十七話 一欠け
「で、面白いことって何だよ。」
「ちょっとまって、人が食べてるときに話しかけるとマナー違反なんだよ。」
ちょっとイラっときたよ。
はよ食ってくれ、時間ないんじゃ。
「そーだそーだ!」
「修黙れ」
次の授業まではあと十五分ほど。
ただ、今日の午後は何かあったような・・・
何しろ、少し休んでいたのだから仕方ない。
「修、次の授業わかる?」
「・・・。」
「?」
頑として黙る修。
その表情は、かなり強張っている。
「どうした?」
「・・・。」
「おーい・・。」
「・・・。」
修のしきりにどこかを見つめている、訴えるような瞳。
ふと視線の先を追うと、そこには鉛筆。
このえんぴつを・・・?
鉛筆を持ち上げると、修は自分を指した。
手渡すと、修は机に何かを書き始めた。
そう、凄く綺麗な字で。
(さっき黙れと言ったじゃないか)
「口で言え口で!お前は小学生か!!」
思わず叫んでしまった。
まさかこんなくだらない事に時間をかけるとは。
「で、次の授業はなんだったっけ?」
「確かクラス別交流会だったな。俺らは小6の2組と、高3のS組だ。結思のクラスだな。」
クラス別交流会か。そういえばそんなだったな。
結思と一緒だなんて初めてだな。
それに・・・
「S組だから、画材さんも一緒だな。」
修がつぶやくように言う。
なぜわかるのか。
それは、各学年優秀者のみで構成される、いわゆる飛び級クラス。
成績優秀だとこのクラスに配置され、そこでさらに優秀な成績を取ると飛び級できるのだ。
小学校は1~6組、飛び級組は0組。
中学校は赤~紫組、飛び級は虹組。
高校はA~F組、飛び級はS組。
ちなみに、3年S組は今のところ4人しかいない。
0組は結思も一応入れるのだが、本人はクラスの友達がいっぱいいるから断ったのだ。
だから、実は三クラス合同なのだが、二クラス分の人数しかいないのだ。
「という事は、あの病院の四人が全員そろうのか。」
「そうだな。そういうことになる。」
画材さんに、また会えるのか・・・
小さなため息が、口からほうと漏れた。
もう会えなくなるなんて、やっぱりあり得ないんだよね。
「ときに、青雲。」
「なんだ。」
神妙な顔をした修が、こちらに硬い表情で話しかける。
「小6くらいの女の子って、いいよな!」
「お前は警察と脳外科をハシゴしてこい。」
真剣な表情で何を言うかと思えば。
非常にいつも通りだった。
「心配するな、二割冗談だ!」
「ブチ込まれてしまえ!!」
本当に彼は道を踏み外しそうで心配ではあるが。
頼むからその思考は漫画の中だけにとどめておいてほしい。
「セノン、食べ終わったよ。」
そんなやり取りをしているうちに、シロトがご飯を食べ終えて
話しかけてきたのだが、もう後五分といったところになっってしまった。
「ああ、ごめん、でも時間がもうすぐ・・・移動中に話そう。」
「場所はここだから移動はしなくていいんだぞ。」
え?そうなの?
「じゃあ、その間に話しちゃおう!すぐに終わるもん。」
「了解。手短にね。」
ここで済ませられるなら手っ取り早い。大概は交流会は大したことはやらない。
アオノリ担当だから、一体何をするのか不安ではあるが。
とか思っていたら、向こうのアオノリがレインコートか何かを配りだした。
どう考えても嫌な予感しかしない。
「入っていいぞー。」
そして、アオノリが教室の外に向かって野太い声で呼びかけると、
戸が開かれて、中から四人が入ってきた。S組だ。
たとえば、サングラスが決まっている現行生徒会長、渡瀬 二郎。
彼は親の期待通り(?)難関大学にに二浪している。
おかげで生徒会長が三年ほど変わっていない。交代してやれよ。
最後に入ってきたのは、灰色の髪の色が目を引く画材さんだった。
どう見ても周りよりも少し年齢の低い、同年代ほどの顔立ち。緑色の目。
ただ・・・
「おい、青雲。ぼーっとしてるな。シロト説明しようとしてるだろ。」
「え?」
ぼーっと画材さんを眺めていたら、修に小突かれてしまった。
「あ、ごめんごめん。」
「いいよセノン。それより、ヒナノさんにも話した方がいいよね?」
え?画材さんにって、別に彼女は病院に居合わせただけで。
この件には何のかかわりもないただの他人だぞ?
「そうだな。話した方がいいかは、お前に任せるが。」
「じゃあ、話しておく!ちょっと呼んでくるね!」
修がシロトに判断をゆだねると、
シロトはその場で軽く跳んで、画材さんの所まで駆け寄った。
ほどなくして、シロトが画材さんの袖を無理やり引っ張って連れてきた。
それは呼んできたというよりは、連行だろう。
「あ、こんにちは、お久しぶり?ですね。」
「・・・。」
ずっと引っかかっていた事。
画材さんが、病院での印象と、まったく違っていたから。
パリッとした制服にある白のパールリボン、短めの髪を後ろでゴムでまとめている。
シャープな眼鏡も、一緒にかけていた。
なんというか、とてもかっこいい。見とれてしまうくらいだ。
「ヒナノ!ちょっと話したい事があるんだ!もうすぐ授業が始まるから、手短に話すよ!」
シロトが早口にそうまくしたてると、自分も我に返る。
そう、ずっと気になっていた事ではあった。
ただ、みんな生きているならそれでいいやという気分もあったのだが。
「昨日は、月から試験的に機械の襲撃があったんだ。
もちろん、本気で壊滅させようとしたわけじゃない。」
そんな気持ちを知ってか知らずか、すごく大事そうな話を始めたシロト。
あわてて耳を傾けると、そんな様子を見たシロトは口角を上げて、声をひそめだした。
「襲ってきたのは、前と同じで、出力も殺傷能力も低いD型が二体。
おそらく、人間がどれくらい対抗できるかの実験だったのだと思う。」
ここで、疑問が。
「D型ってことはさ、C型とかB型とかもあるってこと?何かの頭文字だとか?」
ひょっとしてディフェンスのDだとか。確かに防御力が高かったし。
「いや、あれは階級なの。D型は大量生産される以前のもの、本当に試験型なんだ。
C型、B型と上がっていくにつれ、殺傷能力も上がっていくと思う。
本気で人間を一掃しようと思うのなら、C型以上を大量に送りこんでくるはずなんだ。
もっとも、まだB型が作られたという情報は入ってきていないけどね・・・」
恐ろしい話だ。あれで試作機なのか。
確かに人一人に壊されてしまうようじゃ、適していないかもしれないけど。
それにしても、二人とも無傷なんて、一体どうやって破壊したんだろうか。
「シロト、そういえばあの時お前が破壊してよかったのか?
どのくらい戦えるかの実験なら、お前が破壊したら反逆の疑いがかかるんじゃ?」
「大丈夫、ボクの管轄外の区域におびき出して破壊したから。」
なるほど。シロト賢いな・・・って、管轄範囲やたら狭くないか。
おびき出せる範囲なんて、たかが知れているだろう。
ここはよっぽど端だったとか。
「で、セノンには話しておきたいこと。ただ機械に挑んでも、勝ち目なんて薄いからね。
だから、気質を具現化して、武器にできる錠剤があるんだ。月からの支給品だよ。」
「え、それかっこいいな。という事は、その人だけの、イメージを形にした武器ってこと?」
「そう。賢い人なら、魔法のようなものが使える魔術書とか。後で、いつでも使えるようにしておくね。
もちろん、本来これは気質を転送した同朋に使うものなんだけどね・・・あはは。」
照れ隠しに力なく笑うシロト。
しかし魅惑の響きが、そこにあった。
たとえば、正義感強くて勇敢な人だったら、勇者の剣だとか?
こうなると、自分はどんな武器になるのか、楽しみになってくる。
「お、6の2組が来たな。そろそろ授業が始まりそうだ。」
修が教室の扉を指さして、言った。
期待に胸を弾ませている俺、ぞろぞろと入ってくる小学生たち。
かたや、薄手のレインコートと、ゴーグルを配りだす黒ジャージ赤マントのアオノリ。
途轍もなく嫌な予感しかしなかった。
おまけに、先生の手には水鉄砲。
「はーい、これから説明を始めるから、黙ってきけーい。」
完全装備のアオノリが、指示を飛ばした。
異様な光景に眉をひそめながらも、一つの違和感を感じていた。
結思が、いなかったのだ。
つづけ