逆光
リンは、胸の奥にあるものに触れた。
温かいもの。
大切なもの。
消したくないもの。
でも――
「……ごめんライネス」
小さく、呟く。
リンの覚悟と呼応するように光が変わる。
優しかった光が、鋭くなる。
“無”となる光へと。
完全に復讐者に理性が芽生えている。
「……何を…する気だ……」
そう言って復讐者が襲い掛かってくる。
リンは、ゆっくりと目を開く。
その瞳から――
色が消え始めていた。
「お前を倒す」
迫ってくる復讐者に向かって一歩、踏み出す。
「その代わり――」
胸に手を当てる。
「これを、置いていく」
光が弾ける。
だがそれは、外へではない。
内側から、“何か”を燃やしている。
思い出。
感情。
温もり。
全部が、燃料になる。
ライネスが、かすれた声で言う。
「……だ……………め…」
リンは、わずかに笑う。
「大丈夫」
「絶対にライネスのことは忘れない」
「忘れるわけ…ないじゃない」
そして。
手をかざす。
復讐者へと。
静かに、告げる。
「――《逆光》」
一瞬。
世界が、白黒で塗り潰された。
音が消える。
存在が、ほどける。
復讐者の体が、崩れていく。
「……な……ぜ……」
声が、消えかかる。
リンは、静かに答える。
「それでも生きたいって思ったからだよ」
光が、すべてを飲み込む。
復讐者の輪郭が、完全に崩れる。
絶望が、ほどけていく。
最後に。
ほんの一瞬だけ。
その顔が――
穏やかに、なった。
そして。
完全に、消えた。
静寂。
崩れた空間。
その中で。
リンの体が、ぐらりと揺れる。
「……っ」
視界が、ぼやける。
何かが、抜け落ちていく。
大切だったはずの“何か”。
でも――
「……あれ」
思い出せない。
何を大事にしていたのか。
何を守りたかったのか。
胸に、ぽっかり穴が空いたような感覚。
それでも。
腕の中の温もりだけは――
ライネスの声が、震える。
「……リン……?」
それを最後にリンはその場で気を失った。
その時。
遠くで。
ティルガンが、血を吐きながら立ち上がる。
「……化け物め……」
体は限界を超えている。
だが、それでも笑っていた。
「……なるほどな」
「まさかあれを、代償にしたか」
ティルガンは声を上げて笑いだす。
「覚えておけ……」
「これで終わりではない……」
そう言って、どこかに消えていった。
王国にしばらくの静寂が訪れる。
朝日が眩しく倒れたリンの横顔を照らしていた。




