この世界は…?
意味が分からない。
ただ、辺りを照らしている光が魔法だとするならば…
あと大賢者ってなんか頭よさそう
そんなことを思いながら老人を観察していると
老人は、リンをじっと見つめながら言った
「お主“生きておるな”」
その言葉に、リンは不思議に思う。
「……当たり前でしょ」
思わず言い返す。
「さっき起きたんだから」
「いや、そういう意味ではない」
老人は静かに首を振る。
「この場所で“生きている”ことが異常なのじゃ」
「……え」
「ここ、どこなの?」
リンの問いに老人は、わずかに目を細めた。
「ダンジョンの最下層じゃ」
「……は?」
ぞくり、とした。
「……冗談でしょ」
「残念ながらな」
老人は淡々と答える。
リンは、怖くなって周囲を見渡した。
そして――
少し離れた場所に、いくつかの人影を見つけた。
「……誰、あれ」
思わず小さな声で聞く。
老人は振り返り、軽く笑った。
「気になるか」
「うん……」
普通じゃないこの暗闇になんで人がいるのだろうか。
「安心せい」
老人は、静かに言う。
「ここに縛られた者たちじゃ」
「襲ってきたりせん」
「……ほんとに?」
「少なくとも、今はな」
「今はって何!?」
思わず声が裏返る。
老人は笑った。
「まあ落ち着け」
そして、ゆっくりと告げる。
「まず理解せよ」
ここはな――
「“死んだ者たちが記録される場所”じゃ」
全く理解できない。
「……え」
「そして、あやつらは」
老人が指を向ける。
暗闇の向こうの人影。
「その記録から再現された存在」
「すでに死んだ者たちじゃ」
リンの呼吸が、止まりそうになる。
「……じゃあ」
喉が震える。
「あの人たち……」
「そうじゃ」
老人は、あっさりと言った。
「生きているわけではない」
「記録の影にすぎん」
リンは、言葉を失った。
つまりは幽霊ってこと?
ならなぜ自分はここにいるの?
あ、死んだからか。
「……じゃあ、私もやっぱり?」
恐る恐る聞く。
老人は、はっきりと首を横に振った。
「違う」
その一言。
「お主は“生きている”のじゃ」
リンの目が、見開かれる。
「ここにいる唯一の“生きた人間”」
「それが、お主じゃ」
その言葉に安心するが、自分以外が生きていないという現実に恐怖がこみあげる。
「……なんでこんなところに」
「わからん」
即答だった。
「だが事実じゃ」
リンは、ぎゅっと拳を握る。
勇気を振り絞って尋ねる。
「……出れるの?」
老人は、静かに頷く。
なんとか希望を紡ぐ
「可能性はある」
「ほんと!?」
思わず身を乗り出す。
だが。
「ただし」
その一言で、空気が変わる。
「そのためには、強くならねばならん」
「……強く?」
「ここはな」
老人は淡々と続ける。
「生きるだけでも困難な場所じゃ」
「実際、わしも最初の頃は死にかけたこともあった。」
ぞくり、とした。
リンは、唇を噛む。
思い出す。
あの感覚。
体が壊れていく感覚。
意識が消える瞬間。
「……やだ」
小さく、呟く。
「死ぬのは…やだ」
震える声。
でも。
それは本音だった。
あんなの、もう二度と味わいたくない。
「ほう」
老人が、わずかに目を細める。
「その感情を忘れるな」
「……え」
「恐れはな、弱さではない」
ゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「生きるための力じゃ」
リンは、顔を上げる。
「なら」
老人は、まっすぐリンを見た。
「強くなれ」
「生きてここを出るためにな」
リンは、しばらく何も言えなかった。
沈黙が続く。
怖い。
分からない。
逃げたい。
でも。
「……っ」
拳を握る。
老人は、ゆっくりと頷いた。
「焦らなくともよい」
そして。
「ならばまず――」
手のひらに、光を灯す。
「魔法からじゃな」
その光が、暗闇を照らしている。
その先で。
いくつかの影が、静かにこちらを見ていた。
剣を抱えて座っている男。
角が生えている少女。
他にもたくさんの人が、殺すぞと言わんばかりにこちらを見ている。
誰も、何も言わない。
まるで値踏みするようにこちらを睨む。
リンは、息を呑んだ。
でも。
もう、戻れない。
なら。
やるしかない。
この場所で。
生きてここから出た世界で、夢をかなえるために。
――少女の人生が、ここで新たに始まった。




