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シェア×シェア  作者: 夢見少女@活動不定期
第三章:ご近所さん
19/23

―小さな付き人―

―バタン。


ドアが閉まる音がした。

明弥の姿を見送った優芽は振っていた手を止め、くるりと振り返って居間に入る。


「…さて…私も朝ごはん食べることにしましょう♪」


炊飯器の前に行き、自分の分のご飯を山のように盛り付ける優芽。


「優芽姉はタマゴサンド食べないの?」


その様子を、タマゴサンドをほお張りながら見ていた陽菜は不思議そうに優芽に問いかけた。


「やっぱり私はご飯が好きみたいで…ご飯が食べたいんです。陽菜ちゃんもご飯が良かったですか?」


そう言いながら冷蔵庫を開け、中から納豆を取り出して優芽は思わず笑みをこぼす。

そして納豆をぐるぐると箸でかきまぜてご飯の上にのせる。

それから1人分の漬物とインスタントの味噌汁を作り、それらをテーブルに運んだ。

イスに座って「いただきます♪」と手を合わせる優芽の朝食の量を見て陽菜は呆れ気味に笑う。


「優芽姉…本当すごい食べるね…いくら満腹にならないからってそれは食べすぎじゃ―…あれ…?」


「ん?陽菜ちゃん?どうかしましたか?」


「―居ない…!?」



――――――――――――――――――――



ちらちらと腕時計で時間を確認しつつ俺はグロリオーサ学園に向かっていた。

しばらく歩いていくと俺が通学路の中で最も危険視している場所がやってくる。

それは―


「あら。明弥くん!なんだかいつもより髪の毛ボサボサじゃなあい?」

「おやおや。寝坊でもしたのかのう?ふぉっふぉっ。」

「おうおう!!寝坊だなんてたるんでんじゃねえのか!?俺が根性叩きなおしてやろうか!??」


近所のシェアーズたちが集まって井戸端会議をしているゴミ捨て場だ。

ゴミ捨てのついでにバッタリ会ったご近所さんと世間話をするのはいい。

近所付き合いというのも重要だからな。

だけど、

親睦を深めるのなら俺以外の人と親睦を深めてもらいたい。

どうして俺が通るたびに話しかけてくるのだろうか。

なにも近所同士の話を中断して俺に話しかけなくても良いのに。

むしろ俺のことは気にせず話を続けてくれ。お願いだから。


そして何よりも厄介なのはどんなに『話しかけないでください』と言っても通用しないこと。

今までは毎日のように言ってきたが、俺の言霊ことだまがもったいないので本日をもって終了させていただきます。


なので俺は何も答えずに、いつものように小走りで曲がり角を曲がった。


近所のシェアーズたちの「ちょっとー!危ないわよー!」などといった声が聞こえた気がするが総じて無視。

だが、急いで曲がり角を曲がった拍子に何かに引っ張られた。


バッ!と振り返ってみると…誰も居ない。


『…まあ…そりゃそうだよな。気のせいか。』


ここら辺に住んでて、グロリオーサ学園に通ってる奴なんて俺くらいしかいないし。

近くに住んでる奴が居るとしてもチャリなのでもう少し遅い時間帯に登校する。

だから俺の後ろを誰かが歩くなんてことは滅多にないのだ。


再び歩きだし、下り坂を下っていく。

『…』

でもなんだか引っ張られてる感じがして落ち着かない。

気のせいだと思ってみても、俺が歩くたびにクイッ、クイッと引っ張られている。間違いなく。

試しに俺は走ってみることにした。

下り坂なのでスピードがついて急に止まることは困難だが、この際構わん。

そう思い俺が走ったのと同時に引っ張る力が強まった。

それを振り払うかのようにさらに走る速度を上げると―


「もぎゃんっ!」


―そんな声が背後から聞こえた。


その声が聞こえた直後、引っ張られていた感覚は消えたので俺は徐々にスピードを落として立ち止まる。

立ち止まるまで時間が少しかかったが恐る恐る振りかえってみると…


『…結月…!?』


豪快に前からすっ転んだであろう結月が、両手を前に突き出して地べたに突っ伏している。

その光景を目にした俺は慌てて結月のもとに駆け寄って声をかけた。


『おい!大丈夫か!?』


「…だ、だいじょーぶ…!」


「んしょ…」と言って起き上がる結月の足には、地面にこすられた跡があったが幸いにも血は出てなかった。

これでもし血でも出てたら大変だ。


主に俺が。


結月が怪我をしたと知ったら優芽もそうだが陽菜が黙っちゃいないだろう。

きっとボロクソに俺のことをけなしてくるに違いない。

言葉のみならず手や足が出る可能性だって大いにあるわけだ。

そんな悲惨な展開を回避することが出来たので俺的にはまあ良かった。

とはいえ転んだことに変わりはないので…少しはけなされるかもしれないが。


『平気そうだな…とりあえず家に帰れ。陽菜とか心配してるだろ。』


そう結月に告げた俺は学園の方角を向いて登校を再開しようとするも、


「…結月…帰り道わかんない…」


結月のその言葉によって俺の行動は封じられた。


『…そっか…お前たしか…』


―目が見えないんだっけ。


俺が発した言葉の続きは口には出さなかった。

出せなかった―の方が最も俺の心情には近いかな。

本人が気にしてるかどうかは俺にはわからないが、どうも言葉にするのをためらってしまう。


『…じゃあ家まで送るから…しっかり掴まっとけ。』


再度歩み寄った俺はそう言って、結月を家まで送ることにした。



「うん。」と言って、手をわたわたと動かし掴まる場所を探す結月。

俺はそんな結月の手に当たるように近づいた。

俺のズボンの太ももら辺に手が当たった結月はそのままズボンをキュっと掴んだ。

しっかりと掴んだことを確認した俺は結月をつれて来た道を戻ろうとしたが…やめた。


来た道を戻ったらまた、あのうるさいシェアーズどもにぶちあたる。

会話のキャッチボールというものが成立してなくても、だ。

一方的にボールをぶつけられるのだって疲れる。

それに思い返してみると、俺が曲がり角を曲がったときに

「危ないわよー!」

と言ったのは結月のことだったんだろうか。

だとしたら言葉が足りなすぎる。

もう少し言葉が足りていれば、こうして結月を転ばせることもなかったはずだ。

…でもまあ、振り返ったときにちゃんと下の方まで確認しなかった俺が最終的には悪いってことになるのかな。


なんにせよ、結月が着いてきてたということが分かったし終わりよければ全てなんちゃらってやつだ。

まだ終わってないけど。


そして結月をズボンに掴まらせて立ち止まったまま、どうやって家に送り届けるか考えた結果。


『…ちょっと遠回りになるけどいいか?』


「いいよ。結月ちゃんと明弥おにーちゃんについていくから。」


来た道とは違う道で家に向かうことにした。

遠回りにはなるが仕方ないだろう。


結月の返答を聞いた俺はゆっくりと歩き出した。



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