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凪が、学校から居なくなるかもしれない。
……はっ。わたしってどうしてこんなに醜いことを考えるかなぁ?
わたしが凪を振ったから、凪はカナダに逃げるんじゃないか、なんて。
そんなことあるわけないのに。
「最悪の場合、原稿だけはネットで渡すこともできるけど、どうする?」
どうするって凪が、正面からわたしを見ていた。
「どうしてカナダに?」
「お婆様が一人ぼっちに見えたから。学校ならそこから通えばいいし」
「信じられないなぁ」
ダメ。今しゃべったら、すごく嫌な奴として終わっちゃう。
「凪の演劇に対する思いはその程度だったの?」
「好きに言えばいいし、好きに思ってくれてかまわないよ。劇場部を放ってカナダに行くことが逃げだととらわれるなら、それでもいいんだ」
くっそう。涙が出てきやがる。
「いち花は? 劇場部のことが泣くほど好きなのに、三月で終わっちゃっても納得できるの?」
そんな、依存症みたいに言わないでよ。わたしだってつらいんだよ。
「ちなみに、正月に電話したことは関係ないから」
どうしてそんなこと、今言うの?
三人はそれてもいいわけ? ねぇ、陽稀、蓮。仁科くん。
どうして誰もなにも言ってくれないの?
このままだとわたし、悔しくて仕方ないよ。
どうして凪は、失恋の復讐にわたしの大切なものを二つも取り上げるの?
劇場部と、凪の姿を見られたら、それだけで満足だったのに。
どうして。
わたしは泣き崩れてしまった。
蓮がしゃがみ込んで背中をなでてくれる。
仁科くんがペットボトルの水を差し出してくれた。
「そんなの自業自得なんじゃないの?」
ねぇ、陽稀はどうしてそこでそんなこと言うの? 誰に対する言葉なの?
「なんで? っていうか、なにに対しての自業自得?」
「凪は自分で逃げると言っただろう? それは、いち花に振られたせいで逃げるってことだよね。そんなのお婆様からしたら嬉しくないんじゃない? せめて」
ボスっと鈍い音がして、陽稀が凪の腹をぐうで殴ってた。
「少なくとも、三月公演まで日本にいるべきなんじゃない? つまらないプライドをすててさぁ」
「いってぇ」
腹を抱えてうずくまった凪を見ていられない。
陽稀はどうしてそこまでわかってるの?
いくらおさななじみでも、そういうのは言わないんじゃないの?
「じゃあせめて、いち花の恋人に会わせてください。それで、気持ちにケリつけるから。三月までは日本にいるから。だから」
「……わかった。とりあえず二月公演まで待って欲しい。二月公演が終わったら、話し合いの場をもうけるから」
なんてことを約束してしまったのだろう。でもこれで、もう後戻りできない。
つづく




