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8ー5

 ツバメの真面目さと、王子の自己満足の強さに、子供の頃こんなに意味もなく他人に親切な人間なんているわけない、と泣いた覚えがある。


 それから十年ほどたって、『しあわせの王子』をオマージュした作品に関わった自分が不思議でたまらない。


 子供の頃はあんなに王子のことを嫌っていたのに、今では王子の優しさが身にしみる。むしろこういう人が野放図にされていたら保護してあげたくなるほどだ。


 ツバメにはすごくつらい仕打ちだったかもしれないけれど、凪のおかげで胸がすっとした。


 やっぱり凪は劇場部内で一番のハッピーエンドマニアだ。

 

 そのことが誇らしいと思う。


 凪は、特別なんだと思う。


 ……好きになってしまったかもしれない。


 でも、言わない。


 おさななじみで今さら感あるし、なにより凪好みの女じゃないからだ。


 凪はもっと、あざとくふわっとした女の子が好きだ。あざといのがわかった上で好きになる人だ。だから長つづきしない。


 そのことを指摘するつもりもない。


「凪はやめておけよ」


 打ち上げのさなか、陽稀にそんな風に言われた。


「なんのこと?」

「凪を好きになっても返ってこないぞ」

「だから、なんのこと?」


 陽稀の癖に生意気言うからとぼけた。


「いち花は俺のことを好きなままでいて欲しかったんだけどな」

「秒で振った癖に」

「あの頃は子供だったんだよ。だから、俺と付き合わない?」

「付き合わない。陽稀だけじゃなく、誰とも付き合わない。受験勉強も始めたし、そんなつもりじゃないから」

「つまんねぇ奴」

「べぇ〜だっ!!」


 なにしてるのって、凪にすごい顔してるのを見られてしまった。恥ずかしい。


「変顔部だったっけ?」

「劇場部だもん」


 それから。

 

「凪、嫌い」


 短く言ったら、目頭が熱くなってきた。


 凪も傷ついた顔してるし。もぅっ。


「嘘だよ、凪」

「よかった。ぼく、いち花に嫌われるようなことをしたかと思った」

「そんなわけないよ」


 むしろその逆だからたちが悪いんだ。


 凪は少しだけ、ツバメを巻き込んだ王子様に似ているのかもしれない。


 ツバメの方に似ているような気もする。


 わたしは意地悪で、凪を困らせてしまった。


「打ち上げなのに泣かないでよ」

「……うん」


 短く答えることだけで精一杯だった。


     つづく


 

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