―焼きそばパンとメロンパンと弁当―
―八重と拓夢が俺の言葉を待つかのようにじっと見つめてくる。
『…とりあえず食べながら話そうぜ。』
こんなに直視されたら気心が知れてる仲といえども話しづらい。
そう言って俺は焼きそばパンの袋を開けて一口かじる。
それを見た八重はメロンパンをほおばり、拓夢は弁当箱をあけておかずを口にもっていく。
それぞれ昼食をとり始めたところで俺は覚悟を決めて口を開いた―。
『昨日、俺の家にシェアーズが来た』
俺たちの間に流れていた空気が一瞬だけ止まった。
八重も拓夢もピタリと動きを止めて視線だけ俺の方に向ける。
首から下は見事なまでに硬直していて置き物みたいだ。
「…え、えぇ!?う、嘘でしょ!?大体なんで明弥のとこに現われるわけ!!?」
「そ、そうだよ…なんで明弥のとこに…僕てっきり現われるシェアーズは家族や親戚だけだと…」
目を真ん丸く見開き八重が俺に向かって言うと、それに重ねるように拓夢も言う。
『それがどうやらそうとは限らないらしい。見たこともない知らない奴だったしな。とりあえず同居という形になった。』
そう言って俺が緑茶を飲むと、八重は焦りを隠すかのようにメロンパンを口いっぱいにほおばる。
実際一番驚いたのは俺だ。
八重や拓夢がそう思っていたように俺もシェアーズは家族や親戚だけだと思っていたのだから。
なのでこうして二人が驚いてるのも無理はない。
「それって1人なの?…って1人に決まってるよね!そんな一気に来るわけ―。」
『いや、3人だ。』
「「 えええええ!!?? 」」
八重と拓夢の声が見事なまでに重なり、周りの人たちが一斉に眉をひそめながら俺たちの方を向いた。
『おい。まだ誰にも話してねえし話すつもりもねえんだからもう少し静かにしてくれ。』
学校の連中にバレて大事になるとか、それこそ勘弁だ。
下手したらマスコミが俺の家を嗅ぎつけて押しかけてくるかもしれない。
そんなことは絶対に避けたいので二人にそう注意すると、きゅっと口をつむいで二人ともこくこくと頷いてくれた。
「それにしても…凄い衝撃的だな…あの明弥の家に…シェアーズが来ただなんて…」
そうポツリと呟く拓夢の声に、八重がイチゴミルクをストローで飲みながら首を縦に振る。
「本当それ!明弥も災難よねー。よりによって嫌ってるものが家にきて同居することになるなんて。」
ストローから口を離してそう言うと、八重は目をつぶり「うーん」と唸る。
災難の一言で片付けてしまえばそれまでだが、本当に災難だ。
すると拓夢が食べていた手を止めて箸を置き、改まって俺の方を向く。
「明弥。僕に出来ることがあったら何でも言ってね。力になりたいんだ。」
そう言って真っ直ぐに俺を見つめる。
…拓夢!本当にお前ってやつは!なんとも感動的じゃないか!!
隣でメロンパンをひたすらほお張ってる女とは大違いだ!!!
そんな思いをこめて俺は拓夢に「ありがとう」と言った。
するとメロンパンをひたすらほお張ってる女も俺の方を向いて―。
「ふぉうひょ!!ふぁふあふぃもふぇふひゃふ―。」
―ゴンッ。
『うるせえ!!あと汚ねえ!!何いってんだお前は!!』
そんな思いをこめて俺は八重に「頭突き」をした。
頭突きをされてジタバタと転がりまわる八重。
全く恥を知らんか恥を。一体何を言いたかったのかさっぱり分からなかったぞ。
「せっかく手伝ってあげるって言ってるのに!そんな健気でいじらしい少女に頭突きする人がどこに居んのよ!!」
地面に横たわった状態でバンバンと地面を叩きながらそんなことを俺に言ってきた。
『健気でいじらしい少女は口に食べ物含んだ状態で喋らないぞ。』
その俺の言葉にキーキーと猿のごとく抵抗してくる。体力もてあましすぎだろ。
「まあまあ」となだめる拓夢に向かって「うるさい!」の一言を返し、勝手に弁当に入ってる玉子焼きを食べるような奴だぞ。
こんな奴のどこが健気でいじらしいんだろうか。
玉子焼きを食べられた拓夢は「あぁ!もう…僕しばらく玉子焼き食べれてないよ…」などと、弱々しい声で言うので何だかこっちが切なくなる。
「とにかく!私も出来る限りのことはするから。シェアーズの情報とか手に入り次第すぐ明弥に伝える。」
玉子焼きをむぐむぐと食べながら八重が俺の方を向いてそう言ってくれた。
ここまでシェアーズの情報を俺たちに提供してくれたのは紛れも無く八重なのだから、これからも是非お願いしたい。
『ああ。二人ともありがとう。助かるよ。』
俺がそう言うと昼休み終了のチャイムが鳴り、周りの人たちが後片付けを始める。
八重は「え!?もうそんな時間!?」と言って半分くらい残ってるメロンパンを無理やり口につめこみだした。
拓夢は落ち着いて弁当箱をしまい、シートを丁寧にたたんでいる。
…本当にどっちが女子でどっちが男子だか時々分からなくなる。
屋上の階段をテンポ良くおりていく八重の後を追うように、俺と拓夢も階段をおりていく。
その途中で拓夢が俺に小声で「頑張ってね。応援してるから。」と言ってくれた。
最初は家にシェアーズが来たことを言うべきか迷っていたが、今となっては言って良かったと思っている。
俺だけの秘密にしていたらいつかストレスか何かで爆発していただろう。
それに直接何かしてくれるわけでなくとも、こうして言葉をくれるだけで心強くなるというものだ。
そんな拓夢の言葉に頷いて教室に入り、足早にそれぞれの席について俺たちは五時限目・六時限目を乗り切った―。
―放課後―
「八重ー!帰りニック寄っていこー!」
「いいねー!その後カラオケも行こうよ!八重とのカラオケめっちゃ盛り上がるから好きー!」
放課後に入るなり、そんな女子たちの声が耳に響く。
「ニック」というのは近くにある喫茶店のことだ。
ここらへんには大した店がないので、学生が行くとこといったらニックかカラオケくらいしかない。
八重は部活にも委員会にも属していないのだが、遊びの誘いが毎日絶えないので出費も絶えない。
なので月末になるたび金欠だと嘆いてるが、こうして懲りずに友達と遊びに行くあたり本人は楽しんでるんだろう。
「いくいく!玄関で待っててー!すぐ行くからー!!」
そんな女子達の誘いに八重は笑顔で答えてカバンに勉強道具などをつめている。
『…お前も毎日大変そうだな。』
「なに?明弥も語りたいの?気晴らしに一緒にカラオケでもいく?」
からかうように笑いながらそう言う八重に『誰が行くか』とだけ答えて席を立つ。
「あっそ。」と言ってカバンを持ち、教室を出て行こうとする八重にすれ違いざま肩を叩かれた。
「とりあえず!何かあったらすぐ言ってよ。シェアーズはまだ分からないことだらけなんだから。」
『…そうだな。まあ用心はしとく。…とはいっても俺のほうからは何もしないが。』
俺の答えを聞いた八重はそのまま背を向けたまま手をひらひらと振って教室を出て行った。
拓夢は美化委員の仕事があるらしく既に教室には居ない。
帰宅部の俺もカバンを肩にかけてシェアーズが居る我が家へと向かった。