復讐者
王宮の地下の闇を抜け、男は階段を上がる。
静寂を蹴散らす足音が、薄暗い廊下に響いた。
「ほう我の存在に気づいたか、器よ」
男の声に、低く重みがあった。
見ると男の前にはリンが危険を感じて走ってきていた。
リンが立ち止まって、すぐ隣にいるライネスを守るように後ろに隠す。
彼女の顔は警戒で硬くなる。
「あなたは……誰ですか?」
リンの問いに、男はゆっくりと笑った。
「我は、この時代の魔王――ティルガンだ」
その名に、廊下の空気が一瞬凍る。
「な……」
リンの声が震える。
「だが、心配するな」
ティルガンは笑いながらリンを指さす。
「お前にはまだ選択肢がある。我と共に来れば、力を教え、守ってやろう」
リンは首を横に振った。
「……私はどこにもいかない」
そう言って、リンはライネスに微笑む。
ティルガンの目が細まる。
「なるほど。忠義か……だが、それでは話は簡単に済まぬ」
ポケットから、淡く脈打つ欠片を取り出した。
「これを使えば、お前などただの玩具でしかない。動かなくなる前に従うのだな」
ティルガンはそう言って笑った。
あれは…自分が取り込んだ物と繋がっているような気がする。
リンの胸が強く波打つ。
それでも――
ライネスを守るために、全身の力を集中する。
「……消えなさい!」
ティルガンの眉がぴくりと動く。
「なるほど、面白い。忠義の果てか……」
彼は背後に手を伸ばす。すると、空気が歪む。
淡く脈打つダンジョンコアの残滓――
それを呼び覚ましたのだ。
地面に落ちた欠片から黒い靄のようなものが沸き上がっている。
そこから、形の定まらない影が湧き上がる。
濃い黒に覆われ、赤い光が裂け目のように走る。
そして巨大な人のような形を帯びてくる。
「……復讐者だ」
ティルガンの声が低く震えた。
「コアの残滓に潜む怨念……これまでの犠牲者の怒りが、化け物となった」
「貴様が吸収しきれなかったものだ!」
復讐者は唸り、空気を震わせる。
リンを睨みつける視線には、痛みと憎しみが渦巻く。
ティルガンは満足げに笑った。
「さあ、器よ。力を使い、抗え」
そう言ってティルガンは復讐者と共にリンとライネスを囲んだ。
復讐者の影がゆらりと伸び、空間を押し潰すように迫る。
その黒い手先が、リンに伸びる――




