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月は黄色

作者: 七風

 月の色。

 その色と言えば何を思い浮かべるだろう。

 黄色、白。

 大抵この二択のうちのどれかだろう。

 しかし私にとっての月とは黄色だった。

 昼間に燦燦と輝く太陽とは違い、夜空にひっそりと輝く月。しかし暗闇においてその光は圧倒的な存在感を持っている。

 小さい頃、怖がりだった私は夜に一人で外に出ることができなかった。ただ、理由もなく暗闇というものが怖かったのだ。

 それでも月が空にあるときには辛うじて外に出ることができた。ただし満月の日だけだ。

 太陽のように刺すような光ではない、月の光はとても優しく見えた。

 街灯も少ない田舎町で月の黄色い光だけが唯一の私を照らす光だった。

 だから月というものは光っているもので、黄色。幼い私には月とはそういうものだと定義付けられた。

 月というものに絶対的定義を持っていた私は恥ずかしい話、中学生の途中まで月が光っておらず、まして黄色でもないことを知らなかった。

 それまで昼間に浮かぶ白い月をもちろん見たことはあった。しかしそれは月とは違う他の惑星……、むしろそれが何かなど考えたことがなかった。

 だから、月の本当の色を知ったときは結構ショックだったことを覚えている。



 癖、と言うほどでもないが、今でも晴れた日では夜でも昼でも気づくと空を見上げ月を探していた。

 学校の廊下を歩いているときも、目線は斜め上の青空に向かっていた。

「あ」

 青空にポツンと白い月が申し訳なさそうに浮かんでいた。

 昼間の月は夜と比べて存在が希薄だ。

 絶対的な黄色の輝きを放っている夜と同じものとは思えないくらい。空の青さに負けて、雲の白さに負けて、決して主人公にはなれない可哀そうな白い月。

 だけどもう少し。

 あと数時間もすれば輝きを放ち、空を見れば嫌でも目に入るそんあ存在になれるさ。

 なんて、微かなエールを送った。

「何見てるの?」

 急に声を掛けられ私の身体は恥ずかしいくらいびくっと震えた。

「えっと、特に何も……」

 月を見つめて変な奴だと思われたくなかったので私はとっさに嘘をついた。

「そんなことないでしょ。かれこれ三分は経ってたよ」

「ずっと、見てたの?」

「ああ、別にずっと見てたわけじゃないからそんな怖い目で見ないでよ。そこの教室から見てて、数分たってもまだいたから何見てるのか気になってさ」

 そういって彼は後ろの教室を指差した。

「その、月を……」

 私は警戒を解いて恥ずかしながら正直に話した。

「へえ、好きなの?」

「好きなのかな、ただ、つい見入ってしまう癖、とうかなんというか……」

「それは、まあ、好きってことなんじゃないの? 俺もしょっちゅう空を見てるよ」

 彼は生き生きしながらそう話した。

 きっと天体とか星とかそういう関係が好きなのだろう。

「月の色って何を思い浮かべる?」

 ふと、私はこんな質問をした。

「色? まあ、一般的には月と言えば黄色かな、今は白だけど。でも所詮色なんてのは光の反射によって変わるもんだろ。空の青も夕日のオレンジも……、ま、そんなロマンのないこといっちゃつまらないけど。君は、月と言えば何色?」

 一瞬考えて私は答えた。

「私は、やっぱり黄色かな、それが太陽の光の反射だとしても」

「俺もそうかな。本当の色とか関係なく、夜空の中の月が一番綺麗だと思う」

 昼間の白い月の前でこんな話をするのは少し気が引けた。

「知ってる? 月の表面――あの綺麗な部分や、クレーターにはそれぞれ名前があるんだ」

「へえ、月の地名みたいなもの?」

「そうそう。あの綺麗な部分は海の名前がついてるんだ、雨の海とか晴れの海とか、海に例えられている。クレーターにはコペルニクスとかアルキメデスとか、天文学者の名前が名づけられている」

「へえ……、どのくらいあるの? そのクレーターって?」

「確か、公式に名づけられているのは70個ぐらいだったかなあ。全部は覚えてないけど」

「そんなにあるんだ」

「興味ある?」

「うん、少し」

「うちに望遠鏡あるんだけど、よかったら見に来る?」

 彼は少し照れながらそう誘ってくれた。

「うん」

 自然とその答えが口から出ていた。

 純粋に月が見たかったからなのか、彼ともっと話をしてみたかったからなのか、正直な気持ちはまだわからなかった。

 思えば私は月について何も分かっていなかった。

 黄色いか、白いか。形だって満月と三日月しかしらない。

 幼いころから私を照らしてくれたはるか上空に浮かぶ月、そしてこれからも照らしてくれる月のことをもっと知りたいと思った。


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