―野口さんの裏切り―
ゆっくり目を開けると、真っ先に天井が見えた。
布団がかけられていて一瞬ここは俺の部屋かとも錯覚したが
「おお、河野。起きたか。」
その言葉でここはまだ学校なのだと認識した。
『…川村先生…なんでここに居るんですか…』
俺が寝ているベッドの横にあるイスに座って、こちらを見ている担任―川村先生にそう問いかけた。
白衣姿で脚をくんでるその姿は、女医といわれても納得するような感じだ。
こうして間近にいられると正直少し緊張する。
「河野が急に倒れたと聞いて様子を見にきたというのもあるんだが…」
そうだった。なんでこんなとこに横たわってるのかというと、あまりの空腹で倒れたんだ。
ぶっちゃけ今にもおなかに穴が開きそうなくらい空腹だ。
川村先生は少し間をあけたが、そのまま言葉を続けた。
「なあ、河野。河野の家には今…ご両親は居るのか?」
『…え?いや…両親は今海外に行ってて家には居ませんけど…』
川村先生は二年のころから俺の担任だったので、そこらへんの事情はもう知ってると思うんだが。
どうして今になってそんな話を聞いてきたんだろうか。
川村先生は俺の答えを聞くと「ふむ…」と小さく唸り、
「そうか。急に変なことを聞いてすまなかった。今日はゆっくり休むといい。」
俺にそう告げ、保健室の先生に一礼をして出て行った。
なんだか少し変だったが、再確認をしただけだろう。
特に気にもとめず時計を見ると丁度11時になろうとしていた。
まだ昼の時間帯だが「気をつけて帰るのよ」と保健室の先生に言われたので、早退の手続きは済んでるんだろう。
ベッドから起き上がると、さっき川村先生が座っていたイスの横に俺の荷物が置いてあった。
川村先生が持ってきてくれたものだとみられる。
わざわざ教室まで荷物を取りにいくのも面倒だったし、とにかく感謝。
カバンを持って保健室のドアの前まで行き、
『じゃ、失礼しました』
そう言って保健室から出た。
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『あー…とりあえずコンビニで何か買っていくか…』
空っぽのお腹を抑えながら上り坂を歩く。
上り坂の途中、右と左に道が登場する。
そこを右に曲がって2、3分で、ここら辺では珍しいコンビニ「プラスマート」がある。
プラスマートの店員は非常に活気がなく、目が虚ろな奴ばっかなので夜は中々迫力がある。
そして弁当はあまり美味しいといえるものではないが、自炊できない俺としては贅沢は言ってられない。
とりあえずプラスマートで何か買わなければ。
フラフラと歩いてると右に道が登場したので、迷うことなく右へと曲がりプラスマートへと入った。
―チリンチリン♪
「…らっしゃいやせー…」
陽気な鈴の音とは違い、店員の声には活気すらなく陰気さが漂っている。
相変わらず目は虚ろでどこを見ているのか全く分からない。
頻繁にきているので店内は見慣れたものだが、一応商品をざっと見た。
パン・弁当・おにぎりで迷ったが、昨日からまともに食べれてないので弁当一択だろう。
俺はカツ丼を手にとりレジへと向かった。
―ピッ。
「カツ丼がー…一点で…えー…450円です」
なんとも覇気のない店員の声を聞いて財布を取り出す。
とりあえず千円を出そうと思い札入れの部分を見ると…
『あれ』
あると思ってた札が一枚もなかった。
でもまあ小銭で払えばいいだけの話だ。
そう思い小銭入れの部分を見ると―13円。
ばかやろう。
これじゃパンすら買えねえじゃねえか!なんだよ!カツ丼とか馬鹿か!!
てっきり千円が入ってるものだと思ってカツ丼をレジに持っていったのに…!
そういえば…生活費から財布にお金を補充するのを忘れていたんだっけか…
くっそ。これがまだ100円とか入ってたらパンと交換できたんだ…!それなのに…!
ゆっくりと財布をしまい、俺は店員に告げた。
『すいません。やっぱりいいです』
俺は忘れない。
店員が俺を見て「…かしこまりっしたー…あざーしたー…」とテキトーな挨拶をした後、
こんな商品も買えないのか…とでも言ってるかのような哀れみの目を俺に向けてきたことを…!
恥ずかしすぎる。こんな体験は小学校で卒業したというのに。
ていうか!いつもここで弁当買ってるだろ!
だというのに何で今回の1件であんな目を向けられなければならない!
…とはいえ買えなかったのは事実なので、大人しく真っ直ぐ家へと向かった。
プラスマートから家まではさほど遠くないので、あっという間に家の前だ。
さっさとお金を補充して、行きたくはないが恥ずかしい思いをしたプラスマートに再び行かなければいけない。
俺が食べ物を手に入れることが出来るのはプラスマートしかないのだ。
鍵を開け、キィ…と音をたてて家に入ると
「明弥さん!!お帰りなさい!!大丈夫ですか!!?」
「本当に馬鹿ですね…」
「明弥おにーちゃん…おなかすいてるの…?」
―シェアーズ三人がお出迎えしてくれた。
タイトルは千円札のことだったりします。