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こぼれる花束

作者: はに

すぐに女は見つかった。

ほころぶようにはいかない、けれども目尻を下げた先にある黒子が可愛らしい。

私はひとつ咳払いをして、持参した貴重な地植えの花を手渡し、言葉を紡いだ。とびきり甘い言葉だ。

案の定、いつものことだが、眉間に皺が寄る。こうしてからかいをかけるのも久しい。

頭脳と美しさと性格、という与えられるものはすべて与えられたような女は過去を二度と語らない。

語るのは、彼女のルーツから派生した、彼女と同じ施設で生まれた年下の後輩のことだけ。

 

家族というのは今や神話であった。

危ぶまれる時代をいくつか越えて、ようやく家族というものが安定したと思ったら、遺伝子は破綻し始めた。

それは科学をもってしても追いつけない、操作してもウイルスに対抗する術がなく片っ端から患ってゆく。

だから今研究されているのは性交渉後すぐに或る滅んだ惑星からのウイルスに感染させるというとんでもアナログでリスクの高いとされるものだ。

作られるいのちの力を利用して取り込む。しかしそれは成功し、主流になった。

唯一弊害があって、生まれたこどもは皆、親より環境に適応し柔軟すぎることであった。

汚染にも、重力や酸素、免疫に、生殖にも。なんとしても生き残る形へ変化したのだ。

そのため、生まれれば生まれるほど最新の環境下での耐性ができた。

そして家族というのは協力関係にある小さな集団として認識された。


それらのことに抵抗はあった。長く糾弾されたし、裁判もあった。

しかしそういう人間が死んでしまえば、あとはもう、似たような考えのものたちしか居なくなった。


女は、そのことをひどく悲しんでいた。ほんとうの意味で、個性はどこにあるのだろうかと。


一度、海は深くなったあと全て蒸発してしまったという―あの惑星から取り寄せたかなしみを背負いながら、生まれることの、育つことの、意味を女は探していた。


私がちょうど彼女と出会ったのは、数か月前、閑静な住宅街のはずれにある趣味のいいバーだ。

いつも女という病に侵された私は度々此処を訪れては、連れて一夜を明かした。

私は、人間に似た形をしてうまれた機械だ。多くの情報と、細かな手入れを必要とする男。

どれだけの女を求めても、なにひとつ埋まらない中、同じ行動を繰り返していた要領を得ない男だ。


はじめて会ったとき、女はバーカウンターで酔っぱらっているのか端末をいじっているのか分からないくらい頭を揺らしていた。近くに寄って、後者のほうだと気づき、何気なく覗きこんだ瞳へ映った画面は瞬間に読み取れるだけでも公にはできないものだった。

今日日そんな危ういことをするなんて、と私は思った。あとで知るのだが、それを誘い文句にするそうだ。何とも言えないきもちになる。

とまれ、私たちは秘密を共有する、もとい合理的な考え方に至った。


私は不思議な気持ちになった。そんなことを思ったのも、はじめての経験だった。







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