―いつもの登校風景―
俺は河野明弥。
進路も特に決めず、だらだらと日々を過ごしてる高校三年生だ。
そんな俺が通ってるグロリオーサ学園は家から徒歩20分程度の場所にある。
学園生活だってそれなりに不自由なく暮らしてるし不満はない。
「あら。明弥くんじゃない!こんな暑い中学生さんは大変ねえ!」
不満はない。
「おやおや。今日も明弥くんは不機嫌だねえ。ふぉっふぉっふぉ」
不満は―。
「おう!!河野さんとこの明弥くんじゃねえか!どうした!そんな暗い顔して!!」
『不満はあるに決まってんだろうが!!不満だらけだこんな生活!!!』
体内にスピーカーでも埋め込まれてるんじゃないか、というくらい大きな声で話しかけてきた奴らに向かって俺は怒鳴り散らした。
俺がこんなに渾身の怒りをぶちまけても、こいつらはヘラヘラと笑っている。
―うんざりだ。
毎朝毎朝「前からここに居ましたけど?」みたいな面で気安く話しかけてきやがって。
死者は死者らしく大人しく家の中に居ろっていう話だ。
―そう。朝からベラベラと呑気に話しかけてくるこいつらは全員「死者」だ。
別に死人しか居ないってわけではなく俺と同じ「生者」も居る。
何ヶ月か前までは生者しか居なかったのに、いや、それが当たり前なんだが。
……今ではそんな当たり前がどうしようもなく愛しい。
そんな当たり前が突然崩壊したのは二軒隣の佐々木さん家に見たことない人が現れてからだ。
多分俺が物心つく前に亡くなったんだろう。噂では同居していた祖母らしいが。
それからというもの次々と「死者」が現れては呑気に生活している。
現れる死者には子供から老人までと年代は幅広く、特にこれといった決まりはないような感じだ。
そしてこの現象は俺が住んでいるここに限らず、各地で頻繁に起こっているらしい。
非常に迷惑な話である。
物心ついたときから俺は、幽霊だの死人だのそういった類の話は嫌いなんだ。
死んだ者に生きてる者が振り回されるなどとんでもない。
ましてや死んだはずの者が平然と暮らしているだなんて……普通に考えても気味が悪いじゃないか。
家族だろうが親戚だろうが、俺には一緒に暮らすだなんて絶対に出来ない。
出来ないというよりも、したくない。
『……あの。前から言ってると思うんですけど俺に話しかけないでください。』
もう口癖と言っても良いのではないか、というくらい毎朝機械的に発してる言葉だ。
毎朝機械的に……ということは一体何を意味するのかというと。
「もう!明弥くんったら!!そんなんじゃ友達に嫌われちゃうわよ~」
「明弥くんは恥ずかしがりやさんなんじゃのう、ふぉっふぉっふぉ」
「んなこと言うなんて水臭いじゃねえか!!なあ!!??」
―全く俺の話を聞き入れてくれないということを意味する。
『……じゃ、俺急いでるんで……。』
相手に聞こえるか聞こえないかくらいの声でそう呟き、小走りで視界から消えるように曲がり角を曲がった。
この朝の時間が一日の中で最も苦痛の時間だ。
何が悲しくて一日の始まりから大嫌いなものと関わらなければいけないのだろうか。
一体いつまでこんな生活が続くんだ……。
そんなことを考えながら俺は、長い下り坂を歩いてグロリオーサ学園へと向かった―。
興味をもって読んでくださった方々ありがとうございます!
続きも読んでくれたら嬉しいかぎりです!
主人公の台詞だけ『』なのは特に深い意味はありません!
なので、『』は主人公の台詞なんだな~……程度に思ってくれれば幸いです!