一話 雪兎は突然やってくる
ある寒い冬の朝だった。
俺はテレビの時計を気にしながら、トーストをかじっていた。
外は吹雪く雪景色だった。
電車が止まらないか、心配で仕方がない。
「お兄、今日は随分と速く食べるんだね。」
「まあ、やることがあるからね。」
弟が眠い目をこすりながらトーストをちぎる。
俺はそんな様子を横目で見ながら、最後の一口を口に放り込む。
朝は全校集会と聞いていたが、電車が止まっていたら間に合わないだろう。
というより、恐らく止まってしまう。
今日は走っていくことになりそうだ。
そんな事をぼんやり考えながら、テレビを見ていた。
「今日の最下位は、山羊座のあなた!
空いている電車に乗れると、今日は一日ハッピー!」
テレビからは、こんな無情なアナウンス。
だから、その電車に乗れないんだよ。
一日不幸になってろとでも言いたいのか。
そんな愚痴を頭に思いつつ、椅子を立った。
鞄を持って、コートを羽織り、帽子を被り、手袋をして扉を開け放す。
「いってらっしゃい。」
「行ってくる。」
今日の俺は急いでいた。
外に出ると視界はもっと真っ白だった。
全世界一面がホワイトアウトしているかのようだった。
手袋を外しスマホを取り出すと、付く頃には遅刻ぎりぎりという事に気付かされる。
・・・仕方ない、走って行こう。
公園の前を通る時、流れる視界の中に何かが映りこんだ。
止まっている場合じゃない事は分かっているのだが、つい足を止めてしまった。
視界に映りこんでいたのは、茶色いダンボール箱だった。
どうしてここにそんなものがあるのだろうか。
まだほとんど雪をかぶっていなかったから、さっき捨てられたのだろう。
その茶色い箱に吸い寄せられるように近寄り、しゃがみこんだ。
急ぐ心は、好奇心に勝てなかった。
その箱を開けると、中には雪を固めたような白い塊があった。
それが何か、次の瞬間で分かった。
「うさぎだ・・・。」
ダンボールの隅に、手のひらに乗るほどの真っ白な毛玉が置いてあった。
その毛玉に、赤いビー玉が二つ。
それが、ぶるぶると震えているのだ。
・・・理屈なんて、いらなかった。
帽子を脱いでその白い毛玉を入れて、また雪道を走り出した。
今度は、さっきと逆方向に走った。
玄関戸を開けると、びっくりしたような弟の顔。
無表情で帽子を渡して、これだけ言った。
「今日は休みだろ?こいつの世話をお願いしていい?」
弟の返事を待たずに、俺は元の道をもう一度走り出した。
帽子はなかったけれど、不思議と寒くはなかった。
つづけ