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異世界召喚されたらなぜかステータスが呪われていた  作者: からすけ
呪いのステータス
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1.プロローグ

初投稿です。生暖かい目で見てやってください。

(面倒くせーなぁ…)


 午前の授業の終わりを告げるチャイムがなる。退屈な歴史の授業にほとんどの生徒が途方も無い睡魔に脅かされてる中、響き渡るその音は天からの福音にも聞こえるだろう…楠木昴(くすのきすばる)以外には。


 そそくさと席を立ち食堂に向かう者、用意していたお弁当を広げる者、競争率の高い購買へと急行する者。行動は様々だがみな一様に苦痛から解放されたような顔をしている。

 そんな中、昴は机に突っ伏したまま動こうとはしなかった。なるべく動かないよう、目立たないよう、何も起こらないことを祈るように瞳を閉じ続ける。だが祈りというものは通じないことが世の常である。


「おいっ!くずのき!ちょっとこい!」


 机に突っ伏したまま溜息をつくと、そのまま席を立ち声のした方にかけよる。


「玄田君、なにかな…?」


 声の主は制服ごしにもわかるほどの分厚い胸板、学ランが悲鳴をあげるほどの肩幅。ラグビー部のエースと名高い玄田隆人(げんだたかひと)である。座りながらこちらに体を向け、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべていた。


「お前さ、購買行ってパン買ってこいよ」


「…買いに行くのはいいけどお金もらえる?」


「あぁ、今度払うよ」


「今までのお金もまだもらっていないんだけど…」


 最後の方は尻すぼみになる。隆人は鼻を鳴らして立ち上がると昴の胸倉を掴んだ。180センチメートルを超える隆人の身長は昴よりも一回り程大きく、それに加えて筋骨隆々な身体は昴に威圧感を与えてくる。


「お前さぁ…俺の言うことが信じられねーのかよ」


「そう言うわけじゃ無いけど…」


「金はいつか払うから早くパン買ってこいよ!」


 力任せに押され思わず尻餅をつく。そんな昴を嘲笑い、隆人は三人の取り巻きに声をかけた。


「おい、加藤、古川、前田。お前らもこの親切な楠木君に頼んだらどうだ?」


 呼ばれた三人もニヤニヤと笑いながら倒れた昴を見下ろす。


「じゃあ俺は焼きそばパンとコーヒー牛乳よろしく」


 加藤誠一(かとうせいいち)が遠慮をする様子もなく昴に言う。身長は170センチメートルほどで昴とそう変わらないが、やはり筋肉量に明らかな差があった。頭の回転が早く、おつむの足りない隆人達の悪巧みのほとんどがこの男の発案である。


「俺はアンパンと牛乳」


 悪びれもせずに注文をするのが古川勝(ふるかわまさる)。自分で考えるということをしない隆人達の中でも群を抜いたバカ。体型は隆人に近いものがあるが、筋肉というよりも贅肉の塊が歩いて喋っているようである。


「じゃー俺はホットドック!後は加藤と同じコーヒー牛乳頼むわ。お釣りはいらねーよ」


 そう言って十円を指で弾いてよこす前田健司(まえだけんじ)。いつもふざけた様子のお調子者。昴をバカにすることを生きがいにしている男だ。身長は昴よりも少し大きいくらいで当然のようにガタイがいい。

 隆人を含めたこの四人がラグビー部に所属しており、いわゆる問題児である。教師に対しても威圧的な態度をとっており、見て見ぬふりをされてることをいいことに、好き勝手威張り散らし、気に入らない生徒には容赦なく暴力をふるってるような連中であった。


 昴は身体を起こし、言われたものをメモすると逃げるように教室を出る。後ろから自分を馬鹿にするような笑い声が聞こえるが一切反応することはない。一度だけ出てきた教室を振り返り、面倒くさそうに溜息を吐くと背中を丸めて歩き出した。


 俯きながら廊下を歩いていると、周りの生徒が息を呑む気配を感じ、昴は何事かと顔をあげた。すると廊下にいる生徒の視線を一身に受けながらこちらに歩いてくる女子生徒が目に入る。


 長い黒髪を後ろで束ね、かけている銀縁の眼鏡からは知性を感じさせる。凛としたその顔は大和撫子よろしく町中で歩けば男なら思わず振り向くであろう絶世の美少女。背筋をピンッと伸ばし歩く姿はそこだけスポットライトが当たっているかのように異様な存在感を醸し出していた。すらっとした体形でも出るとこは出ている魅惑的な体つき。背は昴よりも少し低いがそれを感じさせない圧倒的なたたずまい。前から歩いてきたのは学年一、いや学校一とも称される同じクラスの霧崎雫(きりさきしずく)であった。


 雫は自分の方を見て鼻の下を伸ばしている周りの男子を歯牙にも掛けない様子で堂々と歩いている。しかし昴の目線に気がつくと、歩みが遅くなり、微かに表情を歪めた。その憂いを帯びた表情は周りの男子をさらにドギマギさせる。

 昴は肩をすくめると、顔を下に向け、雫の横を通り抜けた。雫はその場に立ち止まり、何も言わずに歩いて行った昴の背中を目で追う。その目には悲しみの色が浮かんでいた。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


 購買は戦場と化していた。誰もが自分の求めるものを得ようと無我夢中でレジに向かう。昴は頭をかきながら覚悟を決め、いざ戦場にのぞもうとした瞬間、重要なことを思い出した。


(やべっ…玄田(ゴリラ)の注文聞くの忘れた)


 取り巻き三人の欲しいものはしっかりとメモしているというのに肝心の隆人の奴を忘れるとは。昴は苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべ内心舌打ちをする。


(どうするかな。一回戻るか…そうすると絶対めんどくせぇことになるよな)


 ここの購買は需要と供給を全く考えておらず、すぐに売り切れてしまうことで有名である。ただでさえ出遅れた昴が教室に戻って購買に来たところで残っているものは誰もが買わないような微妙な商品であることは間違いない。


(つーか売れる商品くらい考えて発注しろよな)


 八つ当たりのように購買批判をした昴は面倒くさいことが起こると確信しながらも足早に教室へと戻っていった。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


「てめぇ…ふざけんなよ!」


 隆人の拳が昴の顔面に突き刺さり、派手な音をたててロッカーにぶつかる。昴は殴られた場所を手で押さえながら隆人へと顔を向けた。


「ご、ごめん。ま、まだ玄田君の欲しいもの聞いてなかったから…」


 背中に受けた衝撃のせいで少しむせながら謝る昴を見て隆人は盛大に舌打ちをする。


「くずのきよぉ…これで昼飯抜きじゃねぇかよ!聞いてなくても適当になんか買ってこいよ!気がきかねぇくずだな、本当!」


「ごめん。でも前に注文を聞かずに買って来たら「勝手に買ってきてんじゃねぇよ!」って言われたから…」


「うるせぇな!生意気な事言ってんじゃねえよ!」


 隆人は顔を歪めながらズカズカと昴に近寄ると、容赦なく腹に蹴りをいれた。


「くずならくずらしく少しはてめぇの頭で考えろ!」


 嗚咽を吐きながらうずくまる昴の背中に容赦なく罵声を浴びせる。クラスメートが虐げられているというのに、誰かが助けに入るそぶりはない。触らぬ神に祟りなし、助けに入って標的が自分になることを皆恐れているのだ。取り巻きの三人も加わり、その場で丸くなっている昴の背中を蹴り続ける。


「いい加減にしなよ!」


 見るに見かねたのか机を両手で叩き勢い良く立ち上がる女の子が一人。隆人達は動きを止め、声のした方へと目を向けると、女の子が怒りの面持ちでこちらへと近づいてきた。そして隆人と昴の間に割って入ると、威嚇するように玄田達を睨みつける。


「聖女さまはお優しいな」


 北村香織(きたむらかおり)の視線を嘲笑うかのように隆人が唇の端を歪めた。「聖女様」という言葉に眉をピクリと動かした香織は顔を真っ赤にさせ果敢に隆人へと立ち向かっていく。


「あなた達、寄ってたかって一人の人に暴力を振るうなんて恥ずかしくないの!?」


「暴力?暴力じゃねぇよな、加藤?」


 隆人に目を向けられた誠一はわざとらしく肩をすくめる。


「そうだよ。これは教育的指導ってやつだよ、聖女さま?」


 誠一がからかうような口調で言うと香織の顔はさらに真っ赤になった。


「その呼び方やめて!」


「やめてって言われても聖女さまは聖女さまだからなぁ」


 腕を組みながら悩ましげな表情で前田が答える。

 香織はその人なつっこい性格で誰にでも優しく接する態度と美少女という言葉が似合う整った容姿から聖女さまというあだ名がいつの間にか広まっていた。だが本人はその呼び名を嫌っていたため、香織に嫌われるようなことはしたくないと暗黙の了解のうちにそのあだ名は禁句(タブー)とされており、今では面と向かって呼ぶのは隆人達ぐらいであった。

 その可愛らしい顔に怒りを露わにした香織は隆人達をキッと一睨みすると、うずくまる昴の方に視線を向け、心配そうに見つめる。


「北村さん、僕は大丈夫だから…ありがとう」


「楠木君…でも血が…」


 隆人に殴られた拍子にキレた唇を見て香織が顔を歪める。優しい香織をこれ以上巻き込みたくない昴は笑顔で心配ないことをアピールした。

 自分が今までいじめていた奴がクラスの人気者に心配されてる様が気に入らない隆人はフンッと鼻をならす。


「本当情けねぇやつだな!女子に庇ってもらってよくそれで平気な顔してられんな!」


「男の風上にもおけねぇな、お前」


「くずだな」


 隆人の悪態に誠一と勝が続く。昴はそんな隆人達に一瞥もくれる事なくよろよろと立ち上がった。


「本当に大丈夫だからさ。北村さんは離れた方がいいよ」


 昴が微笑みかけると、香織は頬を少し赤らめ顔を俯かし「でも…」と戸惑っている。そんな香織の様子にも、自分の言葉を気にもかけない昴の態度にも腹を立てた隆人が怒りに顔を歪めた。


「てめぇ!無視してんじゃねぇ!」


 怒鳴り声と共に右手を振りかぶる。昴はぎゅっと目を瞑り、来たる顔への衝撃に備えるため奥歯を強く食いしばった。


「そこまでだ」


 凛と透き通るような声が教室に響き渡る。クラス全員が声のした入り口の方を見ると、そこには眼鏡をかけた美少女、霧崎雫とクラス委員の天海浩介(あまみこうすけ)が立っていた。クラスきっての美男子と美少女の登場に、殺伐としていたクラスメイトが色めきたつ。


「なにやら騒がしいと思ったら自分のクラスが原因とはな」


「雫!」


 香織は親友が来たことに安堵の表情を浮かべ、こっちこっちと雫を手で招いた。雫は軽く頷き、迷いのない足取りで香織の元まで行くと隆人達と昴を交互に視線をやる。雫の後ろに立っていた浩介は「やれやれ」と呆れたように首を振り、何も言わずに雫の言葉を待つ。雫の視線がこちらに視線を向けようともしない昴の唇に注がれた。


「…生徒会長であるこの私のクラスで流血騒ぎとはやりすぎなんじゃないか、玄田」


「はん!こいつが勝手に転んで口切っただけだっつーの」


 なぁ?と取り巻きに顔を向けると、三人ともニヤニヤしながらうなずいた。雫はそんな隆人達を何の感情もないような瞳で見つめる。微妙な沈黙が教室内に流れた。


「会長。確かに暴力は良くないが、振るわれた方にも原因があるのだろう」


 そんな沈黙を壊すように浩介が淡々と告げる。浩介は自分では何もせずに守られているだけの昴が弱いもの相手に自分の力を誇示して自己満足に浸っている隆人と同じくらい好きではなかった。

 雫はちらりと浩介を見た後、昴に視線を戻す。


「大丈夫か?」


「…霧崎さんのご心配には及びません。少し騒がしかっただけで特に問題はありませんので…迷惑かけてすいません」


 雫の問いかけに顔もあげずに答える昴。雫は一瞬悲痛な表情を浮かべるが、「そうか…」と呟くとすぐに無表情に戻った。


「楠木もこう言ってることだし、気にすることないだろ?」


 もともと気にしていた様子もない浩介がサラサラの髪を気障ったらしくかき上げながら事態の収拾を図る。浩介にとってみればこんな連中のじゃれ合いなど道端の雑草ほどにどうでもいいことだった。


「高校三年でもうみんな大人なんだし、会長が手を煩わせることじゃない。君達に割く時間もそこまでないし、全員騒ぎ過ぎたと反省してこれで終わりだ」


 隆人達がしょうがねぇな、と肩を竦めて自分の席に戻って行く。昴も自分のハンカチで血を拭いてくれた香織にお礼をいい、雫に対して軽く頭を下げるとそそくさと自分の席へと向かった。雫はその背中に声を掛けたいのだが言葉が見つからず唇を噛んで顔を俯かせる。



 ───瞬間


 教室に光が迸る。



 床に幾何学模様が現れ、驚愕に目を見開いた生徒達の顔を照らした。

 

 窓が開いていないにもかかわらず、教室内に暴風が吹き荒れる。教室に置いてある教科書や筆記用具を巻き込んで吹きすさぶ強風を前に誰もがその場から動けずにいた。


 何が起こったのかわからないが昴の本能が警鐘をならす。


「チッ!」


 大きく舌打ちをすると何かを考える前に雫に向かって飛びついた。驚く雫を腕に抱え、この得体の知れない光から守るように雫の身体を自分の身体で覆い隠す。雫の身体がビクッと震えたのを感じながら、それを無視して力強く包み込んだ。


 その間にも光と風はどんどんと強くなっていき、目も開けてられないほどの輝きが教室を埋め尽くす。クラスにいるものはもう右も左もわからない。得も言われぬ浮遊感が身体を襲った。



 一転



 何事もなかったかのように教室を静寂が包む。



 そこには幾何学模様も、光も、風もない。



 そして、そこには誰もいない。

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新連載、完結しました!(笑)『イケメンなあいつの陰に隠れ続けた俺が本当の幸せを掴み取るまで』もよろしくお願いいたします!!
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