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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
『龍神の谷』に住まうもの
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29.サクヤの家

少し忙しくなるのでこれから投稿が三、四日に一度になります。

申し訳ありません(+o+)

 集会所から少し離れた場所、そこがサクヤの家だった。確かに木でできているが他の家よりも大きく、家族は四人だけなので昴とタマモを泊めても十分な広さはありそうであった。


「今母を呼んできますね」


 昴とタマモを玄関で待たせてサクヤは家の中へと入っていく。ほどなくして銀色の長い髪をした奇麗な女性を連れて戻ってきた。


「お母さん!こちらがさっき話したスバルさんとタマモさんです」


「あらあら、本当に外の方たちだったのね。初めまして、私はサクヤの母親のミントです」


 うふふ、と笑いながらミントが挨拶をする。とても落ち着いた、というよりもおっとりとした女性で、人族の昴を見ても特に反応を示さなかった。


「昴といいます。サクヤの厚意に甘えてお邪魔しに来ました」


「タマモじゃ!よろしくの!!」


「スバル君とタマモちゃんね。どうぞあがって」


「こっちです!!」


 微笑を浮かべながらミントが家の中へと促すとサクヤが元気よく中へと入っていった。タマモはサクヤの家に興味津々といった様子で楽しそうにサクヤについていき、昴もミントにお礼を言ってその後に続こうとしたが、なぜかミントに腕を掴まれた。驚いた昴はミントに顔を向けると、ミントがニコニコしながら昴の方を見ている。


「えっと…なにか?」


 少し緊張しながら昴が問いかけた。まさか人族は入れることはできないとでも言われるのだろうか。しばらく無言で昴を見ていたミントが静かに口を開く。


「…これは何?」


「えっ?」


「この黒い服は何?」


 ミントの真意が読み取れず、昴は茫然としながらマルカットからもらった黒いコートとミントの顔を交互に目を向ける。よくよく見て見ればミントは昴のことを見ているのではなく、昴の服を見ていた。


(そういえばサクヤの母親は服を作る仕事をしてるって言ってたな)


 昴が来ている黒コートは外の世界の服の中でも特注品。マルカットが自慢するほどの一品なのだから服を扱うミントが興味を抱いてもおかしくはない。


「これはオーダーメイドで作っていただいた服であまり外の世界にも出回ってはいないものなんです」


「………」


「かなり高度な技術が使われているらしいんですが、服作りは素人なんで俺にはよくわからないです」


 ははは、と取り繕うように笑う昴をミントはニコニコと笑みを浮かべたまま無言で見つめる。昴はミントから得も言われぬプレッシャーを感じ、思わず冷や汗をかいた。


「あの…この服手に取って見ますか?それなら脱ぎますけど…」


 昴が恐る恐る尋ねるとその瞬間ミントは目をカッと見開き大きく頷いた。ミントの迫力に圧倒されながらも昴は黒コートを脱ぎ、ミントに手渡す。ミントは昴のコートを隅から隅までじっくり眺め、おもむろに叫んだ。


「なにこれっ!?腕と胴の接合部分が自然すぎて元からこういう形の物みたい!!裏地は麻じゃなくて綿?ううんもっと柔らかくて…これは’ワーム’の糸?それを丁寧に重ねることで、ものすごく滑らかな手触りになってる!!これは着る人の着心地を最大限考えて、少しでも負担を減らそうとした結果ね!!素材を痛めないような縫い方をしているし…しかもこれ素材だった魔物のスキルを劣化とはいえ再現してるわ!!こんな服があったなんて信じられない!!」


 早口でまくしたてられた昴は開いた口が塞がらない様子。ミントの叫び声(?)を聞いた二人が駆け足で戻ってくる。タマモの目に映ったのは昴のコートを抱きしめながら狂乱しているミントと、それを唖然とした表情で見つめる昴の姿だった。タマモは状況が全然呑み込めず混乱していたが、隣でサクヤが頭を抱えながら「やっぱりこうなっちゃったか…」と小さい声で呟く。


「…お母さん、スバルさんたち困ってるから」


 サクヤが諭すように言うと、ミントはハッとした顔をして周りを見渡す。何とも言えない表情をしている三人を見ると、すぐにさっきの微笑をうかべた表情に戻った。


「ごめんなさいね~。ちょっと珍しい服を見て興奮しちゃって」


 ほほほ、と笑いながらミントは家の奥へと向かう。その手にはしっかりと昴のコートが握られていた。


「…すいません。予想はしていましたが、出会ってすぐにこうなるとは…」


 困惑している二人にサクヤは申し訳なさそうに言った。


「洋服のことになると人が変わると言いますか…あんな感じになっちゃうんです」


「そ、そうなんだ。ま、まぁ、珍しかったんだろうな」


「…ちょっとびっくりしたのじゃ」


 昴が引きつったような顔で笑うとタマモはいまだに目を丸くしていた。


「とにかくリビングにご案内します。こちらへ」


 昴はサクヤの後ろについて行きながら、サクヤに「泊まりに来てください(強制)」と言われた時の事を思い出す。あの時のサクヤの目とさっきのミントからは同じ強さを感じた。


(やはり親子なんだな…)


心の中でそう思ったのだったが、なんとなく身の危険を感じた昴はそれを口にはしなかった。



 リビングにはミントが作ったと思われる服がたくさん置かれていた。今サクヤが着ているのもミントのお手製なのか、それの色違いも何種類かあった。中央に六人掛けのテーブルがあり、ミントがその一つに座って黒コートを入念にチェックしてる。


「お母さん!今日はスバルさん達に泊まっていってもらうことにしたから。いいでしょ?」


「あらあらそうなの?じゃあお夕飯の量を増やさなきゃね。スバル君とタマモちゃんはたくさん食べる方?」


「いえ、そんなお気遣いは…」


「うちはいっぱい食べるのじゃ!!」


「それは大変ね~」


 元気よくタマモが言うとミントは立ち上がりながら笑顔でタマモの頭を撫で、キッチンの方へと歩いていった。


「…少しは遠慮しろ」


「にゃ、にゃんでゃ!?」


 昴が呆れた様子でタマモの両頬を軽く引っ張る。


「遠慮なんてしなくていいんですよ!」


「そうよ~。自分の家だと思ってくつろいでね」


 キッチンの方から顔を出したミントが優しい声で言った。


「なんか色々気を遣ってもらって悪いな」


「いえいえ、二人はお客様なんですから!…それより」


「あー…外の世界の話だっけか?」


「はい!ご飯までもう少し時間があると思うのでそれまで話を聞かせてください!」


 サクヤは好奇心を抑えきれないといった様子で身を乗り出す。昴達は腰を下し、ミントが夕飯の支度を終えるまで、これまでの出来事をサクヤに話し始めた。



「うまーい!!うまいのじゃ、このスープ!!」


「ふふっ。タマモちゃん、ありがとう」


 夕飯ができたということだったので、まだ帰ってきていないニールとおそらく帰ってこないだろう父親は無視して先に食べよう、というミントの発言により、昴達は夕飯をいただいていた。出てきたのは野菜のスープに鳥の丸焼き、それにパンであった。


「本当においしいですね。隠し味とかあるんですか?」


「料理の隠し味は秘密なのよ」


 昴にも褒められ、ミントは満更でもない様子でウインクをする。タマモがすごい勢いで食べている隣で、どこがボーとしているサクヤは全然スプーンが動いていなかった。


「どうかしたのか?」


「…いえ。先程きいたお二人の武勇伝に感動しちゃって…特にタマモさんのピンチに駆けつけたスバルさんの話とか最高ですよ」


 何が最高なのかはよくわからないが、とにかくサクヤは話を聞けて満足しているみたいなのでこれで良しとし、昴は鳥の丸焼きに手を伸ばした。するとおもむろにリビングの扉が開く。


「いま帰っ…はっ?」


 丁度守備隊長の仕事から帰ってきたニールが食卓にいる二人を見て硬直した。


「うむ!おかえりなのじゃ!!」


「お邪魔してまーす」


 タマモはスープの皿を手に持ちながら明るくニールを出迎える。昴は視線を向けることもなく、軽く手を挙げただけだった。


「な、なんでお前たちがここにいるんだ!?」


 若干声が裏返りながらニールが二人を指さす。


「うちらがいたらまずかったかのう…?」


「い、いや…そういうわけではないんだが…」


 タマモが純粋無垢な目で見てくるので、ニールがたじろぎながら言葉を濁した。


「ならそんな大声出すなよ。近所迷惑な」


「お前は出ていけ」


 ぼそりと昴が呟くと、耳ざとく聞き取ったニールが昴を睨みつける。


「俺だけ出て行けってことはタマモはいいってことだよな?ははーん…妹属性大好きだな、お前」


「お前がタマモくらい素直で害がないと判断できればこんなことは言わないんだがな。この害虫め」


 吐き捨てるようにニールが言うと、昴の額に青筋を立てた。


「タマモ、気をつけろよ?こいつはお前のことを狙っている犯罪予備軍だからな」


「こんな少女を連れまわしているお前の方は既に犯罪者だがな」


 タマモとサクヤがまた始まったとうんざりしながら料理を口に運ぶ。ミントはいつもと変わらずニコニコと笑みを浮かべて二人を見ていた。昴は立ち上がると、ガンを飛ばしながらニールに近づいていく。


「お前…洞窟で蹴ったことは忘れちゃいねぇんだぞ」


「いつまでも過去を引きずっているような女々しい男はこの家にいる資格はない。去れ」


「ミントさんから許しを得てるからお前の許可なんか必要ねぇんだよ。口出してんじゃねぇよ」


「やはり野蛮人か…母さんにはこの馬鹿の本質は見抜けなかったようだな。さっさと俺の視界から消え失せろ」


「あぁ!?お前が消えればいいだろうが!?」


「ここは俺の家だ。屑を置いておくつもりはない」


 バァン!!


 二人がお互いに手を伸ばしかけた瞬間、ミントが思いっきりテーブルを叩いた。固まる一同、皆の視線が集まる中、ミントはニコニコ顔を崩さず静かに告げる。


「…食事中よ?」


 その有無を言わせない迫力に昴とニールは無言で自分の席に座ると、冷や汗をかきながら無心で夕飯を食べ始めた。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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