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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
『龍神の谷』に住まうもの
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30.龍神の巫女

「サクヤ!これでいいのか?」


 昴が木の上から巨大な青虫を掴んでサクヤに見せる。


「それです!その’ワーム’の糸が必要らしいです!!」


 サクヤが木の下から両手で大きな丸を作った。昴はそれを確認すると’ワーム’を自分の隣に浮遊する黒い箱の中に投げ込み、また違う’ワーム’を探し始める。この黒い箱は昴が魔法で作り出した物。'ワーム'の出す糸が目的ということで生け捕りをする必要があるのだが、それでは"アイテムボックス"に入れられない、と昴は頭を悩ました。そこで魔法で黒い鳥を作っことを思い出す。有機物ができるのであれば無機物もできるだろうと、昴は"鴒創(れいそう)"で'ワーム'を入れておく虫かごを作り出したのだった。実際、カラスを作るよりも簡単ではあったが、家に戻るまで維持しておかなければいけないのはなかなかに大変で、'鴒創(れいそう)'を使いこなすためのいい訓練になっていた。


 昴達はサクヤと共に西の森に来ていた。なぜ、そのようなことになったかと言うと、その理由は今朝まで話は遡る。


  昴達がサクヤの家に泊めてもらった翌日、朝食を食べているとギランダルが家にやって来た。なんでも族長が少し忙しい時期らしく、昴達が会えるのは三日後の昼頃になる、ということだった。

わざわざ伝えに来てくれたギランダルにお礼を言い、これからどうするか考えていると、ミントがそれなら面会の日までうちにいなさいな、と言ってくれたのだった。その目は昨日とはまた違った昴達の服を凝視しながらだったが、それをやんわりスルーしながらも、行くあてのない昴達はお言葉に甘えることにした。

 ただ泊まらせてもらうだけじゃ忍びないので、昴が素材や食料を集めて来ると提案すると、ニールが監視役としてサクヤを連れて行け、と言ってきた。またもや喧嘩になりそうな二人であったが、ミントの無言の微笑みにより、昴はサクヤとタマモを引き連れていそいそと狩りに出かけたのであった。


 そんな経緯で今は三人で森を探索していた。主に昴は服の材料になりそうな糸や毛皮を、タマモは夕飯の材料になりそうな肉を、そしてサクヤはきのみや果実を担当している。サクヤは昴の近くを離れないように、タマモは一人で狩りに行っていた。


 ある程度の量の’ワーム’を集めた昴が木から降りると、サクヤが山菜を採集しているところであった。


「とりあえず目に入った’ワーム’は取ってきたぞ」


「お疲れ様です」


 サクヤは山菜の根元を木のナイフで切って背負っているカゴに入れる。その慣れた手つきを見て昴が感心していると、ふとサクヤの持っているナイフに目がいった。


「そういえば『龍神の谷』の家もそうだが、基本的に道具は木でできているよな。鉄は使わないのか?」


「そうですね。簡単な物は木を使って鉄は使いません」


「へぇ…なんか理由とかあるのか?」


「鉄よりも自分の鱗を使った方が頑丈で使い勝手がいいからです。鍋とか包丁とかは鱗でできているんですよ?」


 ニールの使っていた槍も自分の鱗から作られたと言っていた。確かにそんじょそこらの槍よりも硬く、鋭い切れ味であった。ニール自身も規格外の強靭さを有していたことは実際に戦った昴が一番よくわかっている。


「でもサクヤに鱗があるようには見えないけどな。綺麗な腕してるし」


 昴がサクヤの腕を見ながら言った。その腕は人族の少女のように華奢で、白く透き通るような肌をしている。サクヤは腕をさすりながら照れたように顔を赤くした。


「竜人種の肌は極小の鱗の集まりなんです。あまりに小さいため見た目には人族の方の肌とそう変わりなく見えるんですよ」


「そうなのか?ならどうやって自分の鱗を使って道具を作るんだ?」


「こうやるんです。見ててください」


 そう言うとサクヤは自分の腕を前に出した。なにが始まるのか見当もつかない昴であったが黙ってサクヤの腕を見つめる。


「”竜神化(ドラゴンソウル)”」


 サクヤの言葉に応じるように腕が銀色の鱗に覆われていく様を見て昴は目を丸くした。


「これは竜人種なら誰でも持つ【竜神化】のスキルです。こうすることで一つ一つの鱗が大きくなり、重なり合って普通の時よりもさらに強固な守りを気づくことができます。触ってみてください」


 言われた通りサクヤの腕を指でつついてみると、鋼を触っているような感触であった。


「と言ってもこの状態を維持するのは難しく、私も一部を短時間”竜神化”させるのがやっとです。このスキルを完全に扱えるのは私が知る上では兄と父だけですね。父に関しては詳しくは知りませんが【竜神化】のさらに上のスキルを使いこなすみたいです」


 サクヤの腕がみるみる元の腕に戻って行く。ニールと戦った時に本気を出していないと感じた理由はこれだったのか、と昴は納得した。これを使われていたらいくら”烏哭(うこく)”を使ったとしても勝てるかどうかわからなかった。その事実を目の当たりにして昴は思わず舌打ちをする。


「どうかされたんですか?」


「ん?あーいや。サクヤのお兄ちゃんにかなり手加減されてたんだなって思ってさ」


「それはどうでしょうかね…【竜神化】はかなり体力を使いますから、使っていないからと言って手加減しているというわけではないと思いますよ?」


「まぁ、そうなんだろうけどさー…」


「少なくとも兄はスバルさんの実力は認めていると思います」


 なんとなく腑に落ちていない様子の昴にサクヤがきっぱりとした口調で言う。


「なんでそう思うんだ?」


 確信を持っている顔をしているサクヤを見て、昴が怪訝そうな顔で尋ねた。


「スバルさんがいれば私は外に出ることができるからです」


 楽し気に笑うサクヤを見ながら、いまいち意味がわからなかった昴が首をかしげる。


「兄は心配性なので、自分と一緒でなければ私が谷から出ることを許してくれません。こっそり出ようとしても門番の方に止められてしまうのです。スバルさんもお気づきだと思いますが、谷の周りの木の壁には魔法がかけられており、あの門からでしか谷の外には出ることはできません」


「まぁ…あのシスコンがサクヤを一人で外に出すわけないよな…」


 昴の言葉を、サクヤが首を横に振って否定する。


「一人でなくてもです。守備隊の人と一緒でも私は出ることは許されませんでした。でもスバルさんと一緒なら出ることができた、これは兄がスバルさんのことを信頼している証拠です!」


 自信満々に言うサクヤだったが、昴は全然納得できないでいた。あのニールが自分を信頼?いやいや、ありえんでしょ、というのが率直な感想であった。


「…まぁ、とにかくあれだ。サクヤが怪我したりしたらあいつがうるさそうだからとりあえず戻るか」


「そうですね…私の方もかなり集められましたし、タマモさんの方は…」


 サクヤがタマモの話をしようとしたら前方から「おーい!!」と二人を呼ぶ声が聞こえる。目をやるとそこには’グリズリーベア’を担いだタマモが立っていた。その大きさは優にタマモの三倍ほど。そんな大きさの魔物を持っているというのにタマモは元気そうにこちらに手を振っている。


「タマモも狩りを終えたみたいだな。帰るか」


「…そうですね」


 想定の範囲外の獲物を仕留めたタマモを見ながらサクヤは乾いた笑い声をあげた。




 家までの帰り道、タマモが「死んだら鮮度が落ちるのじゃ!!生かしたまま連れて帰る!!」と言い張ったため、’グリズリーベア’を担いだまま町を闊歩している。生きているものは”アイテムボックス”に入れることはできないため、やむを得ずタマモに持たしてはいるのだが、正直”アイテムボックス”内は時間の経過がないため殺したところで鮮度は落ちないのだが、タマモは一切聞く耳を持たなかった。

 こりゃタマモのせいで目立っちまうな…、そう思っていた昴であったが本人も大概である。調子に乗って'ワーム'を乱獲したため'鴒創(れいそう)'で作られた箱は一メートルを超えていた。大きな魔物を担ぐ少女と得体のしれない黒い物体を浮遊させている男がいれば誰だって目を向けるだろう。昴はそんな視線から気を紛らわせるようにサクヤへと話しかけた。


「そういえば、サクヤは巫女なんだよな?」


「はい。’龍神の巫女’です」


「それってなにをするんだ?」


 昴が尋ねるとサクヤは少し考え込むような素振りを見せる。


「スバルさんは’(ドラゴン)’とは別に’(ドラグーン)’がいることをご存知ですか?」


「’ドラグーン’?」


「うちは聞いたことあるの」


 昴は初耳だったが、タマモは知っているようで'グリズリーベア'を持ったまま振り返った。


「確か…長く生きた’(ドラゴン)’は’(ドラグーン)’になって…えーと…すごい存在になるとかどうとか…そんな感じだったのじゃ!」


 タマモのあいまいな説明にサクヤが笑顔で頷く。


「正確には『長く生きた’(ドラゴン)’は’(ドラグーン)’へと進化し、神に近い存在になる』です。タマモさんはよくご存知で」


 サクヤに褒められたタマモがえへへ、と照れたように笑った。それだけ聞くと微笑ましいのだが、タマモの背中には瀕死の’グリズリーベア’が背負われており、その光景はなんともアンバランスであった。


「ほとんどの’(ドラゴン)’は’(ドラグーン)’にならずに死んでしまいます。ただほとんど奇跡に近いような可能性で’(ドラグーン)’へと進化を遂げる者がいます」


「奇跡に近い、か…道理で’(ドラグーン)’なんて言葉、聞いたことないわけだ」


「知っているのは竜人種か、もしくはかなり長命な人だけですね。昔の方が’(ドラグーン)’はいたみたいですし。それだけにタマモさんが知っていて驚きました」


「ま、まぁ、うちも偶にはやるということじゃ!」


 サクヤにはタマモが五百年間封じられていたことは話していないので、タマモははぐらかすように笑った。


「それで?’(ドラグーン)’が巫女となんの関係があるんだ?」


「…実は『龍神の谷』の東の山に’(ドラグーン)’が住んでいるのです」


「そうなのか?」


 昴が驚きながら聞くとサクヤはゆっくりと頷いた。


「’(ドラゴン)’は生物の中でも頂点に位置する力を持っています。それが’(ドラグーン)’ともなればその力は想像絶するほど。『龍神の谷』に住まう’(ドラグーン)’は私たち竜人種から恐れ崇められているのです」


「なるほど…なんで『竜人の谷』じゃないのか疑問に思っていたんだが、龍神が近くに住まう谷だから『龍神の谷』ってわけか」


「そういうことです。そしてその龍神を眠りに誘うのが龍神の巫女たる私の役目というわけです」


「眠りに誘う?どういうことじゃ?」


 タマモが昴の方を見ると、昴も肩を竦めて首を横に振る。


「’(ドラグーン)’の力は強力ですが、それ故に行動をするには大量のエネルギーが必要なんです。そのエネルギーを蓄えるため龍神は長き眠りにつく。巫女は一年に一度、舞をすることで龍神からエネルギーを奪い、更に深い眠りについていただくのです」


「そうすることで龍神様に変なことをさせないってわけか。一年に一回ってのは?」


「龍神のエネルギーが巫女にとって負担になるからです。奪ったエネルギーは巫女の身体に取り込まれるので、何度も舞を行うと膨大なエネルギーに押しつぶされてしまうということです」


「なるほどの…とにかくサクヤはすごいというわけか!」


 タマモがわかったような顔をしてうんうんと何度も頷く。


「お前絶対わかってないだろ…」


 昴がジト目を向けると、タマモは明後日の方を向いて鳴らない口笛を吹いた。それを見たサクヤがクスリと笑う。


「私は兄みたいに戦えるわけではないので、巫女として谷を守れることが嬉しいんです」


 少し遠い目をしながらサクヤは言った。


「『龍神の谷』を守るのが嬉しい、か…サクヤが谷の人に慕われている理由がなんとなくわかった気がする」


「えぇ!?そ、そんなことないですよ!!」


 サクヤは顔を真っ赤にさせながら慌てたように両手を振った。朝、狩りに行く前、サクヤがここを通るだけでいろんな人がサクヤに声をかけにきた。今だって温かい笑顔を向けられ、手を振られたりしている。その後、昴は変なものを見るような視線を向けられているが。


「サクヤは愛されているな」


「も、もう!からかわないでください!!先に行きますよ!!」


 昴がニヤリと笑いかけると、サクヤは耳まで赤くしながら足を早めた。おどけた調子でいったことではあるが、昴の本心からの言葉であった。昴とタマモは顔を見合わせ、笑い合うとサクヤの後を追いかけた。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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