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戀憐廻祈  作者: 空月
それはいつか、かつての話。
5/6

それこそが罪だと、

行くあてのない異世界人とその庇護者。それだけで終われなかった『私』と『彼』の、いつかにあったかもしれない、一幕。




「おやすみ。……いい夢を」


 彼が微笑む。私はただ、頷く。

 そうして彼に抱き締められながら、眠りにつく。――それが『当たり前』になってしまってから、どれだけ経っただろう。


 本来彼は、こんなふうに他者の誤解を招くような行為をする人じゃなかった。それを、――捻じ曲げてしまったのが私という存在であることは、もう今更考えるまでもない。


 無知で愚かだった私が、彼の下から攫われて、そうして彼に助けられて。

 ごめん、と泣きそうな瞳で、鎖につながれて閉じ込められて。


 ……多分、それくらいの頃からだったように思う。


 私がここに居ることを、生きていることを、確認するみたいに、抱き締めて眠るようになったのは。

 毎日というわけじゃなかった。むしろ彼は、普段は私に触れるのを躊躇うような素振りさえ見せた。


 それでも時々、何かを恐れるような、怯えるような、揺らいだ目をして。

 私の元を訪れては、私を抱き締めて眠った。



 それから、徹底的に『敵』を――そう成り得る存在を排除するようになった彼を止めるため、そうして、私のせいで理不尽に殺されたひとの仇討ちを名目に、屋敷を襲われてから。


 それは眠るときの習慣になった。彼が屋敷にいるときは、夜でなくとも。




 声すら、彼に届けられなくなった私は、ただそれを受け入れるだけだった。安らぐようにと名を呼ぶことすら、できないから。


 私が彼の名を、最初から呼ばなければ。

 もしかしたら、違う未来があったのかもしれないと、時々、そんなことを思う。


 ……ただの、仮定の話だけれど。




 いつか失うことに怯えて、彼は私を抱き締める。

 抱き締め返すこともできないままの私を、それでも毎晩。


 それは言葉よりも雄弁に、いなくならないで、と伝えてくるから。

 私はただ、彼の腕の中で、目を閉じるのだ。




即興小説トレーニングにて「お題:ラストは眠り 制限時間:15分」で挑戦したものを加筆修正。

「確かに恋だった」お題botさんの「抱きしめて眠る癖が、」というお題も意識していたり。

即興小説した原文は『物語の切れ端。』にあります。


名前を呼ぶネタと声を失うネタはちらっとでもちゃんと書きたい気持ちがあったりなかったりするのですが、その場合『彼』の名前が必要なので迷っていたり。

むしろアナザーエンドを書きたいような気持ちもあったり。

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