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動き出した計画

王宮の地下は、静まり返っていた。


 石造りの階段を降りるたび、外の喧騒が遠ざかる。


「くっくく…この国も腐ったものだ、この俺を王宮内に入れてしまうのだからな」


 やがて。


 重い扉の前で、男は足を止めた。


 扉には、幾重にも魔法陣が刻まれている。


 封印。

 遮断。

 隠蔽。


(……相変わらず、念入りだな)


 男は軽く笑う。


 そして。


 指を、扉に触れた。


 ――瞬間。


 魔法陣が、静かに歪んだ。


 本来なら侵入者を焼き尽くすはずのそれが、

 まるで“道を譲る”ようにほどけていく。


 扉が、音もなく開いた。




 中は、広い空間だった。


 灯りはない。


 だが中央に――


 淡く脈打つ“何か”がある。


 それは、水晶のようでもあり。

 肉のようでもあった。


 不気味な鼓動。


 生きているようで、死んでいる。


「……やはり残っていたか」


 男は、静かに呟いた。


 ゆっくりと歩み寄る。


「ダンジョンコアの残滓」


 それは、極めて小さい。


 本来のコアとは比べ物にならない。


 だが――


(確かに、“繋がっている”)


 男の目が細まる。


 指先をかざす。


 すると。


 微かに、反応が返る。


 脈動が、強くなる。


「……面白い」


 口元が歪む。


「完全に消えたわけではない、か」




 男の脳裏に、先ほどの光景がよぎる。


 中庭。


 少女。


 無詠唱。


 現象の直接操作。


(間違いない)


 確信する。


(あれは、“触れている側”だ)


 魔法使いではない。


 術者でもない。


(あれは、コアと同質の存在)




「……なるほどな」


 低く笑う。


「だから、あれほど自然に扱えるわけだ」


 手を下ろす。


 コアの残滓は、静かに脈打ち続ける。


「ならば――」


 男は振り返る。


 闇の奥に、誰かがいる。


 気配。


「よくやったダミアン」


 その声に、影が一つ動いた。


「はい魔王様」


 低い声。


「私が連れてきた例の少女とダンジョンコアの残滓の欠片、ですね」


「そうだ」


 男は笑いながら話し始める。


「あれは“器”として完成している」




「器……ですか」


「そうだ」


「すでにコアの力を使いこなし始めている」


 男は、わずかに笑みを浮かべる。


「この国の腐った連中では、扱いきれん」


 静かに歩き出す。


「だが、我なら話は別だ」




 影が、わずかに身じろぎする。


「……計画を進めるのですか」


 男は、立ち止まった。


 そして。


「いや」


 ゆっくりと首を振る。


「“前倒し”だ」


 その言葉に、空気が張り詰める。




「まずは観察する」


「壊れるか」


「受け入れるか」


「あるいは――」


 一瞬だけ、楽しそうに笑った。




 地下の空気が、冷える。


 コアの残滓が、わずかに脈打つ。


 まるで。


 何かを予感するように。




「準備をしろ」


 男は背を向ける。


「王宮は、すぐに騒がしくなる」




 足音が遠ざかる。


 やがて、完全に消えた。




 地下には、再び静寂が戻る。


 だが。


 その静寂は――


 嵐の前のものだった。



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