記録者との接触
携帯では読みにくいかもしれません…。
硝子張りの壁に手をつきながら外を眺めている一人の少女がいる。
その少女は容姿が人形の様に整っていた。
腰ほどまである淡い水色の髪を後ろに流し、左右の違う瞳を揺らした。
「キレイ…」
少女は寂しそうに小さな桜色の唇でそう呟いた。
その声はカナリアの様に美しかった。
その場に他の人間がいたのなら老若男女問わず聞き惚れただろう。
視線の先には色とりどりの花が気持ち良さそうに風に身を任せている。
――あぁ、これさえ無ければ風を、光を感じれるのに…――
少女は整った眉を寄せて左太股に触れた。
「ここから出たいか?」
誰もいないと思っていたのに少女の声に応えた者がいた。
少女か少年か区別の出来ない声だったが落ち着いていて、どこか威圧感があった。
「誰!?」
驚いた少女が振り向き様に声を上げた。
背後にはいつの間にか白い服を纏った人が立っていた。
10歳を満たしてるか満たしてないかと言う位の中性的な子供で、綺麗な白い髪は汚れる事を気にしないのか引きずっていた。
よく見ると額に模様があり、何故か目は伏せたままでいた。
見れば見るほど怪しい姿をしている。
「ここから出たいのではないのか?」
訝しがる少女の問いには応えず、再び口を開いた。
「…出たいよ。だけど出ちゃいけないの。出られないの…」
少女は泣くかと思うほど瞳を揺らした。
「出してやろう。花畑までだがな」
少女の言葉を無視して、願いを叶えると告げた。
それを聞いた瞬間少女は大きな瞳を更に大きくした。
「出れるわけないでしょう?それにそんな事したら貴方も…」
最後の言葉は音にならなかった。
しかし何を言いたいのか分かったのか、中性的な子供は口角を持ち上げた。
年齢に似合わず大人びた笑い方だった。
「我をどうこう出来る者など一人しかおらぬ。」
――お前が出たいか出たくないかだ――
子供の雰囲気は選択を迫っていた。
「どうする?いずれ見回りも来るだろう。行くのなら今だぞ」
困惑する少女のことが手に取るように分かるのか、僅かに見える口元が緩んでいる。
「貴方もカレも大丈夫なの…?」
期待を込めた瞳で子供を見つめながら言った。
やはり不安なのか瞳が大きく揺れている。
「あぁ」
子供は短く、だけど強く返した。
スッと腕を少女に伸ばし、少女の白い手を小さな手で優しく包みこんだ。
「あの!貴方の名前聞いてもいい…?」
自分を連れだしてくれる子供の名前が知りたく再び問うた。
予想外の事を聞かれたのか子供は驚きの表情を浮かべた。
「我は人に名を教えない。必要がないからだ。しかし、お前には特別に教えてやろう」
そこで一度言葉を切ると、今まで伏せていた目をゆっくりと開いた。
「我が名はアンドロメダ」
その開かれた瞳に色はなかった。
服や髪だけではなく、目にも色がなかったのだ。
瞳の色を見た瞬間少女は驚愕に目を見開いた。
彼女は悟ったのだ。
自分と似たような異端なモノだと…
少女は知らなかった。
このアンドロメダとの接触が後に大きな嵐を招くことを。
それは自分だけではなく大切な人にまで影響を及ぼす大きな嵐になるとは…
アンドロメダは知っていた。
自分と接触した事で後に大きな大きな嵐を呼ぶことを。
しかし自分との接触により彼女が、あの人が良い方向に変化する事を祈っていた。
誰も知りはしない。
全てを知っているアンドロメダが悲しみ、嘆いている事を。
いや、一人だけ知っている者がいる。
この国の支配者だ。
だが彼は何もしない。
ただ見ているだけだ。
アンドロメダの無駄な努力を笑いながら…