表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/56

9ー5

 今回はおじさん役だった。凪らしい、すがすがしいほど正直者でお人好しのおじさんだった。


 それにしても、蓮って回を重ねるほどに悪女役が板についてきている。


 一方の陽稀は安定のモブ感だよね。 


 さて。それぞれの役割がはっきりしてきたところで、少しずつわだかまりがあったりしつつある。


 そう、役に食われすぎて、奔放に役を演じることが難しくなっているのだ。


 そのことを、凪に聞いてみた。


「やっぱりいち花もそう思う? きみはともかく、蓮だよね。もっと男の役もやらせたいところなんだ」


 たとえ大学生になったら演劇を辞めてしまったとしても。


 この経験はきっと将来、なにかの役に立つはずだ。


 だからこそ、かぎられた回数の芝居を全力で演じたい。


「一月公演では、ぼくはかたりに徹したいと思う」

「うん。それでもいいよ。凪はやっぱり裏方もできる人だから」


 こんな風に演劇論を戦わせることも、もうそんなにないだろう。


 三年生になったら、それこそ受験勉強で演劇どころではなくなってしまうだろうから。


「いち花、ちょっといい?」


 凪に手招きされて、さらに近づく。


「ぼく、いち花のことを好きになったかもしれないんだ。どうしよう」


 はあっ!? どうしようって、わたしがどうしようだよ。


「ほら、役ごとに変身できるきみのことを、もっとたくさん知りたくなったんだ」

「……それは、その好きはわたしの知ってる好きとは違うよ。ややこしいこと言わないで欲しいな」


 びっくりしたじゃん。


 凪がわたしのことを好きだなんて、ないない。


 だから、この思いを封印していられるんだから。


 あっぶなかった。うっかり赤面してたんじゃないかな?


「凪はずるいな」

「なんで?」


 ずるいよ、凪は。 


「だって、凪は男の子だもん。わたしだけ女子っていうのはすっごいプレッシャーなんだよ?」


 思いを封印しなきゃならないほどに、苦しいんだぞ。


 それなのに、簡単に好きとか言わないでよ。苦しいんだもん。絶対にむくわれないんだもん。


 そのくらいわかっているよ。


「いち花、なんて言って欲しい? 今」

「そうだな。よくできました、とか」

「よくできました。花丸をあげましょう」


 ありえないほど棒読みなんですけど。

 

 いつか、思い出になるのかな?


 劇場部のことも、お芝居をしていたことも。ああ、若かったな。なつかしいな。恋していたなって、思い出すのかな?


 今はまだ、思い出にしたくない。


 気持ちを封印したとしても、なかったことにはしないからね。


     つづく



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ