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月免戦相  作者: あおみど
7/18

六話  機械の爪痕

「そういえば、親とは連絡はついたの?」

「ああ、二人とも無事だって。本当に良かったよ。」


俺がこたつから尋ねると、向こう側で安堵したような顔で頷く修。


横には、こたつの天板に頭を置いて寄り添うように寝ている二人。



外の世界は、徐々に光を増してきた。

本来ならば、今は学校で必死に冊子をめくって、筆を動かしていることだろう。



結局俺達は、何事もなく朝を迎えることが出来たのだ。

しかし、それは事の終結ではなかった。



「自宅待機、いつになったら解かれるんだろうな・・・。」


「ま、あの機械が何とかならない限りは無理だろ。

 今警察が駆けつけてるから、そのうち壊してくれるって。」



修に愚痴るように問いを投げる。

彼は、そんな俺に対して、なだめるように笑った。



やりきれない気持ちで、新聞をとってもう一度読み直すことにした。



今朝の新聞の記事に、それはあった。

大きな記事ではないものの、最初に読んだ時は戦慄してしまった。



あの夜から、死者は一人から五人になったのだ。

負傷者は、合計で百人以上になるらしい。


まだ機械は動き続けているとの事なので、さらに被害は増えるだろう。

ただ、建物が壊された跡はないらしいので、建物の中にいれば安全らしい。



「そうだ、ニュース見るか?」



何を思い立ったか、修はリモコンを持って俺に尋ねた。

正直、気が引けた。


こんな奇妙な事件、メディアの扱いが小さい訳がない。

戸惑い気味に頷くと、気にした風もなく修はスイッチを入れた。



どうせ、被害状況がどうたらだの、陰惨な事実しか入ってこないんだろうな。

ああ、本当に嫌だ。頷いたものの、聞いたって無駄なのは分かっているのに。



しかし、耳に入ってきたものは、想像していたものとは少し違っていた。



「国会は消費税引き上げの法案を・・・」


「なんだ、今はやっていないのか。」



修が素早くチャンネルを切り替える。

番組を確認しては、切り替える。



結局、あの機械のニュースを放送している局は無かった。

それは、修が番組表を確認しても、それは同じだった。



疑問符を頭に浮かべていると、不意に電子音が部屋中を駆け巡った。



「はい、高空です。」

「ああ、青雲の方だね?」


慌てて取ると、受話器の向こうから聞き覚えのある男の声。

担任の先生だ。



「どうしたんですか?」

「ああ、知っているとは思うが、この辺りで暴れていた機械は知っているな?」

「はい。一応は・・・。」


「あの機械が止まったそうだ。自宅待機解除との事だ。午後一時からテストを始める。

 十二時までには学校に着いているようにと指示があった。よろしく。」


「・・・あ、はい、了解しました。」



受話器を置いた後、思わず口角がだらしなく上がってしまった。

修はその様子を見ると、笑顔で寝ている二人をゆすり起こした。


彼には、応答の様子だけでわかっていた。さすが付き合いが長いだけある。


「ご飯を食べたら行くぞ二人とも!あの機械はもういなくなった!!」


結思は普通に起きたが、シロトは口が緩んでいた。しかも起きない。

こたつから引っぺがしてコーラみたいに上下に振ると、ようやく起きた。


もう十時だから、まともな料理は作れまい。

カップラーメンを物置から引っ張り出し、四食分作る。


俺だって、簡単な料理くらい出来るんだから。



食べている時に、結思とシロトに事の次第を説明した。

全員が食べ終わるのを確認すると、俺達は四人で外に出た。


荷物は、筆記用具と新聞くらいだ。

実は、常識のテストには、新聞から結構出る。

大体1000点近く出る。もちろん、大切な攻略の鍵だ。


外に出ると、嘘の様に空は青々と澄み切っていた。

一面に積もった雪が、キラキラと光り輝いていた。



「こんなに綺麗に晴れたね・・・。」


ため息のように綻んだ結思の口からこぼれた言葉。

彼の目も、親切に負けず劣らず、たくさんの光を含んでいた。


「雪合戦でもしてこうか?」

「だめ。そんな時間は無いよ。電車に遅れちゃうでしょ。」


だが、彼は俺の提案をあっさり蹴った。

本当に、どこまでもしっかりしている奴だ。


時計を見ると、少しは時間が余っているように見えるのだがなあ・・・。



腕から顔を上げると、不意に垂れた耳が目に付いた。

見ると、暗い雰囲気でうつむく少年の姿。


「シロト、具合でも悪いのか?」

「あ、ううん。何でもないよ、ボクは平気。」


手を軽く振って、疲れた顔で無理に笑顔を作るシロト。

性別を軽く忘れさせるような顔立ちなので、その仕草はより小動物的だった。


ニュースを見たときからそうなのだが、

ほとんどの時間を物憂き顔で考え込んでいる。口数も一気に減った。


どう考えても普通ではないが、

彼が自分から話すまでは奥に触れない方がいいだろう。


俺は、無理すんなよと笑顔で言った。

彼は、笑顔で首を縦に振ってくれた。





「ストップ、回り道しよう。」


それから歩くことしばし、修がみんなに向かって静止をかけた。


「なんでだよ。商店街を通るだけ・・・あっ。」

「そう。商店街はまずい。」


途中で気が付いた。

商店街は、一番被害が大きかった場所。


雪が積もっているのならば、その光景は想像に難くない。

たとえ雪かきがなされていたとしても、雪の色までは隠せない。



「わかった。結思、シロト。回り道するから付いてきて。」


二人は神妙な顔して、黙って頷いた。



しかし、それが裏目に出たのかもしれない。


雪が積もっていて、ましてや人通りが少ない場所と来たら。

当然、予測ができたはずだったのに。


救急車だって、来たはずがない。


「結思、見ちゃだめだ。」

「・・・?」


結思がそれを目にする前に、彼の目を塞ぎ、引き返すことに成功した。

仕方ないので、商店街の道を通る事にした。


商店街は案の定の有様で、通り抜けるときはずっと結思の目を隠す必要があった。


商店街を過ぎた後も、油断は出来なかった。

被害が商店街だけだったという訳ではないのだから。


結局、結思の目隠しを解いたのは駅の近くだった。

結思は一度も、途中で手を離してとは言わなかった。




駅前通りに着くと、やっと辺り一面の白を目にすることが出来た。


一体、最終的な被害はどのくらいになったのだろうか。

昨日の夜の時点、緊急で作成された記事だから、恐らくニュースを見ていた頃だろうか。


とすると、もう少し増えていても不思議は無い。


いや、被害よりも、出所のほうが気になる。

新聞でも用途不明とあったのだから、誰もその機械を知らないのだろう。


とすると、一体あの機械は・・・



「・・・うっ!?」


そこまで考えた瞬間、俺の頭がガクンと動いて、視界が揺れた。

ちょっとの間を置いて、耳の辺りに冷たさとキーンという嫌な音。


耳に付いたものを払いのけて、それが飛んできた先を見る。


そこには、わざとらしく背を向けてつららを見ている修がいた。


・・・ふっ。おもしれえ・・・。




その後、地獄の雪戦争が勃発したのは言うまでも無い。



もっと言うとそのせいで電車を一本逃して、最初の国語のテストに遅れた。

結思にめちゃくちゃ怒られた。あと、なぜか修にも怒られた。



その日学校で、七教科のテストを全てやらされた。

恐ろしい事に九時過ぎに解散、帰りのバスと夕飯の弁当が学校から出る羽目になった。


そこまでして、日程を滞らせたくないのだろうか。

帰る頃には、みんなぐったりだった。



修にも別れを告げて、三人で帰る。


結思はヘトヘトだったのだろう。帰るとすぐに寝てしまった。

安心しきった様子で、ぐっすり眠っていた。



帰ったら夕刊が届いていた。

あの機械は、最終的に七人の死者、二百人超の負傷者を出したらしい。


何の根拠もなく、警察の狙撃とかで止まったんだろうなと思っていた。


でも、記事を見ると我が目を疑った。


保育園に侵入した所を、新入りの保母さんが小型遊具を引き抜き、

決死の覚悟でその機械に突っ込んで行ったそうなのだ。


その結果、保母さんは大怪我を負ったのだが、機械は止まったという。


火事場の馬鹿力とでもいうのか、使命感という物は時にすごい力を発揮する。

園児を守りたいと心から思ったのが通じたのだろう。そこの全園児を救ったのだ。



温かな気持ちで記事を読み進めると、一気に気持ちが冷えていった。


あの殺人機械を調べて、目撃情報と合わせた考察があった。


それによると、あの機械は飛び道具の類は一切無装備との事。

五本のアームを素早く振り回して、殴打のみを攻撃手段としていた。


移動速度も中々のもので、陸上選手が逃げ続けたら何とか生還できたとの事なので、

おおよそ雪の中を時速15kmで走れるらしい。


また、赤外線を感知するピットのような物を備えており、執拗に人間を追いかけるという。



どうやら、殺人目的で作られたような機械なのだが、いまひとつの性能なのだろう。

とはいえ、こんなのが街中で現れただけで、こんな事になるのだ。


犯人はまだ捕まっておらず、警察が必死に探してるという。



ため息をついて新聞を閉じると、視界の先にはあくびをしているシロトの姿。


その後一緒に少しテレビを見て、お風呂に入って寝ることにした。



電気を消し、寝る直前に彼がふとつぶやいた。


「ボク、本当にここにいていいんだよね・・・。」


消え入るような、小さな声で。


思わず胸が詰まってしまった。



彼は、ずっと寂しい思いをして生きてきたのだろう。

それを汲むと、もう、いてもたってもいられなくて。



「家族は家にいるものだろ。」

不意に赤面してしまうくらい、クサいセリフが口から出てしまった。





「ごめん。」


彼は、それだけ言うと俺に背を向けた。



その大きな耳は、力なく垂れていた。



つづけ

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