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月免戦相  作者: あおみど
8/18

七話  俺が馬鹿みたいじゃん

雪が解けた朝。

四人で学校に登校すると、既に渡り廊下にはランキングがずらりと張り出されていた。


場所によって、人だかりの厚さが違う。

もちろん、学校、学年総合ランキングの紙は人が多い。


「もう出てるんだ・・・先生達の答え合わせの速さ、怖い。」

「まあ、周辺の学校の教師と生徒会役員の総動員でかかるんだ。恐ろしい話だけど。」


シロトが戦慄しながら言った。


改めて考えると、小中高の全学年で三千名超、

ノート二万冊超の採点を一晩で終わらせるなんて、うちの学校は正気じゃない。


おまけに、ただ答えと照らし合わせるのではなく、

どの問題を選んだか、参考書と答えを一つ一つ照らし合わせていくのだ。


気の遠くなる作業だ。この学校の教師だけはなりたくない。



「おい、とにかく見に行こうぜ。案外、シロトがクラスで一番だったりしてな。」

「まさか・・・こいつは月の住人だよ?社会とか国語や常識にハンデがあるだろ。」


修が冗談めかす。

全く、シロトがクラストップだなんて、バカな事を言うなよ。


・・・ちょっとリアルだから、断定は出来ないけど。


もし気持ち悪いくらい数学が出来たら、その一教科でクラストップすらありえる。



「あ、人が少し切れたよ!」


結思が声を上げる。


それを聞きつけて、全員でさっと人だかりに入り込む。

頭の間から顔をのぞかせると、視界に学校ランキングの表が映った。



1位 画材 雛乃(高3) 31552点

2位 渡瀬 二郎(高5) 7892点

6位 シロト(中3)   7057点




あれ、おかしいな。最近暗いところで本を読んでいるからかな。

漢字がカタカナに見える。



「シロト君すごっ!!どうしたのこれ!?」


横で響く素っ頓狂な高い声。


「弟よ、幻覚だ。俺達は幻を見ている。」

「お兄は黙っててよ!」


思わずきつい言葉が結思から飛ぶ。


「修~・・・弟が厳しいよ。」

「最強自業自得だな。」



俺には味方がいなかった。



気を取り直して、ランキングの点数詳細を見てみる。

各教科の点数が分かるのだ。


人掻き分け近寄って、シロトの名前の横を見た。



総合7057

数学219

国語1622

理科188

社会1085

英語0

常識3693

哲学250


ああ、常識の学校トップはこいつか。頑張れよ地球の皆さん。


というか、叩き出した数字が尋常ではない。

一番低い理科でさえ、俺よりもだいぶ上だろう。


そもそも、一教科四桁が異次元過ぎてありえない。

校内一位の宇宙人は置いておいて、普通は取れる物じゃない。


合計が1000を超えると、小学校では大体トップになれる。



気になるのは、英語が全く取れていないこと。


「非常識だな、これは・・・。」


修が感慨深くつぶやく。ツッコミが欲しいのだろうけど、スルー。



ただ、言い得て妙だった。

俺達の学校の常識のテストは、ある意味一番非常識だ。


作法やマナーや、人権はもちろん、異常な量の雑学も求められる。


辞書ほどの厚さの問題を全部解くのは不可能だから、トンデモ問題を狙ったのだろう。

今回の常識はそういうものがいっぱいあった。

うまくいけば部分点だけでも、相当稼げる。


印象に残った物を上げると・・・


画期的な社会制度を考案せよ。(1000点)

発明をせよ。また、用途も答えよ。(850点)

国家を転覆させようとするとどうなるか。(700点)

じゃんけんの必勝法を編み出せ。(120点)


こんな問題が平気で出る。

もちろん、まともな点数をもらえる事も少ないのだが。

俺の常識の最高点が115点なのだから、いかに彼が恐ろしいか分かる。



気を取り直してクラスのランキング表を見る。



やはりシロトは一位だが、問題はその下。


1位 シロト   7057

2位 相模 修  2045

7位 高空 青雲 994 



「何でお前が二位なんだよ・・・。」

「頑張った。以上。」


敬礼のポーズをとる修。

正直、こいつが二番だとは思っていなかった。

シロトのせいで霞んでるが、こいつだって十分おかしい。


俺も頑張ったんだがなあ・・・。

40人中7位って褒められると思うのに。


肩を落としていると、結思が少し向こうから駆け寄ってきた。


慰めてくれるのだろうか。

結思は近くに来ると、肩をやさしく叩いて、耳に口を近づけた。


やさしく、ささやくように。


四桁、いったよ。って。







「ねえお兄機嫌直して、7位だってすごいんだしさあ?

 ほら、ラッキーセブンだよ!なかなか取れないよ!」


無言でご飯を掻き込む俺に、結思の声は聞こえなかった。


授業が終わり、珍しく結思がこちらの教室へお弁当を食べに来ている。

恐らく、しょげている俺を励まそうとしているのだろう。


でも、その気遣いは俺の劣等感を更に加熱した。


「そんなふてくされるなって。お前だってすごいじゃん。

 結思がすごいだけだって。小学校2位だぞ?」

「弟に負けるなんて兄としてどうなんだ。」


気分が相当塞ぎこんでいる。

わかってはいるんだけども、つい口調が荒くなってしまう。


「ユウシは一番頑張ったよ!セノンも頑張った!」

「頼むからお前だけは黙っててくれない?」


何でしゃあしゃあと空気を読まないんだこいつは。

月で何してたんだお前は。


子供っぽいのは分かっている。

分かっているんだけど、どうしようもない。


最後の一口を食べ終えると、そそくさと机から次の授業の教科書を引っ張り出した。

まだ昼休みはあるけれど、会話という会話をする気分になれなかった。


修も、心配そうにはしながらも、放っておくのが吉と考えたのだろう。

その日は、彼は学校で俺に話しかけてこなかった。


授業が終わった帰り。


シロトには、部活動を一通り見ていくように言ったので、一人だ。

帰宅部なので、帰ったら勉強か読書か寝るか、どっちかだ。



一人で、冬の夕暮れ、寒いアスファルトの上。

こんなときは、色々な考えが脳をよぎる物だ。


劣等感やいらいら以外に、特に頭の大部分を占めていたもの。


それは、シロトの点数の偏りだった。

恐らく学生としてつつがなくやっていくのは、五百点も取れれば十分だ。


明らかに過勉強である。

観光に来ているのなら、もっとおとなしい点数を取って欲しい。


おまけに、英語は無得点。

つまり、最初から日本に来るつもりだったのだろうか。


・・・考えれば考えるほど、彼が分からない。


「いっ!?」


薄闇のなかで考え事をしていると、突如足に衝撃が走った。

つま先が割れるような痛み。足全体が痺れるような感覚。


足元を見ると、ボウリングの玉を真っ黒に塗ったような金属球。

どこかで見たような、光沢を持っていた。


こんなのを蹴ったのか。どうりで痛いわけだ。

下手をすると、血が出ているかもしれない。


それにしても、何でこんな物がここにあるんだろうか。



まあいいや。電車に遅れてしまう。

時計を確認して、俺は小走りで駅に向かった。







帰宅してから借りてきた本を広げること少し。

ドアチャイムの音が鳴り響く。


恐らく、シロトだろうな。

もう部活を見学してきたのかな。


ドアを開けると、そこにはちょっと意外な人物がいた。


「何してんだお前。」


そこには指二本をくっつけて額につける修の姿があった。

帰り際に寄るとは、どうしたんだろう。


見ると、彼の腕の中にはあの金属球が。


「お前、それは・・・?」

「ああ、何かお前の家の前にあったから拾ってきた。」



家の前!?

だって、それは電車に乗る前に地面に・・・



「うわっ・・・重た!!」


修から金属球を受け取る。

玉はずっしりと重くて、腕力のない俺にはかなり応えた。


恐らく、20kgは余裕である。


床に置くと、ガタタンと嫌な音がした。



・・・一体これは何なのだろう。

二人で、顔を見合わせた。



つづけ

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