9ー1
十二月に入ると、さすがに暖冬でも空気が冷たくなって、空咳が出たりする。
喉にはそれなりに気を使っているつもりでも、寒さには勝てないよね。
思えばあっという間に十二月まできてしまった。
一年生の時は、四回しか公演していなかったから、今年は本当に目まぐるしくお芝居している。
「いち花、キスチョコあげる」
「へっ!?」
凪からいきなり言われたから、声が裏返った。
「昨日親父がパチンコでもらってきたやつだけど、いい?」
「ああ、そう? ならもらうわよ、もちろん」
嫌だ、凪の口からキスチョコなんてでてきたから、胸が高鳴っている。
意識しないようにしているけど、やっぱり意識しちゃうな。
十一月公演の後のうちあげで、陽稀から気まずい告白を受けてから、みんなとはどうもぎくしゃくしちゃってる。
ドウカシテルゾ、ワタシ。
劇場部の部長として、残り四回の公演を終えるまでしっかりしなくちゃ。
よく、新入生を入れないのか聞かれることがあるんだけど、普通の子は毎月公演があるって聞くと嫌な顔するんだよね。
普通に演劇部の方がいいんだって。
凪からもらったキスチョコをひとつ、口の中で転がすように味わう。ほんのりとした香料とあまいチョコのまろやかさがちょうどいい。
「凪も食べる?」
なんかじっと見られてるなと思ったからそう聞いただけなのに、凪はまた、斜め上から言葉を投げてくる。
「いいよ。ぼく、あまいの苦手だし。親父もいち花のためにチョコもらってきたんだし。それよりさ」
それよりさ、の後、少し間が空いた。
「いち花って女の子だったんだな」
……さすがにそれは失礼ってもんでしょうよ。あんたわたしのことを少年だと思って接してきたのかいっ!?
「そうだよ。わたしは産まれた時から女の子だよ」
「なんで気づかなかったんだろう? ああ、そうか。蓮が女の子の役を演じるから勘違いしてたのか」
それはまたひどい勘違いですこと。
それにならうと、わたしが王子役を演じたから男の子だと思ったってことであってる?
「もう、しっかりしてよ、凪。あとたったの四公演でわたしたちの劇場部はおしまいなんだよ?」
すぐに終わりってわけじゃないけど、新入部員もいないし、気づいたら自然消滅なんだろうな。
「わかってる。だからこそ、満を持して書きたいものがある。最後まで付き合ってくれるよな?」
「うん。いいよ」
そこに、男女のむつごとが含まれていないとわかっているからこその快諾。
わたしは凪が好き。
斜め上からの切り口も、勘違いばっかりしているおっちょこちょいなところも、変なタイミングでお人好しなところも、全部好き。
だから、最後まで書いて欲しい。
あなたの専属役者になりたい。
そんな風に言ったら、迷惑ですか?
つづく




