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シェア×シェア  作者: 夢見少女@活動不定期
第一章:出逢い
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―グロリオーサ学園にて―

「明弥。おはよう。相変わらず今日も顔色が悪いね……」


俺が席に着くなりとことこと目の前にやってきて苦笑いを浮かべるこいつは天野拓夢あまのたくむ

俺の幼馴染で気心が知れた仲だ。

白い肌に華奢な体でまつ毛は長く声変わりしたのか疑うような中性的な声と外見をしている。

性格はというと少し気が弱くお人よし。お人よしすぎて詐欺被害に合うんじゃないかと日々心配している。

すまん。ちょっと盛った。そこまで心配してない。

どちらかというと女子に間違えられて痴漢されたりしないだろうかという心配の方が勝つ。


『当たり前だろ。朝っぱらからまた死人どもがベラベラと話しかけてきたんだ。顔色も悪くなる。』


薄っぺらいカバンを床に放り捨てるように置いた。

ノイローゼ検査とかあったら余裕で引っかかる自信はある。


「あはは……あ!そういえば昨日、僕のとこに死んだアリスが帰ってきたよ」


拓夢の言葉に反射的に動きがとまる。


『……アリス?なんだ拓夢。お前ハーフか何かだったのか?』


「ち、違うよ!アリスは僕の家が飼ってたウサギの名前!!」


そんな訳ないじゃないかといわんばかりにわたわたと手を動かし全身で否定をしている。

拓夢とは長い付き合いとはいえペットのことまでは知らなかったな……

それにしてもアリスだなんてネーミングは拓夢がしたのだろうか……ちょっと気になるが。

―ウサギ、か。


『……ったく、人間だけじゃねえのかよ…』


人間だけでなくありとあらゆる動物が生き返っていく世界を想像して軽い吐き気を催す。

俺の思ってる以上に事態はどんどんややこしくなっている。

拓夢なんて満面の笑みだしアリスとかいうウサギが帰ってきて嬉しいんだろう。

……全く理解できないな。


「やあやあ君たち!なにやら面白い話をしてるじゃないか!どれどれ私にも聞かせなさい!!」


拓夢の背中をバンバンと勢いよく叩きヘラヘラと笑ってるこいつは東八重あずまやえ

少し焼けた小麦色の肌は八重の活発さをよくあらわしている。

そして一年のときからずっと俺と拓夢と同じクラスで噂好きの留年候補。

ご自慢のお団子ヘアーには毎朝1時間かけているという留年候補。

授業中は携帯をいじるか寝るかの二択しかない残念すぎる留年候補だ。


「八重、背中痛いよ……女の子なんだしもっとおしとやかになった方が良いよ……?」


「ごめんごめん!拓夢の背中って叩きやすいんだよね!そういう背中あるじゃん?」


「な、ないよそんなの……僕初めて聞いたよ……」


半べそかきながら八重に手加減なく叩かれた背中をさすりながら言う拓夢の声など八重には届かない。

大体叩きやすい背中ってなんなんだ。八重が毎日のように叩いてるから変形しただけじゃないのか。

このままではいつか拓夢の背中が八重の手形に変形するんじゃないだろうか。


「ね!明弥と拓夢がさっきしてた話ってさ!シェアーズのことでしょ!?」

瞳を輝かせながらずいっと顔を俺に近づけてきて聞き覚えのない単語を言う。


『シェアーズ……?なんだそれ、拓夢知ってるか?シェアーズってやつ』


「ううん。僕も初めて聞いたよ。」


知らないのは俺だけではなくて少し安心する。

ということは八重がまた適当にそれっぽい名前でもつけたんだろう。本当に暇人だなこいつは。

などと心の中で思ってたらそれを感知したのか八重が鋭く俺を一睨みしてきた。

うわなんだこいつ。両手を腰にあて「えっへん」とわざとらしい咳払いじゃない咳払いをしだしたぞ。

あんたの考えてることなんてお見通しというオーラが伝わりすぎてなんかもう痛い。イタい。


「説明しよう!シェアーズとは!普通に生活してる死者たちのことを指す言葉である!最近ニュースで言ってたじゃん!」


人差し指を天井に向けて高らかに放った言葉だがニュースの受け売りらしいのでなんだかマヌケだ。


『あー……興味ねえから観てねえわ。ていうか、どっからシェアーズだなんて名前が出てきたんだよ。』


「そ、そんなの私に聞かれても困るわよ。」


バツが悪そうに視線をそらし唇を尖らせながら話すこの姿はもう瞼が自ら落ちるくらい見飽きた。

覚えたことを後先考えずに得意げに披露するのは八重の得意技だ。

そして深くつっこまれると話をそらしたり流したりするのだが下手くそにも程があって見るにたえない。


「とにかく!シェアーズが出たんでしょ?明弥?拓夢?ねえねえどっち??」

大げさに手を叩き俺と拓夢を交互に見合う。


「僕の家だよ。前飼ってたウサギのアリスが帰ってきたんだ。」


『大体俺の家に出てくる訳ねえだろ。何も飼ってねえしここ最近家族や親戚だって亡くなってねえし。』


「そうなの!?そりゃ確かに明弥のとこにはシェアーズ出てきそうにないわねえ~……」


そう。出てくる訳がないのだ。

これが不幸中の幸いというやつだろうか。

ペットなんて飼ったことはないし家族も親戚も俺が生きてきた18年間ずっと元気だ。

それに俺がこのグロリオーサ学園に入学してから両親は海外に行ってて時々帰ってくるような状態だ。

兄弟も居なくほとんど1人暮らし状態なのでシェアーズが出現する要素は何1つない。

何1つない……はずなんだ。


それから授業開始のチャイムが鳴るまで八重はシェアーズについて話してたが興味もなかったのでスルー。

「ちょっと!明弥!!聞いてんの!?」とかいう声が時々聞こえてきたが多分雑音だろう。

いつものように八重の標的は拓夢1人に絞られ酔っ払いに絡まれる気弱なサラリーマンみたいな光景が目の前で繰り広げられる

拓夢。すまん。こんな俺を許してくれ。そしてどうか強く生きてくれ。八重の相手を出来るのはお前しかいない。

と、心の中で懺悔をしつつ授業の準備をして腕で枕を作り机に伏せて眠りについた―。



――――――――――――――――――



「―弥!―明弥!!―明弥ってば!!起きてよ明弥!!」


拓夢に強引に揺さぶられて重たい頭を持ち上げる。

もう一時限目が終わったのかと周りを見渡して愕然とした。


どうやらもう放課後らしい。


なんてこった。昼食もとってねえぞ。

授業中に寝たことは何回もあるがここまで爆睡したのは初めてだ。

それに拓夢は律儀に一時限終わるたびに起こしてくるのに……今日に限って一体どうしたというんだ。


まさか……ついにグレたのか!?


嗚呼。どうしよう。俺がもっと早く八重の魔の手から守ってやればこんなことにはならなかったかもしれない。

それ以前に拓夢が不良になってしまったら俺はどうすればいいんだ……?

パシリか?パシリになるしかないのか!?

ああ!嫌だ!俺に向かって「おい!焼きそばパン買ってこいや!」なんていう拓夢なんて嫌だ!!


「明弥……大丈夫……?何回も起こそうとしたんだけど全然起きなかったから……放課後になっちゃったよ。」


勝手な想像をして頭を抱える俺を心配そうに見つめながら手に持ってる冷えたスポーツドリンクを俺に差し出してくる。

どうやら俺の見当違いだったようだ。グレてはいないらしい。いつもの気弱だけど優しい拓夢だ。


『そっか……悪いな。具合悪いとかそんなんじゃないから気にするな。ありがとな。』


差し出されたスポーツドリンクを受け取ると拓夢はほっと一息ついた。


「なら良かったよ。じゃあ僕は委員会があるから!気をつけて帰ってね!」


そう言って拓夢は俺に手を振りながら教室を出て行った。


手を軽く振りかえし、拓夢が見えなくなってから俺は溜め息をついた。

まだ眠たさが残ってるのか頭が働かない。体が重い。

拓夢から受け取ったスポーツドリンクを胃に流し込むように勢いよく飲み、口元を雑に手でぬぐった。


『……帰るか。』


薄っぺらいカバンを手に取り俺はグロリオーサ学園を出た―。


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