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シェア×シェア  作者: 夢見少女@活動不定期
第二章:変化
14/23

―優芽とお買い物①―

優芽と買い物に行くことになったのはいいとして、だ。

ここらへんにはスーパーやデパートといったものはなく。

かわりに商店街が俺の家を出て、左に真っ直ぐ行ったところにある。

商店街に行って食材を買っても、俺が何か作れるわけがないのでしばらく行ってなかったが…


「明弥さん。買い物はどこでするんですか?」


どうやら商店街に行くしかないらしい。

少し距離をあけて俺の左隣を歩く優芽の言葉に、俺は前を見ながら答える。


『商店街しかないんだ。左に曲がって真っ直ぐ行ったらあるから。』


「商店街ですか?私、商店街はじめてです!お店の人がとっても気さくだって話よく聞きます!」


『あー…まあそうかもしれんが…あんまり楽しいものではないぞ。ゆっくり買い物ができん。』


俺の言葉に「そうですか?」と呑気に話す優芽は本当にご機嫌だ。

そんなに自分の作った料理を食べてもらったのが嬉しかったのだろうか。


『…なんでそんな機嫌いいんだ…?』


試しに理由を聞いてみることにした。



「だって。さっき初めて私の名前を呼んでくれたじゃないですか。とっても嬉しかったです。」



ご機嫌な理由は俺の予想外のもので。

ていうか名前なんて呼んだっけ。きっと無意識だったのだ。

それに名前を呼んでもらえたくらいでこんなに喜ぶだなんて、女心というのは理解しがたい。

それならまだ「手料理を食べてもらえたから」っていう理由の方がしっくりくるというものだろう。


『ふーん。』と言葉を返して道を歩いていると商店街の入り口が見えてきた。

昼食時を過ぎたとはいえ、ぱらぱらと主婦の姿が見える。

魚屋・八百屋・肉屋・豆腐屋などを見て優芽がキラキラと目を輝かせていた。


「わぁ…!すごいです!初めて豆腐屋さんとか見ました!明弥さん明弥さん!早く行きましょう!!」


まるで子供のようにはしゃいで商店街に入っていく優芽。

俺がのんびりと歩いてると、もう豆腐屋の前に着いた優芽が手招きしてくる。

手招きされると余計のんびり歩きたくなっちゃう病が発病したので、さらにのんびり歩くと

「もう!明弥さんのろまです!そんなんじゃ亀さんに笑われちゃいますよー!」

などと俺に向かって言ってきた。

俺が亀に笑われるどころか、優芽が豆腐屋の店主に笑われている。

つくづく発言が子供っぽいというか、身体だけ大きくなったような感じだ。


やっとのことで優芽のが居る豆腐屋の前にたどりつくと優芽は豆腐をながめていた。


「おねえちゃん!豆腐は好きかい!?」


「はい!お豆腐すきです!お味噌汁にも入れますし…湯豆腐にして食べたりもします。」


優芽の言葉に豆腐屋の店主は「そうかいそうかい」と笑顔で頷いた。


「んー…そうですねー…冷奴とかどうでしょうか?明弥さん冷奴食べれますか?」


「夏はやっぱり冷奴ですよ」と俺に尋ねてくる優芽にテキトーに頷いて値段を見てみると、


1パック200円…だと!?


俺がいつも買ってる99円の菓子パン2つ分の値段じゃないか!

豆腐ってこんなに高いものなのか?豆腐専門店だからなのか?


「あの。豆腐4パックくださ―」


『お、おい!待て!!早まるな!!!』


俺の慌てた声に優芽はキョトンとした顔でこちらを見た。


今なんて言った…?4パック…だと?


いやまあ確かに俺と優芽と陽菜と結月で4人だ。4人分を買おうとしたのも分かる。

だが問題なのは値段だ。200円の豆腐を4人分買ったらあっという間に千円札が飛ぶ。

そして100円玉二枚のお釣りがくる。切ない。

ていうか!なにも4人いるからって1人1パックにする必要ないだろう!

何よりも豆腐に千円を奪われたくないので、俺は優芽を説得することにした―


『優芽。よく豆腐を見てみろ。』


「あ、は、はい。」


『…かなり豆腐のサイズが大きいとは思わないか?』


「そういわれてみれば確かに大きいです…!普通のお豆腐の二丁分くらいはありそうな…」


『そうだ。それに結月はまだ小さい。こんな大きな冷奴1人で食べれると思うか?』


「そ…そうですよね…」


よし。だんだんと優芽が傾き始めた。あともう一押し―


「何もまるごと冷奴にしなくとも、余ったらおねえちゃんがさっき言ったみたく味噌汁にいれたり、麻婆豆腐なんかも良いじゃねえか!」


そう思った矢先に店主が優芽にいらんことを吹き込んだ。


「麻婆豆腐…!それとってもいいです!あ…でも麻婆豆腐ってどうやって作ったら…」


「なんなら麻婆豆腐の素をオマケにつけるよ!おからも持っていきな!!」


「本当ですか!?ありがとうございます!じゃあお豆腐4パックください♪」


麻婆豆腐の素に加え、おからもオマケでくれるという店主の言葉に釣られた優芽は結局4パック買った。

こんのクソ店主め。学生から800円も豆腐で巻き上げるとは一体どんな神経してやがる。

俺が必死に説得してたの見てただろうが。

財布の中の千円札をじっと見つめて別れを惜しんでいる俺をよそに、

優芽は笑顔で豆腐4パックとオマケが入った袋を店主から受け取った。


「んじゃ、オマケも込みで800円になります!」


800円になります!じゃねえよ。

オマケも込みで~…ってとこでお得感をアピールしてるんだろうがちっともお得感がない。

むしろお損感の方が俺の中では圧勝している。優勝トロフィー持ってる。


『…ったく。』


もう買ってしまったものは仕方ない、と俺は財布から千円札を出して店主に渡した。

千円札を受け取った店主は「毎度あり!」と言って俺に200円のお釣りを渡してきた。

そして俺はその200円をゆっくりと握り締めて空を仰いだ。


―許すまじ豆腐。




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