を。


(ここまで恨まれていたとは計算外だったな)


 自分の認識の甘さに苦笑しながら、昴は真っ逆さまに落ちていった。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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