魔法を教えます!
翌日。
リンは王宮の訓練場に立っていた。
広く整えられた石の床。
魔法の実験にも耐えられるように作られているのだろう。
その中央に――
「……よろしくお願いします」
そう言って微笑んだライネスが立っていた。
リンは王様と会ったあの後、ライネスと会う機会があった
その時に魔法を披露したり、おしゃべりをしたのだが
意外にも彼女は中学生くらいだったので私のほうが先輩だった。
まあそんなことどうでもいいのだが
それに敬語は使わなくてもいいと言ってくれたし、
昨日でとても打ち明けたと思っている。
「こちらこそ」
リンは軽く笑う。
(さて、どう教えようかな)
普通に教えても意味がない。
ライネスは“魔法が苦手”なんだよなぁ。
それは昨日本人から聞いている。
でも――
(実際のところどうなんだろう)
リンは一歩前に出た。
「じゃあまずなんでもいいから、魔法使ってみて」
「え?」
「いつも通りでいいから」
ライネスは少し迷ったあと、頷いた。
「……わかりました」
ライネスは剣を地面に置いてから深呼吸をする。
そして――
「――火よ、我が手に宿れ」
ライネスはそう詠唱した。
すると空気中の魔力が集まり、形を成す。
――ボッと音を立てて小さな炎が手の中に湧き上がる。
だが――
次の瞬間。
炎が、不安定に揺らぎはじめた。
「っ……!」
炎がぶわっと膨れ上がったかと思うと。
制御を失いかける炎。
ライネスは必死に炎を止めようと焦り始めた時
リンが、指を軽く鳴らした。
――パチン
その瞬間、ライネスの手の中の炎が消えた。
「……なるほど」
リンは小さく呟く。
「すいません……また暴走して……」
「うーん…」
リンは首を振る。
「むしろ逆だね」
「……え?」
ライネスが驚いてこちらを見る。
「魔力量が多すぎる」
それを聞いてライネスが固まる。
「普通の人はね、魔力が“足りない”の」
リンは手をかざす。
するとそこに小さな光が生まれる。
「魔法というのは、魔力を集めて、イメージして、形にする」
「でもライネス様は――」
リンがライネスを見る。
「最初から“多すぎて崩れてしまっている”」
そう言ったのと同時に、リンの手の中で光が膨張して弾ける。
「……そんなこと」
ライネスが悔しそうに呟く。
リンは説明を続ける。
「ライネス様は作った魔力の器に対して、中身を注ぎすぎている感じ」
ライネスは言葉を失った。
「だからね」
リンは少しだけ笑いながら言う。
「ライネス様には普通のやり方は向いてないよ」
「……え?」
それに――
「まず詠唱、やめよっか」
一瞬の沈黙の後。
「…………へ?」
ライネスがかわいらしい声を出す。
ライネスの顔を見てリンが笑う。
「え、でも魔法って詠唱で――」
「それは“やり方の一つ”なだけ」
リンがさらっと言う。
「本当はね」
そう言ってリンが一歩近づく。
「魔力って、“そのまま操作できる”の」
「……魔力を操作?」
「うん」
そう言ってリンが手をかざす。
するとリンの足元に光が集まりはじめた。
ライネスは目を輝かせながらその光景を見つめる。
“魔力を操作している”
それだけが理解できた。
「普通の人はね」
リンが話し始める。
「魔力を集めて、“火になれ”って唱える」
「火の形になるように詠唱してるの」
リンの周りにある空間が、変形する。
「でも私は違う」
そう言って微笑みながら
リンは、軽く指を動かした。
「“火になる現象”を、直接作ってる」
――ボッ
という音の後
静かに、完璧な炎が空中へと放たれる。
一直線に空へと向かったその炎は、
王国内で騒ぎになるのに時間はかからなかった。
何もなかったかのように、リンは話を続ける。
「これが、魔法」
ライネスは、言葉を失った。
「……そんなの」
「できるよ。私が全部教える」
リンはあっさり言う。
「あなたならね」
ライネスの瞳が、揺れる。
ライネスは、おもむろに手を前に出す。
(炎……イメージ……)
魔力を感じる。
流れを掴む。
(火……じゃない)
(どうやって火になるのか)
自分で考える
圧縮?
回転?
手の中に集めた魔力をいろいろと試す。
そして――
「――っ!」
瞬間。
炎が生まれた。
だが。
――ゴォォォッ!!
ものすごい勢いで炎が、ねじれる。
回転し、渦を巻きはじめる。
「えっ!?」
火の竜巻。
リンはそれを見て、少しだけ笑った。
魔力の塊を意識しろと言っただけなのに、自分で掴み始めるとは…
ただ――
「惜しい」
指を鳴らす。
炎がまたもや霧散する。
ライネスがへなへなと座り込んだ。
「今のは…」
自分でも驚いているようだった。
「三重にしてた」
「……三重?」
リンは説明を続ける
「魔力の流れを感じて、いろいろ試してみたのはいいんだけど、イメージした魔力が圧縮されて、三回くらい回転されている」
ライネスはぽかんとする。
「でも普通はできないから」
リンは苦笑する。
「でも威力はすごかったでしょ?」
「……はい」
「ね?」
リンは少し楽しそうに言った。
「魔法って、楽しいでしょ?」
ライネスの中で、何かが変わる。
諦めていた。
もう魔法なんて使うことはないと思っていたのに。
“楽しい”。
「……もう一回、やります」
そして手の中に炎を作り出す。
その目は、さっきとは違っていた。
リンはそれを見て、嬉しそうに笑った。
(いいね)
ライネスは…
(やっぱり――天才だ)




