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第12話 折れた剣と、村を守れなかった悔しさ

村の朝は、静かとは言いがたかった。


 焼けた藁の匂い。

 煤のついた壁。

 泣き疲れて眠る子ども。

 痛みにうめく負傷者。

 昨日追い払ったばかりの野盗どもの残した爪痕が、村のあちこちに生々しく残っている。


 龍真は井戸端に腰を下ろし、桶の水で顔を洗った。

 冷たい水が肌を打つ。頭は冴えるが、気分は晴れない。


 追い払っただけだ。

 叩き潰したわけじゃない。

 あの手合いは、舐められたと分かればむしろ意地になって戻ってくる。しかも“頭領”とやらがいるならなおさらだ。


 水を切って立ち上がると、広場の方からエレオノーラの声が聞こえてきた。


「柵はそこだけでは意味がありません! 入口を狭め、荷車を横倒しにして通路を作ってください! 槍の代わりになる長棒はあるだけ集めて! 石でもいい、投げられる物を屋根の上へ!」


 女騎士はすでに村の中心で指揮を執っていた。

 焼け残った木柵を組み直し、荷車を簡易の barricade に変え、逃げ道と防衛線をはっきり分けている。守備隊副長という肩書きは伊達ではない。村人たちも、最初は戸惑っていたものの、今は言われるまま必死に動いていた。


 龍真が近づくと、エレオノーラは地図代わりの土の上の線を指でなぞりながら言った。


「北側の入口が一番危ない。昨日の連中が引いたのもあちらです。ここを抜かれたら広場まで一直線になる」

「分かってる」

「なら、あなたはそこを」


 彼女は顔を上げ、龍真を見る。


「……行くつもりだったのでしょう」

「当たり前だ」


 龍真は短く返した。


 野盗どもは周辺の村を計画的に襲っている。

 昨日老人から聞いた話では、食糧だけでなく、若い娘や働き手も狙われているという。略奪というより“人狩り”だ。村を荒らすついでじゃない。最初からそうするつもりで来ている。


 胸くそ悪い。

 それだけで十分だった。


「本当なら、今すぐ山へ乗り込んで根城ごと叩き潰してえところだが」

「ええ」


 エレオノーラが淡々と応じる。


「ですが、今の村を空ければその間に逆側から襲われる。敵の規模が不明な以上、まずは守りを固めるしかありません」

「分かってる。だから残ってる」


 龍真がそう言うと、エレオノーラはほんの少しだけ口元を和らげた。


「最近、ちゃんと我慢を覚えましたね」

「誰のせいだと思ってる」

「私のおかげでしょう」

「面倒な女だな」

「今さらです」


 そんなやり取りを交わしつつも、二人の目は同じ方向を見ている。

 村を守る。

 その一点だけは一致していた。


 広場の端では、リリィとノアが怪我人の手当てに追われていた。


「いたっ、いたたたっ!」

「す、すみません! でも消毒しないともっと痛いので!」

「そんな笑顔で言うなよ嬢ちゃん!」

「笑ってません、これ半泣きです!」


 リリィは布を巻く手を震わせながらも、昨日よりはずっとましに動いている。

 最初は血を見るだけで顔を真っ青にしていたのに、今では悲鳴を上げる村人へ「暴れないでください!」と逆に叱るくらいの余裕が出ていた。


 ノアはそんな彼女の横で、年寄りへ水を飲ませ、子どもの擦り傷へ薬草をあて、村の女たちに落ち着いた声で指示を出している。ミアより一歩引いて見えるが、こういう時の強さは姉ならではだ。


 そしてそのミアはというと、村の子どもたちに囲まれていた。


「ほ、ほら、怖くないよ。大丈夫。龍真さんがいるから」

「りゅーまさんって強いの?」

「すごく強いよ! ちょっと怖いけど!」

「怖いの!?」

「ちょっとだけ! でも優しいから平気!」


 そこへ龍真が通りかかると、子どもたちが一斉にそちらを見る。

 何人かはぴゃっと親の後ろへ隠れた。


 龍真は眉を寄せた。


「おい」

「だ、だって本当だもん」

「お前、余計なこと吹き込んでねえだろうな」

「吹き込んでません! ちゃんと説明してます!」

「どう説明した」

「強くて怖くてでも優しくて、悪い人をやっつける人だって」

「怖いが余計なんだよ」


 真顔で返す龍真を見て、子どもの一人が吹き出した。

 その笑いにつられるように、周囲の空気が少しだけ柔らかくなる。昨日の襲撃以来、村に初めてほんの少しだけ“普通”が戻った瞬間だった。


 しかし、その空気は長くは続かなかった。


 昼を過ぎ、日が西へ傾き始めた頃。

 村の見張り台代わりに使っていた納屋の屋根から、若い村人が叫んだ。


「北の道に土煙だ!」

「何人だ!?」

「多い! 昨日より多いぞ!」


 広場の空気が一気に張る。


 エレオノーラは即座に指示を飛ばした。


「子どもと老人は中央の井戸小屋へ! 動ける男は柵の後ろ! 弓の代わりになる石を持ちなさい!」

「リリィ! ノア! 負傷者をまとめろ!」

「ミアは子どもを!」

「はい!」


 全員が動き出す。

 龍真は北口へ向かいながら、腰の異世界剣の柄を握った。


 嫌な予感はしていた。

 だが、思ったより早い。

 昨日の敗走から一日も経っていない。つまりあいつらは、最初からこの村を徹底的に食い潰すつもりで戻ってきたのだ。


 北口の簡易 barricade の向こう、街道の先に土煙が立ち上る。


 やがて姿を現したのは、昨日の野盗どもより一回り多い集団だった。

 十人、十五人、いや二十近い。

 粗末な武装に混じって、鎖帷子のようなものを身に着けた男もいる。寄せ集めの賊というより、頭目のもとである程度統率された群れだ。


 そして、その中央にいた男を見た瞬間、龍真の目が細くなった。


 でかい。


 馬から降りた瞬間、その巨体だけで周囲の賊どもとは明らかに格が違った。

 背丈も肩幅も、普通の男の一回り以上。顔には幾筋もの傷。片目の上から頬へかけて古い裂傷が走り、鼻は潰れ、顎には無精髭。何より目つきが違う。獲物を前にした獣じゃない。人を殺すことに慣れきった目だ。


 その肩に担いでいるのは、大太刀というより鉄塊だった。

 分厚く、長く、無骨。斬るための刃というより、叩き潰すための塊。

 だがその重さを、男は苦もなく担いでいる。


 村人たちの間から、怯えた囁きが漏れる。


「頭領だ……」

「あれが……」

「終わりだ……」


 エレオノーラが龍真の横へ並ぶ。


「あれが頭目……」

「ただの山賊じゃねえな」

「ええ。戦場崩れか、傭兵上がり……少なくとも素人ではありません」


 巨漢の頭目は、村を見回してにやりと笑った。


「へえ。昨日の雑魚どもを追い払ったと思ったら、ちゃんと柵まで作りやがったか」


 声まで太い。

 しかも余裕がある。


「だがなぁ、そういうのは“守るもんが少しはある奴”がやることだ」


 大剣の切っ先が、村を指す。


「てめえらみてえな貧乏村は、食われる側で十分なんだよ」


 村人たちが身を竦める。

 その前へ、龍真が一歩出た。


「うるせえな」


 低い声が、風に乗って届く。


 頭目の片眉が上がる。


「……あ?」

「貧乏だろうが何だろうが、泣いてる村荒らして偉そうにしてる時点で、てめえは外道だ」


 頭目は数秒、龍真を見つめた。

 そして喉の奥で笑う。


「おもしれえ面してんな、旅人」

「旅人じゃねえ。流れ者だ」

「どう違う」

「筋を通す気があるかどうかだ」

「はっ」


 頭目は肩の大剣をゆっくり下ろした。


「だったら筋の通し方、教えてやるよ。弱ぇ奴は奪われる。強ぇ奴が持ってく。これが世の中だ」

「てめえの世の中の話なんざ聞いてねえ」


 龍真も剣を抜く。


 異世界で拾い、ここまで一緒に戦ってきた長剣。

 手に馴染んではいる。だが相手の大剣と比べれば、耐久も重さも不安がある。まともに打ち合うのは得策じゃない。


 だが、やるしかない。


「エレオノーラ」

「ええ。村は私が守る」

「こいつは俺がやる」


 女騎士は一瞬だけ龍真を見て、それから頷いた。


「死なないでください」

「そっちもな」


 頭目が大剣を肩へ担ぎ直し、にやりと笑う。


「来いよ、流れ者」


 地を蹴ったのは、ほぼ同時だった。


 頭目の初撃は、速くはない。

 だが、重い。あまりにも重い。

 大上段から振り下ろされた一撃を龍真は正面で受けず、斜めに流す。だがそれでも腕へびりっとした衝撃が走った。


「っ……!」


 重いだけじゃない。

 振りが荒く見えて、芯がぶれていない。実戦を潜ってきた軌道だ。


 頭目が笑う。


「いい反応だなぁ!」


 二撃目。横薙ぎ。

 龍真は身を沈めてかわし、懐へ入る。脇腹を狙って峰を叩き込む。だが、浅い。革と筋肉の厚みで威力が殺される。


 頭目はむしろそれを待っていたように肘を振り下ろしてきた。

 龍真は肩で受け流しつつ後ろへ跳ぶ。距離を切る。


 ――こいつ、慣れてやがる。


 体格任せの鈍物じゃない。

 重さと経験で押すタイプだ。


 一方で、周囲でも戦いが始まっていた。


 野盗どもが柵へ殺到し、村人たちが石と棒で必死に抵抗する。

 エレオノーラはその正面へ立ち、剣を振るって賊どもの侵入を防いでいた。彼女の背後ではミアが子どもを井戸小屋へ押し込み、ノアが逃げ遅れた老女を支える。リリィは怪我人を引きずるように安全な場所へ移していた。


「こっちです、早く!」

「押さないで! 一人ずつ!」

「血が止まらない……っ、布、布どこ……!」


 全員が、自分の役目を果たしている。

 だからこそ、龍真は目の前の巨漢へ集中できた。


 再び踏み込む。

 今度は頭目の手首を狙う。

 だが大剣が予想以上に早く戻る。刃と刃が激しくぶつかり、火花が散る。


 ぎん、と嫌な音。


 龍真の眉がわずかに動いた。

 剣に負荷がかかっている。相手の武器はただ重いだけじゃない。鉄の質そのものが違うのか、こちらの長剣が少しずつ悲鳴を上げている。


「どうした、流れ者!」


 頭目が嗤う。


「受けりゃ折れる、避けりゃ村が潰れる。いい立場だなぁ!」


 その言葉通りだった。


 頭目は龍真だけを狙ってはいない。

 わざと村の家や、逃げる村人の方へも大剣を振ろうとする。

 庇わざるを得ない角度を選んでいる。戦い方が汚い。だが、それだけに厄介だ。


 エレオノーラが別方向から叫ぶ。


「水戸龍真! 無理に受けるな!」

「分かってる!」


 だが、その瞬間。


 柵の一部が破られた。


 野盗の一人がそこから中へ滑り込み、泣いていた小さな女の子の腕を掴む。


「こいつは売れそうだ!」


 その悲鳴に、龍真の身体が反射で動いた。


 頭目の大剣が、ちょうどその子ごと薙ぎ払える角度で振りかぶられる。

 避ければ、子どもが死ぬ。


 なら、受けるしかない。


 龍真は地を蹴り、割って入った。


 大剣と長剣が、真正面から激突する。


 耳障りな金属音。

 腕が痺れる。肩が軋む。膝が沈む。


 次の瞬間――


 ぱきん、と。


 あまりに乾いた音がした。


 龍真の手の中で、長剣が根元から折れた。


「っ……!」


 周囲の時間が一瞬止まったように感じた。


 折れた刃がくるくると宙を舞い、土へ突き刺さる。

 頭目の大剣はそのまま龍真の肩口へ食い込もうとする。龍真は半身をずらして致命を避けたが、それでも衝撃で吹き飛ばされ、地面を滑った。


「龍真さん!」

「水戸龍真!」


 ミアとエレオノーラの声が重なる。


 頭目は、勝ち誇ったように笑った。


「ははっ! 折れたなぁ!」


 龍真は地面へ片膝をついたまま、折れた剣の柄だけになった手元を見る。

 この世界へ来てから、ずっと使ってきた剣だ。

 拾い物ではあったが、ここまで何度も命を預けてきた。


 それが、今、終わった。


 だが感傷に浸っている暇はない。


 目の前には、まだ巨漢がいる。

 後ろには、守るべき村がある。


「武器がねえなら終わりだろうが!」


 頭目が大剣を振り上げて迫る。


 龍真は立ち上がった。


 柄だけになった剣を放り捨て、空いた両手を軽く開く。


「……誰がだ」


「は?」


「剣が折れたくらいで、終わるほど安い渡世してねえよ」


 次の瞬間、龍真は素手で踏み込んだ。


 大剣の間合いへ、あえて入る。

 振り下ろしの起こりを読み、半歩で懐へ潜る。頭目の肘へ掌を当てて軌道を逸らし、膝を腹へ叩き込む。


「ぐっ!?」


 今度は頭目が目を見開く。

 素手でここまで入ってくるとは思っていなかったのだろう。


 龍真はさらに肩でぶつかり、体勢を崩し、足を払う。巨体がぐらりと傾く。完全には倒れない。だが十分だ。


「今だ! 中へ押し返せ!」


 エレオノーラが叫び、村人たちが一斉に棒や石で賊どもを叩き返す。

 ミアとノアも子どもをさらに奥へ逃がし、リリィが泣き叫ぶ母親へ「まだ終わってません! 立ってください!」と叫ぶ。


 龍真は頭目へもう一歩踏み込み、拳を鳩尾へ叩き込む。

 頭目はたまらず数歩下がった。


 完全な勝ちではない。

 だが押し返した。


 頭目は荒い息を吐きながら、折れた剣の残骸と龍真を交互に見る。


「……面白えな、流れ者」

「嬉しくねえ褒め言葉だ」

「今日はこの辺で勘弁してやる」


 頭目は口の端を歪め、唾を吐いた。


「だが次はねえ。てめえ、その剣じゃ俺に勝てねえ」

「次はてめえの首が飛ぶ番だ」

「言うじゃねえか」


 頭目は大剣を肩へ担ぎ、村の外れへ下がる。

 周囲の野盗どもも、それを合図に撤退し始めた。


「退くぞ!」

「頭領! でも!」

「いいから退け! この村はまだ逃げねえ!」


 捨て台詞を残し、野盗どもは再び山の方角へ消えていった。


 今度こそ、村は一応守られた。


 だが、空気に漂うのは勝利ではない。

 ぎりぎり凌いだ、という疲弊だけだった。


 龍真はその場に立ったまま、土へ刺さった折れた刃を見る。


 折れた。

 守るために受けた結果だ。後悔はない。

 だが、このままでは次は守り切れない。頭目の言う通り、あの大剣を止められる武器がなければ、次はもっと多くの血が流れる。


「龍真さん!」


 ミアが駆け寄り、顔を覗き込む。


「怪我してない!?」

「肩が少し痺れてるだけだ」

「それ怪我じゃないですか!」

「大したことねえ」


 ノアも近づいてきて、心配そうに龍真の肩を見る。


「服、裂けてる……」

「肉まではいってねえ」


 エレオノーラがそれを確認し、ようやく息を吐いた。


「無茶をしすぎです」

「お互い様だろ」

「あなたほどではありません」

「だろうな」


 リリィは折れた剣を拾い上げ、その断面を見て顔を曇らせた。


「これ、もう……」

「使えねえな」


 龍真は短く言った。


 村長をはじめ、村人たちが震える足で近づいてくる。

 礼を言いたいのだろうが、その前に顔色が悪い。頭目の襲撃を目の前で見てしまったのだ。絶望がまだ拭えていない。


「す、すまねえ……」


 白髪の老人が、折れた剣を見て泣きそうな顔になった。


「旅の旦那にこんな……」

「気にするな。守るために折れたなら安いもんだ」

「でも、このままじゃ……あやつ、また来る」


 その言葉に、村人たちの顔がさらに曇る。


 龍真は無言で剣の柄を見下ろした。

 否定はできない。

 このままじゃ次は守りきれねえ。体術だけでやれなくはないが、相手の武器と数があれでは限度がある。


 その時だった。


 村の端にいた、やけに年老いた老人が、おそるおそる前へ出てきた。背中は曲がり、片目は白く濁っている。だが、その目には妙な決意があった。


「……ある」


 かすれた声だった。


「使えるもんが、ひとつだけ……この村に……」


 全員の視線が集まる。


「村の奥の祠じゃ」


 老人は唾を飲み、震える声で続けた。


「昔から、呪われた剣が封じられておる」


 場が静まる。


 リリィが小さく聞き返した。


「呪われた……剣?」

「近づく者に不幸をもたらし、村に災いを呼ぶとされておる……。代々、祟り物として祀ってきた。戦の頃に流れ着いたとも、鬼を斬った剣だとも、人を狂わせた刀だとも……話はいろいろあるが、とにかく誰も抜かん。抜いてはならん、と」

「そんなもんが、あるなら最初から言えよ」


 龍真が低く言うと、老人は肩を震わせた。


「言えるか……! あんなもの、村にあるだけで皆怖れておる! だが、今のままでは……」


 エレオノーラが真面目な顔で問いかける。


「実際に、その剣を使った者は?」

「おらん。少なくとも、わしの知る限りは……」

「つまり、本当に呪われているかどうかも不明、ということですね」

「だが、誰も近づかん! 近づきたくもない!」


 村人たちも一様に青ざめていた。

 祠、呪い、祟り。そういうものを本気で怖れている顔だ。


 龍真は折れた剣の柄を見下ろし、それから夜の向こうに見える森の奥を見た。

 野盗頭目の大剣。

 次は守り切れないという確信。

 それに加えて“呪われた剣”。


 普通なら避ける。

 関わらない。

 だが、そういう性分じゃない。


「……呪いだろうが何だろうが」


 龍真は静かに言った。


「使えるもんなら使うしかねえ」


 村人たちがざわめく。


「よ、よせ旦那!」

「あれに触れたら終わりじゃ!」

「村に災いが――」


 龍真はその声を手で制した。


「呪われた剣が村にあるのが厄介なんだろ」


 低く、だがはっきり言い切る。


「なら、俺が持っていきゃ済む話だ」


 ぴたり、と場が止まった。


 村人たちは言葉を失う。

 ミアが目を見開き、ノアは不安そうに龍真を見る。

 リリィは「またとんでもないことを真顔で……」という顔をしていた。

 エレオノーラだけが、じっと龍真の横顔を見つめている。


 止めるべきか。

 だが、この男は止めても行く。

 そのことを、彼女はもう知っていた。


「……行くのですね」

「ああ」

「一人で?」

「そのつもりだ」


 エレオノーラは短く息を吐いた。


「面倒な男ですね」

「今さらだろ」

「ええ、今さらです」


 日が沈みきる前に、村の奥の森は黒く口を開け始めていた。

 その先に祠がある。

 呪われた剣が封じられているという、古い祟り場。


 龍真は折れた剣の柄を地面へ置き、静かに踵を返した。


 次に必要なのは、守り切るための刃だ。


 その刃が呪われていようが何だろうが、背負えるなら背負う。

 それが水戸龍真という男だった。

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