9ー5
今回はおじさん役だった。凪らしい、すがすがしいほど正直者でお人好しのおじさんだった。
それにしても、蓮って回を重ねるほどに悪女役が板についてきている。
一方の陽稀は安定のモブ感だよね。
さて。それぞれの役割がはっきりしてきたところで、少しずつわだかまりがあったりしつつある。
そう、役に食われすぎて、奔放に役を演じることが難しくなっているのだ。
そのことを、凪に聞いてみた。
「やっぱりいち花もそう思う? きみはともかく、蓮だよね。もっと男の役もやらせたいところなんだ」
たとえ大学生になったら演劇を辞めてしまったとしても。
この経験はきっと将来、なにかの役に立つはずだ。
だからこそ、かぎられた回数の芝居を全力で演じたい。
「一月公演では、ぼくはかたりに徹したいと思う」
「うん。それでもいいよ。凪はやっぱり裏方もできる人だから」
こんな風に演劇論を戦わせることも、もうそんなにないだろう。
三年生になったら、それこそ受験勉強で演劇どころではなくなってしまうだろうから。
「いち花、ちょっといい?」
凪に手招きされて、さらに近づく。
「ぼく、いち花のことを好きになったかもしれないんだ。どうしよう」
はあっ!? どうしようって、わたしがどうしようだよ。
「ほら、役ごとに変身できるきみのことを、もっとたくさん知りたくなったんだ」
「……それは、その好きはわたしの知ってる好きとは違うよ。ややこしいこと言わないで欲しいな」
びっくりしたじゃん。
凪がわたしのことを好きだなんて、ないない。
だから、この思いを封印していられるんだから。
あっぶなかった。うっかり赤面してたんじゃないかな?
「凪はずるいな」
「なんで?」
ずるいよ、凪は。
「だって、凪は男の子だもん。わたしだけ女子っていうのはすっごいプレッシャーなんだよ?」
思いを封印しなきゃならないほどに、苦しいんだぞ。
それなのに、簡単に好きとか言わないでよ。苦しいんだもん。絶対にむくわれないんだもん。
そのくらいわかっているよ。
「いち花、なんて言って欲しい? 今」
「そうだな。よくできました、とか」
「よくできました。花丸をあげましょう」
ありえないほど棒読みなんですけど。
いつか、思い出になるのかな?
劇場部のことも、お芝居をしていたことも。ああ、若かったな。なつかしいな。恋していたなって、思い出すのかな?
今はまだ、思い出にしたくない。
気持ちを封印したとしても、なかったことにはしないからね。
つづく




